スマホ用シューティング「アカとブルー」開発者インタビュー 種々の苦難を乗り越えて挑む、新作シューティングへのこだわり

「誰もが遊べる普通さ」を求める理由

スマホ用シューティング「アカとブルー」開発者インタビュー 種々の苦難を乗り越えて挑む、新作シューティングへのこだわり
※購入先へのリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、そちらの購入先での販売や会員の成約などからの収益化を行う場合はあります。 詳しくはプライバシーポリシーを確認してください">詳しくはプライバシーポリシーを確認してください

シューティングゲームといえば攻撃ショットと危険回避を兼ねたボムというシンプルな操作のもと、敵機の撃破や敵弾を避けることで得られる爽快感や達成感を醍醐味としているが、システムの複雑化や高難易度によって幅広い層に受け入れづらいジャンルとなっているのは否めない。

今回紹介するiOS・Android用縦スクロールシューティングゲーム「アカとブルー」は「誰もが遊べる普通さ」をコンセプトに、2015年4月1日に設立された株式会社タノシマスの代表とプランナーを兼任する木村浩之氏とプログラマーの藤岡裕吾氏が「今度は自分たちの手で一からシューティングゲームを作る」という方針のもと、7月初旬のリリースに向けて開発が急ピッチで進行中だ。

追記(2017/07/25):配信日は諸事情のため延期となっている。

これまでに業界で10年以上のキャリアを有し、シューティングゲームのユーザーインターフェース設計や画面演出を手掛けた経験を持つ木村氏は、自身の健康と安定した生活を求めて一度はゲーム業界から離れようとしたという。

しかし「ゲーム開発を楽しそうにやってきた姿を見てきたからこそ辞めてほしくない」という奥様の言葉と、ゲームを作りには楽しさや喜びがあることを肌身で知っているからこそ「今度は自分たちが若い人たちにそれを伝えたい」と後世のクリエイターたちにバトンを渡すため、自身の戦友とも呼べる藤岡氏とともに会社を設立。プレイヤーだけではなく関わった人たちを楽しませるという意味が「タノシマス」という会社名には込められている。

だが、ゲーム開発の現場は楽しさや喜びに満ちたものではなく、産みの苦しみや葛藤、挫折などと常に隣り合わせである。「アカとブルー」も開発の発表から2年という期間を要した背景には、会社の資金ショートや現場からデザイナーを離れてもらわざるを得なくても、ゲーム作りには一切妥協することができない木村氏の並々ならぬこだわりが詰め込まれているからだった。

タノシマス代表 木村浩之氏

他のシューティングゲームにはないビジュアルと演出による差別化

あまり馴染みがないという新規のプレイヤーさんにこそ遊んでほしいですね(木村)

「アカとブルー」は既存のシューティングゲームプレイヤーだけを対象としたものではなく「誰もが気軽に遊べる普通さ」を徹底的に意識している。それは単に敵弾を少なくしたり、ボスを弱体化させたものではなく、シューティングゲームの根底にある爽快感の追求に加え、プレイヤーを飽きさせることのない工夫がちりばめられていた。

木村:シューティングゲームに親しんでいるプレイヤーさんはもちろんですが、これまでにあまり馴染みがないという新規のプレイヤーさんにこそ遊んでほしいですね。触った瞬間に「あっ、これシューティングゲームだ」と思ってもらえるように攻撃はショットとボムだけという至って普通のシステムにしましたし、競技性が強くなりすぎている側面もあるのでスコア稼ぎの要素もあえて前面に出していないんです。

藤岡:ステージは全部で5面用意しているんですが、クリアした時の達成感をサクッと味わってもらえるように1面と2面は難易度をかなり抑えています。唯一特徴を付けたのはボムですね。敵機を撃破してゲージを溜めるチャージ式なんですが、敵弾に向けて発射すると得点アイテムに変換するだけではなく続けてボムを撃つことができるので、攻撃が激しいボス戦になるとシューティングゲームというよりはアクションゲームのような展開になると思います。

木村:これらを踏まえたうえで具体的に他のゲームとどうやって区別させるのかと考えた結果が“ビジュアル”と“演出”でした。パッと見は2Dですが、じつは立体で表現してるんですよ。ポリゴンを一体作るのに通常の4倍ぐらいは工程をかけているので(笑) 今年の5月に行われた「東京インディーフェス」に出展した際、一般の方から「2Dシューティングの進化形を見た気がする」という感想を聞いたときは嬉しかったですね。

ボイス量もふんだんにあるので30分のアニメを見る感覚で遊んでもらいたい(木村)

無鉄砲なアカと慎重派のブルーという真逆の性格を持つふたりの主人公が無線でやりとりする様子は漫才のようにコミカルであり、往年のロボットアニメを彷彿とさせるような熱い展開に仕上がっている。この演出は木村氏が「ボイス量もふんだんにあるので30分のアニメを見る感覚で遊んでもらいたい」と意図したものであり、遊びやすさを追求したカジュアルさに拍車をかけている。

木村:シナリオ設定に関しても、萌え萌えっとした女の子が主人公だったり、偉そうなおじさんが敵役として出るのではなく、男の子が好きそうなカッコいい路線で突っ走ろうと考え、50歳の渋いおじさん(アカ)と16歳の真面目な少女(ブルー)を主人公にし、ボスにはイケメンの若者たちが出てくるという最近のメジャーな路線とは真逆の構造にしたんです。

藤岡:登場キャラクターに合った声でキャストを選んだつもりですが、木村が指示を控えている状況下で逆にこちらが引っ張られてしまい、予定になかった追加実装をするほどです(笑)。開発が追い込みということもあり、プロモーションまではなかなか手が回っていませんが、近日中にはキャストを発表したいと考えています。

AtoB1.jpg
アカとブルーが搭乗する自機も性能差(広範囲/前方集中)があるだけではなく、セリフの切り替えやシナリオの全貌が見えるようになり、藤岡氏は「やられてしまうと続きが聞けなくなってしまうので、がんばってクリアを目指してみてほしいです」と話す

2度のちゃぶ台返しによる危機を乗り越え……

「アカとブルー」にするとA to B――つまりAからBに移行するという意味(木村)

木村:当初は「アカとブルー」というタイトルではなかったんですよ。諸事情でタイトルを変更せざるを得なくなり、「レッドとブルー」「アカとアオ」といった適当な案を漠然と考えていたときに「アカとアオ」をローマ字に起こすとA to Aで停滞するというイメージになってしまうんですが、「アカとブルー」にするとA to B――つまりAからBに移行するという意味から転じて“まずはこのゲームを起点にタノシマスは一歩前進する!”という思いを込めて決めたんです。

藤岡:最初に作っていたのはフル2Dのカジュアルなミニゲームっぽいものだったんですが20以上のステージを用意していたので、かつて在籍していたデザイナーから「物量的に減らさないと出来ない」と言われたんです。そこで木村が「ステージを5つに減らすぶんクオリティを上げよう」と方向転換したんですが、その途中で「見た目にインパクトがない」という理由でふたたびちゃぶ台をひっくり返したんです。作り直す分だけ作業量が増えて、結果的に時間もお金もなくなり、デザイナーに退社してもらわないといけなくなり……。

AtoB2.jpg
「アカとブルー」の前身だった企画のゲーム画面では自機がレシプロ機となっている(画像1枚目)。2度にわたる方向転換をきっかけに、登場キャラクターのデザインも全て木村氏が一新させ、オリジナル作品とすることも同時に決めた
限界だなと感じたことは何度もありますが、プロとしてやっている以上は作りきらないと自分が納得しないんですよ(藤岡)

木村氏の脳裏には「開発を中止する」という判断も一瞬だけよぎったという。考えあぐねた末に開発を続行した背景には、クリエイターとしてのプライドであることに他ならなかった。

木村:デザイナーがいない状態でもゴールに迎えるような代案を藤岡くんが出してくれたんですが、それを見て開発の続行を決めました。これは世に出さなきゃダメだって一目見て思いましたし、彼がここまでやってくれたんだから、あとは僕が何とかしないとダメだと。作業量が膨大で時間はかかってしまいましたが“全部詰め込んでやる!”という意地でやり抜きました。単に予算と人数が少ないというだけで、大手のゲームメーカーがやっていることと何ら変わりないんですよ(笑)

藤岡:限界だなと感じたことは何度もありますが、プロとしてやっている以上は作りきらないと自分が納得しないんですよ。ゲーム屋としては“ゲームが作りたい”という思いが当然あるわけですし、作れる機会が目前にあるのに作らないっていう選択肢はないんですよね。

木村:そのとき開発しているゲームを自分の最後にしようっていつも思ってるんです。今までで一番いいものにしたいという全力投球で開発しているので、「アカとブルー」を作り終えたら僕の人生の開発業務は終わりにするつもりです。ただ、仲間に恵まれると開発ってやっぱり楽しいですね!

08.jpg
タノシマスの社内では木村氏と藤岡氏が向かい合って作業を進めている。「毎日にように演出がダサい・ショボいとケチをつけられます(笑)」と話す藤岡氏に対し、木村氏は「これまでの付き合いで彼に頼んでダメだったことはひとつもないので、“出来ないことはないんだな”って信頼してる証でもあるんです」とチームワークの良さをアピールする。
09.jpg

スマートフォンで「新作」を出す理由と、タノシマス今後の展望

デザインも兼任「誰しもが持っているスマートフォンでカジュアルに遊んでほしい」と冒頭で木村氏は述べていたとおり、既存のシューティングプレイヤー以外の間口を広げるための最大の武器であることに間違いはない。だが「アカとブルー」に込められた思いはそれだけにとどまってはいない。ビジネス的な側面があることを理解し、かつ否定しているわけではないことを前置きしたうえで、アーケード用シューティングゲームの移植が持て囃されてる現状に対して投じる一石でもあるという。

このゲームをきっかけにいろんなシューティングゲームに触れて興味を持ってほしい(木村)

木村:僕らが安易に移植をしない理由として、ゲームセンターで稼働しているゲームと同じ見た目のものをそのまま作ってはいけないと考えているからこそ「2017年に出るべきシューティングゲームってこれでしょ?」という感じでビジュアルと演出とBGMにこだわっているんです。これまでに受けたいくつかの取材で「シューティングゲームって今後なくなると思いますか?」とか「どうやって復活すると思いますか?」ってさんざん聞かれたんですが、「アカとブルー」をスマートフォンでリリースするのは、このゲームをきっかけにいろんなシューティングゲームに触れて興味を持ってほしいと……期待しているんです。大きな影響があるとは思っていませんが、それでも何かやらなきゃ何も起きませんし、移植ばっかりになってしまったらそのうちタイトルがなくなっちゃうじゃないですか。

目前にある仕事に対して常に全力投球し、先のことを考える余裕は持たないというスタンスの木村氏だが、「アカとブルー」にだけはこれまでにない希望や期待を抱いているという。最後に今後の展望をお話しいただいた。

木村:基本的に同じことはやらず、シューティングゲームだけにこだわるわけではない方針ですが、「アカとブルー」が売れたら「アカとアオ」っていう続編を出したいなと漠然と思ったことはあります。このゲームに関してはシナリオも3Dデザインも自分で手がけたし、やっぱり思い入れというか愛情はこれまで作ってきたタイトルに比べて一入なので、放り出したら“はい終わり”ではなくて綺麗に終わらせたいって思いが強いんですよね。もし出すとしても、いきなりアドベンチャーゲームになるとか、ジャンルが変わることはないのでご安心ください(笑)

株式会社タノシマス
http://tanoshimasu.com/

※購入先へのリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、そちらの購入先での販売や会員の成約などからの収益化を行う場合はあります。 詳しくはプライバシーポリシーを確認してください">詳しくはプライバシーポリシーを確認してください
In This Article
  • Platform / Topic
  • iPhone
  • Android
More Like This
コメント