決め手となったのは志倉千代丸氏の熱さ!?

 2013年9月6日(金)に発表された、浅田誠氏のMAGES.への入社の報。これを受けてファミ通.comでは浅田氏に直撃インタビューを敢行。前職となるケイブ時代での活動内容から、今後の活動、シューティングゲームへの想いについてたっぷり語ってもらった。

「できなかったことにチャレンジできるかなと」MAGES.浅田誠氏に直撃インタビュー_01
■浅田 誠氏
株式会社ケイブにてゲーム開発部部長を経て執行役員を務める。Xbox 360事業立ち上げを行い、同社退社までXbox 360向けに発売されたすべてのゲームタイトルの作品でプロデューサーとして参加。2013年6月30日付で退社。2013年7月1日付で株式会社MAGES.ゲーム事業部へプロデューサーとして入社。現在、マイクロソフトの次世代機Xbox One向けに新規タイトルを鋭意開発中。
「できなかったことにチャレンジできるかなと」MAGES.浅田誠氏に直撃インタビュー_02

――まずは浅田さんがケイブ在籍中、どんな活動をされていたのかを伺えればと思います。
浅田誠(以下、浅田) ケイブに在籍したのは約5年間で、Xbox 360への参入から始めました。5年のあいだにゲーム事業部の部長をやり、その後役員にもなりました。会社の経営側と制作という二足のわらじを履きながらやっていた状態ですね(笑)。Xbox 360では自分のプロデュース作品として12~13本出したのかな? 5年間で12~13本というのは、相当ペースが早かったのかなと思っています。自分の担当した作品は、ほぼXbox 360用ソフトだったので、日本マイクロソフト(以下、MS)さんとはけっこうガッチリやらせていただいたという感じですね。

――ケイブさんの開発日誌ブログで、2012年8月の段階で退社を決められていたということが綴られていましたが、退社を決意したきっかけというのは何だったのでしょう? またなぜこんなにも退社までに時間が空いたのでしょうか?
浅田 ケイブ自身がコンシューマーの開発を一旦お休みするということになったのが大きなきっかけだったと思います。当時はソーシャルゲームが当たっていて、コンシューマーゲームとは比較にならないぐらい毎月の売上が大きかったんです。そうした中で、会社自身の方向性として、ゲームやエンターテインメントを作るということはそのままに、ただその土俵を一旦ソーシャルゲームやスマートフォンに移しましょうということになったんですね。自分も当時は経営側にいたのでその考えかたは間違っていないと思いました。世の中のトレンドがソーシャルゲームやスマートフォンのゲームだったので、反対する理由もとくになかったですしね。もちろん、そこへ至るまでに何度も会議をくり返して、議論を続けて出した結論です。事業の転換期って好調なときにやめるかやめないかの判断をしたほうがいいと全体的に判断をしていました。売上が縮小したりする前に、事業が黒字の段階のうちに売上が伸びているところに乗り換えたほうがいいんじゃないかと。ただ、自分自身の考えとして、一度休止してしまうとコンシューマーゲームで積み上げてきたものが全部ゼロになってしまう気がして、それはもったいないなと思ったんです。ソーシャルゲームやスマートフォンが嫌というわけではなく、自分自身はコンシューマーゲームをやり続けたいという気持ちがあったので、会社には(2012年)5月にXbox 360で出した『虫姫さま』という作品を機に退職したいと申し出を入れました。ただ、引き継ぎなどにけっこう時間がかかってしまって、8月になったころに、新しいタイトル(『怒首領蜂最大往生』)をXbox 360で出すということになったんです。開発までの契約やら交渉を私がやっていたのも大きかったのですが、個人的にはこの契約関係を終わらせたら退職、と道筋を決めていました。ですが、当時長年いっしょにやってきた池田さんと最終的な議論をして私が担当する最後の作品としてやることになりました。その後、社長に退職の希望を伝え認めてもらえたので正式な退職が決まりました。

――最後のタイトルを見届けてからの発表ということだったんですね。
浅田 実質、残務作業が終わったのが(2013年)6月20日ぐらいでしたね。そのころに引き継ぎなどをすべて終わらせて6月30日に退社して、7月1日からMAGES.に来ました(笑)。有給とかけっこう残っていたので、まわりの人たちは「少し休んでリフレッシュしたら?」と勧められましたがちょうど時期的に次世代機がロンチする時期が近づいてる中で、2ヵ月、3ヵ月と休んで遅れを取ってしまうのは嫌だったんでそれなら土日休んで、そのまま月曜日から出社という流れでいいだろうと(笑)。

――ケイブを辞めて、MAGES.へ入社するに至った経緯はどんなものだったのでしょう?
浅田 ケイブに「辞めます」と言ったころから、ちょこちょこと近しい人たちには辞めることを伝えていて、そういうことはちょこちょこ漏れたりするじゃないですか(笑)。それでいろいろな会社さんから「ウチに来ない?」と誘っていただいたりして。いくつか選択肢はあったんですけれど、いちばん志倉さんが熱かったんですよ。志倉さんの話している内容がおもしろくて、入ったらいろいろなことができるんじゃないのかな、というところがMAGES.さんにお世話になろうと思った理由ですね。

――決め手は志倉さんの熱量だったわけですね。
浅田 そうですね。みんなが知っている志倉さんと、素で向き合って話しているときの志倉さんってだいぶ違うと思うんですよ。皆さんの前で見せるノリのいい感じももちろん持ってはいるんですけど、芯にすごく熱いものがあって、こういう人が社長をやっている会社だったらきっとおもしろいだろうなと感じたんです。また志倉さんはけっこう大きいことを言うんですけれど、いかにも自分は実現できるぞっていう感じの自信満々な雰囲気なんですよ。そう言われると、この人だったらできそうだなって感じちゃいますし、何よりいっしょに働いてみたいなって思いましたね。あとは入る前から社長でありながらイチバン仕事をしていると聞いていたので、どれだけ仕事をしているのか気になっていました(笑)。自分もハードなスケジュールは……嫌いじゃないので(苦笑)。でもそれよりもっとハードな状態なのかなぁと。たしかに仕事の話を聞いてみるとホントにスケジュールがパンパンなんですよね。だから、個人的には志倉さんに「お前、働きすぎだよ」って言われたいな、というのはありますね(笑)。

――ちなみに、浅田さんが持っているMAGES.のイメージというのは?
浅田 すごくいろいろなことをやっているイメージですね。5pb.時代から苦労されているところを見ていたのですが、あっという間にMAGES.という大きな会社になって「(成長が)早いなー!」と思っていました(笑)。とかく『シュタインズ・ゲート』がヒットしてからの展開は凄まじかったですよね。志倉さんの手腕なのか、会社の規模がすごく大きくなって、やっていることも大きくなっていった印象です。志倉さんとお話をさせていただいたときに、MAGES.は現在アドベンチャーゲームが主流ですけど、ゲームの総合メーカーになりたいという野望みたいなものを語ってくれたことがあって。高橋名人もいれば、格闘ゲームやシューティングゲームなど、新しいジャンルも惜しみなく労力を割いてやっているというところを見て、自分の発言を実行しようとしているなと思ったんです。やはりそういう発言って上辺だけの人とかも多いじゃないですか。でも志倉さんの話を聞いていると、この人は本気でやろうとしているなと感じるんですよね。それでMAGES.さんのお世話になろうと思いました。

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――そうしてMAGES.に入社したわけですが、今後はどんな活動をされていくのでしょう?
浅田 基本的に、ゲームを作って売るということは変わらないと思います。じつはタイトルも決まっていて、開発も動き始めているんですけれども、志倉さんからは「浅田さんのやりたいようにやればいいんじゃない?」と言ってもらっていますので、これまでのスタイルは崩さずに、MAGES.さんが持っているいいところをうまく取り入れさせてもらって、より自分の幅を広げたいなと思っていますね。自分はいままで営業も販促活動も全部自分ひとりでやっていたのですが、MAGES.さんではそういう部分を担当してくれるセクションがあるので、ひとりでやらなくていいというのは楽かもなぁと思っています。入社したときに「MAGES.の方はいろいろ手伝ってくれるんだ!」と思ったぐらいですからね(笑)。たとえばケイブ時代は、チラシなども自分で作っていたので「デザイナーさんが作ってくれるんだ!」って(笑)。

――でも、それぐらい自分で何でもこなされていたら、逆に「ここは自分でやりたいのに!」と思う部分もあるのではないですか?
浅田 それはありますね。ただ、自分のつぎのタイトルに関しては、いままでのスタイルでやろうかな、と。自分で営業もして。自分で営業をしないとわからないことって意外といっぱいあるんです。どういう部分が市場で受け入れられて、どこがダメなのかということだったり、ユーザーさんにはあまり関係ない話ですけれど、問屋さんやお店側がどんな作品を欲しているのかとか。問屋さんやお店さん、ユーザーさんとで三者三様の考えかたがあるんですよね。もちろん自分たちはお客さんに向けて作るのが基本で、それは当然のことなんですが、お店さんから言われたことで「確かにな!」と思えることも多々あるんです。そういう意味では営業を自分でしているのは、プラスになっていると思いますね。

――ユーザーさんと問屋さんで考えかたがそんなに違っていたりするんですね。
浅田 違いますね。とくによく言われていたのは、女の子が出るゲームに関しては「もう少し女の子を全面に出してもいいんじゃない?」ということです。お店の方々はやっぱり商品を並べて、お客さんが手に取ったときに考えることをある程度予測しているんです。そういった方々の意見というのは絶対にないがしろにはできないですよね。とくにケイブの場合はXbox 360用ソフトばかり出していたのですが、現状のお店さんとしてはXbox 360用ソフトは過剰発注できないんですよ。予約本数=入荷数+1~2本が精一杯な感じで。そうなると、より予約を取るための施策をして欲しいと言われるわけです。予約特典のコードを付けてほしいといったことですよね。自分のプロデュースしたタイトルで「初回特典でしかつけません!」というものが多かったのは、お店さんからの要望が多かったのでやっていたというところはありますね。たしかに特典をつけているものとつけていないものとでは予約率がだいぶ違うんです。

――なるほど。そして先ほどのお話の中で、すでに開発が進んでいるタイトルがあるということでしたが、どんなタイトルを制作されているのでしょうか?
浅田 いま決まっているのが、Xbox Liveアーケードの『Constant C』というタイトルになります。ケイブを辞めてXbox 360でやることはもうないなーと思っていたら、意外にあったなと(笑)。2014年の初頭発売予定です。こちらは東京ゲームショウへの出展も決まっているので、行かれる方はぜひ遊んでいただきたいですね。海外のメーカーさんが開発しているアクションパズルゲームです。コンシューマーをやったことのないメーカーさんなんですけれど、「Xbox Liveアーケードで配信するためにお手伝いしていただけませんか?」というオファーをいただいたんですよ。先方には僕がケイブを辞めてしまうので、「別の会社からのリリースになっても大丈夫なのであればオファーを受けられます」と伝えたら、ぜひそちらの会社でお願いしますということだったので、やらせていただいている作品です。

――浅田さん個人にオファーがあったということですか?
浅田 そうですね最初はケイブの知り合いに相談があり、その後に私が紹介され先方が私のタイトルなども知っていたので「お願いできませんか?」ということで。海外で取材を受けることもあるので、自分がXbox 360でずーっとやっていることを知ってくださっている海外の方がけっこう多いようで。そういった経緯から自分のところにオファーが来たんです。ほかにも数社から配信ゲームで相談を受けているタイトルがいくつかあるので今後も取り組んでいきたいと思っています。

――まずはこの作品をプロデュースされると。
浅田 パブリッシャー側のプロデューサーとして参加させてもらっています。あとは次世代機向けにいま数本動いています。なのでパッケージはもう現世代機で出すということはないと思います。たぶんですが(苦笑)。

――ちなみに、どんな作品なんでしょう?
浅田 ………………まだ言っちゃいけないらしいんで(笑)。ハードはXbox One向けのタイトルとなっています。2014年の発売に向けて鋭意製作中ですね。

――どうしてもケイブに在籍した浅田さんの作品となると、シューティングゲームを開発されるのかなと思ってしまいますが。
浅田 シューティングゲームをやらないかと言われたらやるとは思うんですけれど、いまはちょっと移ってきたばかりでいろいろ構想を考えている段階ですね。

――では、いずれ浅田さんの作るシューティングゲームが見られる日が来るかもしれないと。
浅田 ただ、ケイブ時代にやっていたようなシューティングゲームではなくて、ちょっと違う形のシューティングゲームを作りたいと考えています。これは動きそうではありますけど、もう少し期間が必要かなと。MAGES.の中でも盛さんがシューティングゲームを作っているので、お互いいい形で制作できればと思ってます。

――盛さんだけではなく、高橋名人もいらっしゃいますからね。
浅田 そうなんですよ。意外とシューティングに携わっている人間がMAGES.にはいるなって(笑)。今後は次世代機がメインになってくると思うので、いままでの既存のシューティングゲームの作りかたではない作りかたに挑戦してみたいとは思っていますね。まず、アーケードがあって、そこからコンシューマーへというのがいままでのシューティングゲームの流れだったと思うんです。格闘ゲームなどもそうですよね。でも、コンシューマーだけでやるのでれば、どんな形がふさわしいのだろうか、と。

――シューティングゲームを作るとしたら、完全にオリジナルのコンシューマータイトルになるということですね。
浅田 現状だとどうしてもゲームセンターの数が減少している状態なので、その中で基板を売るというビジネスは、たぶんもう成り立たない状態になっていると思うんです。それはケイブ時代に直面していたことでした。では、これからどうしていくのか? たとえばXbox Liveアーケードで、1プレイ50円というやりかたもアリなのかもしれないですけど(笑)。アーケードでやっていたことをコンシューマーで楽しむためにどうしたらいいかということをいまは考えています。アーケードはアーケードの楽しみかたがあったと思うんです。50円や100円を入れたときの緊張感とか。まわりがガヤガヤしている中でプレイするというのと、家でひとりで寡黙にプレイするというのは、スタイルがだいぶ違いますからね。オンラインでやることのメリットみたいなものをシューティングゲームでも活かせればなと。いままで自分が試してきたことって、“なんとなくオンラインでつながっています”ということが多かったんです。仕様上Xbox Liveのサーバーを使うとやれることの制限がかかってしまうんですよね。ケイブは自分たちでサーバーを持っていたわけではないので、ソーシャル的にできることにすごく制限があって。自分の構想の4割ぐらいしかできていなかったんです。でもXbox Oneならクラウドのサーバーが使えるので、いままでできなかったことにチャレンジできるかな、と。

――よりプレイヤーどうしがつながるようなイメージですか?
浅田 たとえば追加でボスを出して、「こいつをみんなで1時間以内に倒せ!」みたいなことができればと思っていたのですが、Xbox Liveのサーバーを使う構成上できなかったんですよね。そういった意味ではみんなで共闘できるようなシューティングゲームを作りたいなと思っています。どうしてもひとりでやるゲームって寡黙にプレイする方が多くなってしまいますよね。ユーザーさんを広げていくことを考えたときに、ストイックなゲームほど広がりづらいところはあると思いますし、間口をそれなりに広げてあげないとやる気にもならないと思います。あれだけ弾幕を出していたゲームを作っていた自分たちが言うのもどうかとは思いますけど(笑)。シューティングゲーム=弾幕というイメージを少し変えていかないといけないなとは思っていますね。本来シューティングゲームって、弾を避けて敵を破壊するというすごく単純なルールだと思うんですよ。それなのに、アイテムをドバッと出したらユーザーが気持ちいいんじゃないかとか、弾幕をぐわーっと出してユーザーが避けられれば楽しいんじゃないかという演出を、ちょっと押しつけていた部分があったんじゃないかと思うんです。なので、そこを1度リセットしてシューティングゲームの本当の楽しさを追求できないかなと。自分たちが小学生のころは『インベーダーゲーム』などをプレイしていましたが、単純に避けて敵を撃ってるだけですごく楽しかったんですね。その楽しさをいま風に表現するとどうなのか、ということを根本に持ってシューティングゲームを作りたいなとは思っていますね。

――シューティングゲーム自体が難しくなったことで、初心者が入りづらくなっていった中で、シューティングゲーム自体の数も減ったことで遊びかた・楽しみかたがわからないという人もじつはいるんじゃないかと感じていて。
浅田 ケイブのゲームはとくにそうだったんですけれど、敵を倒して進んでいけばいいという単純なルールのはずなのに、こうしないと点数が稼げないといった奥深いところがすごく難しかったと思うんです。すごく上級者じゃないとハイスコアが狙えないという極端な振りかたになっていた。そこのさじ加減ももう少し見直せなければいけないのかなとは思っています。かと言って弾幕を減らして簡単にすればいいかと言えば、そうではないと思うんですよね。“簡単だから楽しい”ということでは絶対にないはずなので。

――それはいままでシューティングゲームを支えてきてくれた方も満足できるような形に?
浅田 そうですね。シューティングゲームをする人たちって、ケイブの時代にとくに感じていたんですけれど、寡黙にプレイを続けて自分のプレイが徐々に上手くなっていく達成感に楽しさを見出していたりしていたと思うんですよね。そういうシューティングゲームユーザーさんにも満足していただけるようなものをと考えると、ものすごく幅が広くて難しいなと(笑)。課題はけっこうあると思っています。こちらは発表できるタイミングになったら発表させていただきます。

――楽しみにしています。ちなみに浅田さんがMAGES.でやってみたいこと、というのはありますか?
浅田 会社からは「やりたいと思ったことをどんどん提案してきて」と言われています。それでまずは「次世代機の作品をやりたい!」と提案して開発が進んでいるところですね(笑)。MAGES.さんでいままで出してきたようなタイトルを出すのではなく、自分の色の作品を出したいとは思っていますね。実際、まわりでいろいろなタイトルを手掛けていらっしゃる方がいますので、そこと同じことをやっても意味がないと思いますから。

――最後に意気込みをお願いします。
浅田 移籍をして、いま2ヵ月目ですが、いろいろなタイトルをやらせていただけそうですし、自分の提案もどんどん提案できる環境です。MAGES.は本当にいろいろな事業を手掛けていて、幅広い活動ができると思っているので、どんな作品を手掛けて、どう広げていけるか挑戦したいと思っています。僕が手掛ける次世代機のタイトルは、当面Xbox Oneなのかな?(笑) ロンチ付近の作品に携われるというのこと、開発者としてはうれしいことですので、がんばっていきたいと思っています。これまでの自分なりのスタイルは通そうと思っていますので、ぜひよろしくお願いします。