バトルガレッガ Rev.2016 - レビュー

歴史的名作の脱神話化

「バトルガレッガ Rev.2016」 レビュー
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私がゲームセンターに足繁く通うようになり、本格的にシューティングゲームにのめり込んだのは2000年代を遥か過ぎた半ばの頃であったと思う。どちらかと言えばケイブ系シューティングゲームを好む私にとって、「バトルガレッガ」は近寄りがたい存在であり、限られたスコアラーのみが触れられる、当時から既に神格化された存在であったように思える。

アーケードゲーム出身のこの奇妙なサウンドトラックは、控えめに言っても私のゲーム音楽観を変えたと思う。

しかし、そんな私でもその「特別さ」だけははっきりと認識していたわけだ。それにはちょっとした事情がある。大学の学部生の頃、私はスタジオ練習よりも部室でダラダラするタイプのサブカル臭にまみれたバンドサークルに所属していた。「ロッキング・オン」の悪口を言いながら、サークル仲間と格ゲーをプレイするような退廃的な日常ではあったが、社会では役に立たないけど、人生にとっては大切な知識は増えていった。

ある日、そのサークルの友人H君があるゲームのサウンドトラック音源を貸してくれたのである。MDで。ニュー・ウェーヴのロックと同じくらいゲームを愛するH君であったが、その出どころは不明なMDにはシンプルでいながらオーセンティック、だがどこかレトロにデチューンされたポップなテクノミュージックが収録されていた。聞けばそれはアーケードのシューティングゲームのサウンドトラックだという。

当時はイギリスのレイブシーンやビッグビートはとうに衰え、シカゴの音響系やポストロックなどの落ち着いた音楽が流行っていた。だが、90年代初頭のデトロイトテクノはそれらすべての音楽のルーツとして、極めて高いプレステージを誇っていた。80年代末に生まれた黒人によるマシンミュージック。それはその後のポップミュージックにとって絶対的な存在だったのだ。少なくとも私のサークルに所属するような連中には……。

ゲームそのものとは別の経路でも十分に知る価値がある作品なのだ。

アーケードゲーム出身のこの奇妙なサウンドトラックは、控えめに言っても私のゲーム音楽観を変えたと思う。そして程なくそれが「バトルガレッガ」という作品のサウンドトラックであり、そのコンポーザー、プログラマー、極端な難易度変化を伴うゲームプレイと数々の伝説と神話を知ることになった。

長々と私の思い出を語らせてもらったが、これも本作を語るために必要なことだと思ってのことだ。「バトルガレッガ」は何よりも優れたシューティングゲームだ。しかし、ゲームそのものとは別の経路でも十分に知る価値がある作品なのだ。ゲームのレビューなのに変なことを言っていると思われるが、たとえプレイしなくても名作とみなされうるものはあるのではないか。確かにそれは歴史的価値であって、ゲームとしての価値ではない。ただ少なくとも「バトルガレッガ」にはそのような歴史的価値が十分にある。革命的サウンドトラック、精巧に作られたドット絵と破壊の美学、意表を突くゲームメカニクス、20年に渡って続けられたスコアアタック。本作「バトルガレッガ Rev.2016」を通じて、ひとりでも多くの人にこの作品を知ってもらいたい。

素朴に向き合うならば、本作は爽快なシューティングゲームでしかない。

本作は数々の名移植で知られるM2が開発・販売する1996年稼働のアーケードゲーム「バトルガレッガ」のリメイクである。本作が単なる移殖やリマスターと異なる理由は様々ある。アーケードモードに加えて2つのオリジナルモードの追加、オリジナルコンポーザー並木学によってクリアかつステレオに再構築されたサウンドトラック(従来のサウンドトラックも選択できる)、アーケードではマスクされていた各種データが動的に確認できる「M2ガジェット」など。さらに続行不能バグや2014年に発見された「永久パターン」をフィックスしつつも、ゲームそのものはオリジナルを忠実に再現している。原作を愛するM2らしい素晴らしい仕事だ。アーケード版と比べて入力遅延を感じるといった意見もあるが、アーケードでやり込んでいない人ならほとんど問題がないレベルであろう。

ゲームそのものは表面上至ってシンプルだ。3つのボタンでショット、スペシャルウェポン(ボム)、オプション操作(フォーメーションチェンジ)を操作し、直線的な弾幕を避け、数々の敵編隊やボスたちを一騎当千さながら撃破していく。効果音、爆発エフェクト、徐々に破壊されるボスパーツの数々。素朴に向き合うならば、本作は爽快なシューティングゲームでしかない。

意図的に自爆で難易度を調整するという戦略が当たり前にすらなったのだ。

だが真剣に本作に向き合うならば、それはビデオゲームの深淵を覗き込むことにほかならない。アイテムの取捨選択による戦略性、スコアアイテム連続取得ボーナスの射幸性、ステージギミックを活かしたスコア稼ぎ。そしてゲームランク。

ゲームランクとは、一般には「動的難易度調整」と呼ばれるものであり、プレイに応じてリアルタイムに難易度を変化させるシステムだ。特にアーケードのシューティングゲームやレーシングゲームでは一般的。プレイヤーが上手いプレイをすると難易度が上がり、下手なプレイをすると下がるように調整されている。インカムを収入源とするアーケードゲームでは、プレイヤーを生かさず殺さずに満足させる必要があるのだ。

本来ならばある種のおもてなしであり、プレイヤーが意識するべきものではなかったゲームランク。だが本作では攻略の過程で、いかにゲームランクに介入するかが戦略上重要となってきた。ショットを撃つ、アイテムを取得する、エクステンドする。基本的にプレイヤーに有利になる状況すべてが難易度上昇につながる本作では、意図的に自爆で難易度を調整するという戦略が当たり前にすらなったのだ。

本作ではM2ガジェットによりランクの変化が右上のグラフで確認できる。

20年という歳月をかけて探求されてきた知識を一気に白日の下に

本作の新規要素であるM2ガジェットでは、そのゲームランクが明示的に表示される。これはある種のプロメテウス的行為だ。これまで20年という歳月をかけて探求されてきた知識を一気に白日の下に晒すわけだから。さらにM2ガジェットではボス体力、次に出現するアイテム、隠しフォーメーションの条件などをひと目で確認できるようになった。深淵に光が差し込み、これまで以上に多くの人に本作の魅力は分け与えられることになるだろう。

とはいえ、実際に初めて本作をプレイする人はゲームランクといったややこしいことは忘れて欲しい。幸いにもスーパーイージーモードはランクが最低に固定され、なおかつ被弾してもオートボムが発動する。おそらくどんなプレイヤーでもクリアすることが可能だ。「バトルガレッガ」は演出面でも歴史に残るゲームであり、映画「AKIRA」や「天空の城ラピュタ」にも影響を受けたというステージグラフィックスは必見である。さらにシューティングの歴史に残るボス「ブラックハート」の猛攻をぜひとも味わってほしい。

スーパーイージーモードを難なくクリアした人には、ぜひともプレミアムモードに挑戦してほしい。このモードにもオートボムはあるが、ランクは徐々に上がり、難易度は高くなる。しかし、ゲームランクの味付けは原作の持っているピーキーなものではなく、モダンなシューティングゲームとして調整されている。ケイブ系シューティングをやる人ならば、すぐに対応できる難易度上昇だ。

もともとは非常に視認しづらい敵弾カラーだが、様々な形で変更可能。
たとえ何度、ゲームオーバーになろうともプレイしたくなる魅力に満ちている

しかしながら、本作の初心者への配慮はここまでだ。たとえM2ガジェットという便利なツールがあっても、オプションで敵弾を見やすい形に変更できても、アーケードモードの難易度は熾烈であることは間違いない。だが何人かのプレイヤーは諦めずに立ち向かうだろう。本作の主人公ウェイン兄弟のように。それは功名心や野心、忍耐強さといった理由もあるかもしれないが、本質的な部分で本作の手触りが素晴らしく、たとえ何度、ゲームオーバーになろうともプレイしたくなる魅力に満ちているからだ。

最後に数量限定で販売されているPremium Editionについて述べておこう。Premium Editionにはフィジカル版のサントラの他、限定ブックレット、復刻されたインストカードなど、ファンのためのグッズの多くが付いていくる。中でも限定ブックレットにはコンポーザー並木学を含めたスタッフたちのインタビューや座談会が掲載されており、これまた「バトルガレッガ」の脱神話化とも言うべき内容になっている。

長所

  • 歴史的名作を手軽に楽しめる
  • よりクリアになったサウンドトラック
  • 便利なM2ガジェットやオプション設定
  • 初心者でも楽しめるモード

短所

  • プレミアムとアーケードモードの難易度の格差

総評

シューティングゲームの歴史に輝く炎を一般プレイヤーのために奪取したプロメテウス的作品。クリアになったサウンドトラック、初心者でも楽しめるモード、可視化された情報と親切なオプションと 様々な点で手が出しやすくなった。しかし、アーケードモードは依然として高難度だ。歴史的観点からは点数のつけようのない傑作だが、後続のシューティングゲームへの敬意を込めてこの点数としたい。

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  • Platform / Topic
  • PS4

「バトルガレッガ Rev.2016」 レビュー

8.9
Great
1996年にアーケードで稼働した伝説的シューティングゲーム「バトルガレッガ」。様々な逸話が残る作品だが、そのリメイクとなる本作によってその神話は暴かれる。
バトルガレッガ Rev.2016
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