【エスプレイドΨ】エムツーは男どアホウシューティングだ──漫画家・井上淳哉ロングインタビュー

電撃PlayStation Ron、なかJ
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 これまでゲームファンから“家庭用ゲーム機への移植”を強く望まれていながらも、20年にも渡って実現しなかった不遇のタイトル──1998年に登場したアーケード用の縦スクロールシューティングゲーム『エスプレイド』が、21年の時を経て、エムツーの手により再び覚醒する。タイトルは『エスプレイドΨ(サイ)』

  • ▲2019年12月19日、PlayStation4とNintendo Switchで発売される『エスプレイドΨ(サイ)』。

 思い返せば1998年当時のアーケードのシューティングゲームシーンは、ライジングの『アームドポリス バトライダー』や彩京の『ストライカーズ1945II』などが攻略されている最中で、格闘ゲームの勢いに押されつつも、ジャンルはまだまだ活況を呈していた。前年にケイブからリリースされた『怒首領蜂』によって、”弾幕シューティング”という新たなジャンルが築かれたのも、この頃である。

 そんな中、シューターに自社の名を知らしめた大きな存在『怒首領蜂』の次の作品として、ケイブがリリースを控えていたタイトルが『エスプレイド』だ。ここでケイブは、安易に前作の続編を出さず、新しい道を切り拓くことを選んだのだ。

 この意欲作の、原案イラストを手がけ、さらには制作ディレクターとして関わった男がいた。
 マンガ『おとぎ奉り』『BTOOOM!』など現在マンガ業界で活躍中の、井上淳哉である。

  • ▲井上先生と、先生の事務所専属の宣伝部長・猫の茶々丸。

 かつて自身が携わったタイトルが、21年の時を超えて『エスプレイドΨ(サイ)』として再び覚醒することに対し、井上先生は何を思うのか──ここでは、ケイブ時代の思い出や『エスプレイド』の誕生秘話、さらにマンガとゲームの関係など、井上先生に多くを語っていただいた。氏が『エスプレイド』に込めた想い、そして『Ψ(サイ)』に託した大きな期待を感じることができるはずだ。

井上淳哉プロフィール

 マンガ家・イラストレーター。株式会社STUDIOひせくった代表取締役。ゲームメーカーの東亜プラン、ガゼル、ケイブでデザイナーやディレクターなどを経験した後、独立してマンガ家となる。映画『妖怪大戦争』では妖怪デザインを担当するなど、幅広く活躍中。

制作時の熱い想いがユーザーに伝播し、移植実現の声に至ったのかもしれない

──21年前にご自身が手がけた『エスプレイド』が、エムツーの手によって移植されると聞いたとき、どのように思われました?

井上淳哉(以降、井上氏)
 「なぜ今頃?」というのが率直な感想でしたけれど(笑)、「エムツーさん、よくぞやってくれた!」という気持ちです。21年前の、しかも版権が複雑な作品を商売として成り立たせる見込みを立てたエムツーさん、すごい(笑)。

エムツー広報
 大丈夫です。社長の堀井がしっかりしていますから! きっと!

──移植実現の決め手になった要因の1つは、ゲーム情報サイト「電ファミニコゲーマー」で移植希望作品を募ったところ、『エスプレイド』を望む声が一番多かったからでした。

井上氏
 これまでゲームファンが移植を希望しているタイトルが、あらかた移植実現されていて、いよいよ『エスプレイド』の番になってきた、というだけなのかもしれない(笑)。でも、本当にありがたいことです。

 当時シューティングゲームは、市場としては規模があまり大きくはないゆえ、莫大な利益が出るジャンルではないから、“制作費をあまりかけられない”という事情がありました。制作費をかけられないぶん、少ない開発スタッフでひたすら作り込むしかなかったんです。

 『エスプレイド』も同様、少ない人数で開発しましたが、ふんだんに熱量をつぎ込みました。その“想い”みたいなものが、20年経っても評価していただいている理由なのかな、と考えています。

移植する際に、エムツーにリクエストしたことは「おっさんでも楽しめるようにして」ということ

──『エスプレイド』の移植に関して、エムツーからどのようなお話がありました?

井上氏
 最初にエムツーさんにお会いしたとき、エムツーさんからは「何度も遊ばせてプレイヤーを成長させ、シューターにする」というコンセプトをお話いただきました。それは面白いと思いましたね。

──『エムツーショットトリガーズ』シリーズは、機能満載のガジェットのおかげで”初めて遊ぶプレイヤーでもエンディングに導いてくれる”というのがウリの1つでもありますからね。

井上氏
 それは嬉しいですよね。私のような、40代オールドゲームファンは、当時を懐かしんで“シンプルにベタ移植されただけのゲーム”を購入しても、当時のような操作が思うようにできず、何度かプレイしてそれっきり……となってしまうことが往々にありますから。

 とくにシューティングは、なかなかまともに遊べない。この間、『エスプレイド』を久しぶりにプレイしてみましたが、クリアまで20回以上もコンティニューしてしまって……昔はワンコインで最終面まで行けたのに(涙)。
 頭では弾筋がわかっていても、身体がついていかないんですよね。

──わかります(笑)。

井上氏
 でも、プレイするごとに腕前の向上を感じることができれば、もう1回挑戦してみたい気にもなりますし、その結果、繰り返し遊ぶようになるでしょうね。
 だから、『エムツーショットトリガーズ』シリーズのガジェットは大歓迎です。

──井上先生から、エムツーさんにリクエストしたことはありますか?

井上氏
 私のような、かつてのゲームファンが“思い出につられて購入して、ちょっと遊んで終わり”なんてことにならないようにしてください、とリクエストしました。
 それはつまり、”プレイヤーに何度でも遊んでもらえるような仕掛けがほしい”ということでもあります。

──と、言いますと?

井上氏
 たとえば、オープンワールドのゲームで”同じ場所を何度も往復すること”がありますが、その道中で、アイテムを集めたり戦って強くなったりと、蓄積されていくものがあれば退屈しませんよね?

 そのゲームデザインと同じで、シューティングをやっているだけでも、プレイヤーのテクニック以外に何か蓄積されていくものがあるなら、それは面白いだろうなと。

 このイメージは、しっかりエムツーさんと共有できたので、きっと具現化されるはずです。

  • ▲井上先生とエムツースタッフによる打ち合わせ風景(ご本人たちによる再現イメージ)。

──仕様の決定までにあまり時間がなかったにもかかわらず、提案された内容はかなり具体的で的確であったとも伺っています。これは”以前からひそかに温めていたアイデアがあった”ということですか?

井上氏
 それはないです。エムツーさんに相談されてから考えたことですね。私もケイブではディレクターをやっていましたから、あまり無茶な提案をしてもダメなことはわかっています。でも、周りの人にできるかできないかを聞いて回ったうえで、“やや無茶なこと”は提案しちゃいますね(笑)。

──絶妙なさじ加減なんですね。

井上氏
 この件に限らず、私は「指摘するなら代案を出せ」という持論がありまして。どんな稚拙なものでもいいので、提示されたアイデアに意見するなら、必ず代案を出して欲しい、ということです。

 だから今回は、私が出した稚拙な代案を、エムツーのスタッフの方々がロジカルに汲み取ってくれたんだと思います。

エムツー広報
 いえ、とんでもないです。稚拙どころかゲーム内のフローがしっかりしていて「さすがだなぁ」とスタッフで話していたほどです。このアイデアはいずれ公開しますので、楽しみにしていてください

  • ▲8月26日発売の電撃PlayStation Vol.679の小冊子付録”電撃エスプレイド”に掲載されているイラスト”美作いろりのとある日常”。このイラストが、”井上氏のリクエストが具現化されたもの”のヒントになっている、とか?

──それは楽しみです。そういえば、8月8日〜21日までの期間、秋葉原のゲームセンター”Hey”で実施していたフィールドテストで新モード”アーケードプラス”を体験できましたが、フルボイス化されていて驚きました。この点も、井上先生からの提案だったそうですね。

井上氏
 エムツーさんから、「移植する際に、音声データの容量に余裕がある」と聞いたので、「せっかくだから」とセリフをこちらで考えて、全部入れていただきました。
 たとえば「パワーアップ」という音声1つとっても、同じセリフを何度も聞くのは飽きるでしょうから、いろいろなバージョンを用意しているんです。

 ちなみに、ミスした場合のセリフもいろいろあります。セリフ探しも楽しんでもらえると嬉しいです。

──収録したセリフ、相当多そうですね。

井上氏
 100以上はありますね。とはいえ、音声は増えていますが、”ゲームの進行を止めて、キャラクター同士が会話する”といったことはありません。ゲームのテンポは崩していませんのでご安心を。

──かなりの数のボイス収録、声優さんもたいへんだったのでは?

井上氏
 叫んでいる声が多いせいで、だんだんのどが枯れてきた声優さんに“のど飴休憩”させてまた叫ばせたり(笑)。
 キャスティングに関しては、ケイブ時代にも何度かお仕事したことがある、融通の利く声優事務所さんにお願いしました。

──キャスティングに要望はありましたか?

井上氏
 私からはありませんでしたね。役のイメージをお伝えして、声優さんを選ぶときのアドバイスだけしました。
 ポイントの1つは”ダメージを受けたときの声”で、センスのある人はうまくできるけれども、慣れていないとこれが難しいんですよ。“ゲーム向きの音声”というのがあるのでしょうかね、きっと。

──そういえば、オリジナルのアーケード版では、井上先生自ら“声優”として参加されていましたよね。今回も声優名にクレジットがありますが、どのキャラクターを演じられたのでしょうか?

井上氏
 いえ、今回は演じてはいません。タイトル画面で、タイトルコールをやらせていただきました。演じて……はいませんよね?(笑)

  • ▲電撃プレイステーション編集部・あーやのフィールドテストレビュー。やはり新規ボイスはインパクト大のようだ。

──『エスプレイド』というコールは、井上先生の声なんですね! そういえば、この『エスプレイドΨ(サイ)』というタイトルについて、どう思われますか?

エムツー広報
 タイトルについては、エムツーから提案させていただき、決定しました。”サイ”という音の言葉の響きには、”超能力(サイキック)”だけでなく、”再会””最強””覚醒”といった意味にもかけているんです。

井上氏
 とてもいいと思いましたよ。ロゴの絵面もいい。でも、少しだけ気になったのは、音的に濁音が欲しかったな、なんて(笑)。

日常生活に近い視点のシューティングを作りたかった

──その”サイ”の言葉の意味にあるように、ご自身の作品が再び覚醒することになりましたが、そもそもどのようにして『エスプレイド』が作られたのでしょうか。
 『エスプレイド』の元ネタの1つは、平井和正氏/石ノ森章太郎氏共同原作のアニメ・マンガの『幻魔大戦』だそうですが、シューティングゲームの主人公をエスパーにしようと思ったきっかけは?

井上氏
 「人間を自機にするなら、“超能力”で飛ばすしかない」と考えました。超能力が使えるなら、何かに手をかざして破壊するようなシーンも描けますし。
 まぁ、超能力自体が好きだったんでしょうね。自分でいうのもなんですが、『エスプレイド』を作っていた頃は“中二病”的なものがまだ残っていたんですよ(笑)。
 『AKIRA』などの影響もあって、「自分も何かに手をかざせば物を壊したり動かしたりできるんじゃないか」と少し思っていたりしました。

──でも、そもそもなぜ人間を生身で飛ばしたかったのですか?

井上氏
 ほとんどのシューティングゲームの主人公は空を飛んでますよね? なので今度の自機は”脱・戦闘機”を目指したんです。

──”脱・戦闘機”?

井上氏
 私は1992年に東亜プランに入社して以来、縦スクロールシューティングを作り続けてきましたが、そのほとんどの自機は”戦闘機”でした。戦闘機にもいろいろありますが、たいてい18mくらいの大きさはありますよね。
 このサイズを基準にして地上物の絵を描くと、だいたいの縮尺が決まってきて、同じような大きさでしか背景を表現できない……。
 私がケイブへの転職前にいたガゼルで制作した『アクウギャレット』(1996年)の背景は東京の街でしたが、これも他のシューティングと同じような縮尺で、街にいる人なんてとても表現できませんでした。

 と、いうことを経験していた私としては、もっと人のほうに近づいた視点で、生活感のある風景を描きたかったんです。たとえば、ショッピングモールのフードコートのテーブルとか、床に貼られたおしゃれなタイルとか……。

──戦闘機が飛べる高度からだと、そこまで細かくは描けないですね。

井上氏
 せいぜい描けて”ビルの窓”とか”屋上にあるクーラーの室外機”程度ですよ。
 この不満はガゼルにいる頃からありました。その後ケイブに移って『エスプレイド』のディレクターをすることになりますが、そのとき「この不満を解消しよう」と思ったんです。

 そのためには、自機を人のサイズにすればいい。これならショッピングモールとか学校とか、生活感のある風景の中で戦闘できる。

  • ▲井上先生による”東京の夜空を駆ける、ESP者”イメージ。

──描きたかったものが、実現できそうだ、と。

井上氏
 そのうえ、人を自機にすれば、そのキャラクターの“想い”みたいなものもゲーム中で表現できるはず、と考えたんです。プレイヤーも、人のキャラクターのほうが自分自身を重ねやすいと思いました。
 たとえば、私は『魔界村』が大好きなのですが……。

──(ここでいきなり『魔界村』?)

井上氏
 中学生の頃、何度も遊ぶなかで「今日はクラスメイトの好きな女の子が姫としてさらわれてしまった」と思って遊んでみようとか、いろいろな妄想をしつつ遊んでいたことがあって(笑)。

 こういう遊び方をすると、ミスをしたときに本当に悔しいんですよ。ゲームを何度も遊んでやや飽きているからこそ、新しい視点で遊びたくなったのですが、「まだまだ楽しめるぞこのゲーム」って……。

 そのような感じで、プレイヤーが主人公(自機)に気持ちを込めて遊べるようなシューティングがあってもいいのでは、と思いました。

──そのためにも、自機は”脱・戦闘機”を目指したんですね。

井上氏
 なので『エスプレイド』の前の『怒首領蜂』の制作を手伝っていたときは「いつまでも戦闘機や戦車じゃないだろう!」なんて密かに思っていました(笑)。

──先生のそんな思いが、『エスプレイド』で爆発した、と。

井上氏
 『エスプレイド』では、グラフィックディレクターという立場で、内容をある程度自由にできたのがよかったんですよ。

──ディレクター兼、デザイナーということですね。

井上氏
 人を自機にするなら、背景は見慣れた“東京”がいいと思いました。でも、現代の東京に雑魚敵などを配置する場合、「どんな敵だったら説得力があるだろうか」と考え込んでしまって。
 はたして敵は”歩兵”でいいのか? だとすると、制作の手間を考えた場合、3Dで作ったほうがいいのかな──なんて制作方法まで考えていましたが、結局、近未来的な世界を演出するために、今でいう”ドローン型の無人監視ロボット”を敵にしたんです。戦車タイプの敵も、すべてこの範疇に入ります。

──ご自身で考えた“未来の東京”という世界観を、制作スタッフに伝えたときは、どんな反応でした?

井上氏
 当時の上司の池田さん(※)「道路があって、そこに戦車が置ければなんでもいいよ」という感じでしたね(笑)。

※池田恒基:1992年、東亜プランに入社。同社倒産後、1994年に高野健一氏らとケイブを設立。多数のシューティングゲームを製作し、「弾幕シューティングの始祖」とされ、ファンからは「IKD」の愛称で親しまれている。

──たいへんケイブらしいですね(笑)。東亜プラン時代から培った戦車魂というか。

井上氏
 地上の敵として戦車があれば、“問題ない”という。

──『ぐわんげ』(1999年)にも戦車を出すぐらいですから。

  • ▲『ぐわんげ』は、室町時代をベースにした和風テイストの縦スクロールシューティングゲーム。”式神”やそれを操る”式神使い”などの独特の世界観を背景にしたストーリーと、個性的なプレイヤーキャラもゲームの大きな魅力。プレイヤーキャラは、シシン・小雨・源助の3人がセレクト可能。各キャラには式神がおり、シシンは”力王”、小雨は”八飛車”、源助は”麒麟丸”と旅をしていくことに。 主人公ごとのストーリー・エンディングがあるのも、ゲームをやり込める要素の1つ(画像はケイブ公式サイトより)。

井上氏
 『ぐわんげ』を和風の世界観で作るとなったときも「おい、戦車はちゃんと出せるんだろうな?」と聞かれました(笑)。

──『ぐわんげ』といえば、井上先生は途中から開発チームに組み込まれたそうですね。

井上氏
 そうです。私が組み込まれる前の『ぐわんげ』のデザイン、極端に言えば……建物や敵を、木とか瓦にしただけの普通のシューティングを目指していたんです。木目の浮遊機雷とか、瓦屋根がついた戦車とか(汗)。「これはテクスチャーを変えた『怒首領蜂』じゃないか!」と。
 で、妖怪のデザインを見せてもらったとき、妖怪のデザインにゾクッとくるものがなくて、思わず「妖怪のワビサビがわかっていない!」と腹立たしく思って、自分で描きました(笑)。

──このときに初めて妖怪を描くことになったんですか。

井上氏
 そうですね。それまで「妖怪なんて……」と思っていましたよ。

──それなのに、いきなり挑戦して描けるなんて、すごいですね。

井上氏
 自分でも不思議なのですが、何もない田舎町で育って、自然の良さとか闇の怖さなどを経験したことが活きているのかもしれません。
 『ぐわんげ』で妖怪を描いているうちに「もっと描ける」と思い、『おとぎ奉り』を描きました。それを見た映画『妖怪大戦争』のプロデューサーからお声がけいただいて、故・水木しげる先生や、荒俣宏先生などともご縁ができて。

 結果的には、そちらのお仕事もさせてもらっていますから、人生わからないものです。

──幼い頃に水木先生のマンガをよく読んでいたとか、妖怪画で有名な鳥山石燕さんの絵を見ていた、なんてことは?

井上氏
 特にそういうこともなく。ただ、人一倍“肝試し”とか“お化け屋敷”が大好きでしたね。でも基本的に怖がりではないので、「暗い廊下の先が見えないだけで、なぜ人はゾクゾクするのか?」とか、そんなことばかりを考えていました。
 『ぐわんげ』でも、夜の村の中を進んでいくステージ3(猫蜘蛛がボスのステージ)は、「ここは絶対、自分が全部やる!」と言って、ここだけはすべて自分で描きましたから。

  • ▲『ぐわんげ』のステージ3”妖猫譚”のボス”猫蜘蛛”ケイブ公式サイトより。

──『ぐわんげ』に関わったことで、新しい才能の扉が1つ開いた、と。

井上氏
 確実に開きましたね。池田さんは、他人にそういう扉を開かせるのがうまいんですよ。『デススマイルズ』(2007年)のゴスロリ『三極ジャスティス』(2018年)の軍服も、私にとっては新しい挑戦だらけでしたが、池田さんが扉を開いてくれました。

 でも、池田さんはアニメの人型ロボットみたいなものは好みじゃなかったようで、シューティングゲームではほとんど描けませんでしたね。

──池田さんに、そのような趣向がおありだったとは。

井上氏
 「ガンダムが好きでシューティングを作りました」みたいな内容になることを嫌って、池田さんとチームのプログラマーは、そういう安っぽい企画案をいつもぶっ壊してました(笑)。
 というのも、科学の進歩を考えたときに、『パトレイバー』のレイバーみたいな作業機械の延長線上にあるロボットだったら、まだギリギリ戦車と並んでいてもなじむのですが、ガンダムみたいになると、そこから何十年も技術が進歩していないといけないために、浮いてしまうからなんですよね。
 池田さんいわく「硬派メカと軟派メカがある」そうで、ミリタリーの範疇に入る“硬派メカ”じゃないと採用されないんです。

──そういうわけですか、なるほど!

井上氏
 池田流に言うと、シューティングとして“戦車はマスト”なんです。ゲーム的にも道を走る戦車は、移動進路と攻撃が予想できて、「撃ちに行かなきゃ……」という行動を実行させるので、実は見えない面白さを演出しているのです。
 なのでデザイナーは、“戦車が成立する世界観”を提示しなければいけない。あまりにも未来な世界観だと、キャタピラで動く戦車の良さと乖離してしまう。
 だから無理やり「好きだからロボット描きました!」的なロボットが出てきたら、インパクトが強すぎて積み上げた世界観が台無しになってしまうんです。池田さんは、それを避けたかったのでしょう。
 そんなわけで、ロボット禁止令が出されました。(笑)

『エスプレイド』のキャラクターは、自分にとって“とても身近な存在”

──パッケージ用のイラストを含めて、久しぶりに『エスプレイド』のキャラクターを描いた感想は?

  • ▲12月24日に、祐介たちが夜叉と戦っていなかったら? ……という、ゲームの“もしも”の世界を描いたイラスト。限定版のパッケージとして採用されている。

井上氏
 ゲーム制作から離れても、『おとぎ奉り』を描いていたためか、長い時間を空けて描いたような感覚はありませんでしたね。キャラクターを見ても「お! 最近どう?」みたいな感じで、とても身近な存在。
 でも”J-B 5th”の服装パーツは、すっかり忘れていましたけれど。

  • ▲『おとぎ奉り』は、2001年に井上先生が本格的に漫画家デビューを果たした伝奇マンガ(2008年まで連載)。架空の町・宮古野市を舞台に、”眷族”と呼ばれる妖怪と、”神器使い”たちの戦いが描かれる。『エスプレイド』や『ぐわんげ』のセルフオマージュも見られる。

──今お話に出た井上先生のマンガ作品『おとぎ奉り』に登場する”妖介”と”いろり”は、『エスプレイド』の主人公の”相模祐介”と”美作いろり”の姿がダブって見えるのですが、これはファンサービスと捉えていいのでしょうか…?

井上氏
 デビュー作『おとぎ奉り』では、マンガ業界に転身するにあたって、今までゲーム業界で築き上げてきたモノ(武器)を節操なく総動員しようと考えました。その意気込みが、チラチラと見え隠れしているのだと思います。
 ゲームを作っていたときは、ムダにキャラや設定を作り込んで「ゲームでは披露する機会がないだろうな……」と感じていました。そのような、ムダなアイデアを“自分の資産”として、マンガ業界に挑んだわけです。

──セリフだけでしたが、”妖介”が”祐介”同様にバレー部であることもマンガの中でわかるなど、『エスプレイド』との一致を見つけると、ファンとしてはニヤリとできますね。

井上氏
 そこは意図して入れているから、ファンサービスと言えますね(笑)。
 ときどきマンガのサイン会をすると、「ケイブ時代からのファンです」とか「『BATSUGUN』が好きなんです」とか、シューティング好きな方が多くいらっしゃるんです。”選挙”でたとえるなら、私にとってケイブ時代のシューティングファンは“地元の支援者”みたいなもので、非常に心強いんですよ(笑)。

 だから、私は今でこそマンガ家にはなりましたけれど、「地元の支援者をおろそかにしては絶対ダメだ」といつも思っています。

  • ▲井上淳哉先生が携わったゲーム作品。

──ちなみに『BTOOOM!』のクイーン・ガーラは、『エスプレイド』の”ガラ婦人”がモデルですか?

  • ▲とある南の無人島に送り込まれたさまざまな経歴の人物たちが、特殊な爆弾を使って繰り広げる、凄絶なデスゲームを描いた『BTOOOM!』(2009~2018連載)。コミック最終巻は2つあり、結末はまったく異なる内容となっている。

井上氏
 そうです。最初はあそこまで活躍させるつもりはありませんでしたが、“世界を支配する側”としてはふさわしい人物かな、と。
 そもそも、ああいう物語に出てくるボスキャラクターというのは、“顔面力”みたいな、インパクトが必要なんです。

──顔面力、ですか。

井上氏
 そう。言い換えると、”深みのある顔”でしょうか。顔面力があるキャラクターって、そんなに量産できるものではないので、『BTOOOM!』では過去に作り込んだ”ガラ婦人”の顔面力に助けられました。
 他には”シュバルリッツ=ロンゲーナ”(『怒首領蜂』の敵キャラクター)をモデルにした、“ロンゲル・シュヴァーリッツ”も出しています。これも、先ほどお話した“資産の流用”ですよね。

 褒められたことではないのかもしれませんが、ゲーム開発時代にムダに積もった資産を、効果的に役に立てているという認識です。

──マンガに転用できるそれだけの資産をゲームクリエイター時代に作ってしまったのは、もともとマンガ家を目指していたからですか?

井上氏
 ええ。私は高知の高校を卒業して東京の専門学校に行きましたけれど、それくらいの経験では食べていけるマンガ家にはなかなかなれません。なので、まずは就職してお金を稼ぎつつ、マンガ家になる機会をうかがうことにしたんです。

 結局、そのままゲーム業界で10年ほど働きましたが、誰でも30~40歳くらいに、何かしら人生の節目を迎えると思うんです。特に男性はそういうことがあるとよく聞きますし。私もその頃に、自分がゲーム業界で働くことに限界を感じていたので、より輝いて見えたマンガ業界に移ったわけです。

 そのときに、今まで築き上げたものをすべて賭けて勝負に出る必要があった、と。

──その勝負に勝っているのがすごいですね。

井上氏
 いやー、といっても茨の道でしたよ。「道“でした”」というか、「道“です”」という進行形ですが(笑)。

  • ▲2019年内に連載開始を予定している新作『怪獣自衛隊』のイメージ。特別に描き下ろしていただきました!

子どもの頃は、気に入った作品を何度も繰り返して楽しんだ

──マンガ家を目指しつつもお金を稼ぐために就職した、ということですが、選んだ就職先がゲームメーカーでした。もともとゲームはお好きだったんですか?

井上氏
 子どもの頃のお気に入りのゲームは『魔界村』でした。

──先ほど、ちらっと名前が出ましたね。

井上氏
 よく、友人の家でファミコンの『スーパーマリオブラザーズ』などを遊んでいましたが、ゲームセンターで『魔界村』を見て、価値観が変わってしまったんです。「キノコのような敵を踏んだりするよりも、ゾンビのいる世界で戦ったほうがかっこいいな」と(笑)。

 アーケードだからということもありますが、グラフィックがリアル路線でよかったし、世界観も好きでしたね。システム的にも完成していて、たとえば”立つ””しゃがむ”と上下段に分かれているアクションにも意味があったり、ジャンプで後ろによけながら攻撃ができたりとか、とにかくいろいろと計算されて作られたゲームだな、と感じました

──かなりやり込みました?

井上氏
 やりましたよぉ。『魔界村』は「なんてお金のかかるゲームなんだ」と思っていたほどね。私自身、子どもの頃は1つの作品を繰り返して楽しむ癖がありまして。

 ゲームももちろん、アニメの『風の谷のナウシカ』なんて20~30回以上は観ましたね。今でもセリフがほとんど頭に入っています。

──すごいですね(笑)。

井上氏
 そうしているうちに作品の構造がわかってくるんですよね。この経験は、“作る側の立場”になったときに、「昔遊んだあのゲームやマンガのアイデアを試してみよう」という形で生かされました。

 今はゲームにしてもアニメにしても作品自体が多すぎて、繰り返し楽しむどころか新作を全部追うのも不可能に近いじゃないですか。だいたいマンガもアニメも1回しか観ないですから。ゲームもそうですよね。

 そうなると、作品の作り込みを感じる機会もなかなかないわけで。

──よっぽどのことがないと、RPGを二度三度とクリアすることはないですね。

井上氏
 そうですよね。となると、最近の若い人たちは作品をじっくり味わって、作り込みを理解する機会があるのだろうかと考えてしまうんですよ。1つの作品を何度も味わうのって重要な気がするんですね。

 同じアニメを20~30回も見るのはさすがにやりすぎでしょうけど……。

──シューティングゲームはいかがですか?

井上氏
 私はシューティングゲームの火がついたのは遅かったんですよ。『究極タイガー』を初めてやったときも、1面の中間あたりでゲームオーバーになってしまって、「シューティングは自分に合わない」と思ったぐらいですから。
 敵の弾が見えて、うまく避けられるようになったのは『雷電』からですね。

エムツー広報
 シューティングはやり続けていると、弾避けのコツがつかめるようになる瞬間がありますよね。敵の弾を引き付けつつ、自機の座標を少しずつズラしてかわす”寄せ”という操作が身に付いたり。

井上氏
 ありますね。急に自転車に乗れるようになる感覚といいますか(笑)。その感覚をつかむきっかけを作ってくれるのが『エムツーショットトリガーズ』シリーズだと思うんですね。

エムツー広報
 自転車でいうと、補助輪とお父さんがついてくる感じです。

──お父さんに後ろから支えてもらいつつ自転車で走れる、と。

エムツー広報
 そうなんです。補助輪もありますから、初心者でも安全です。

井上氏
 で、走れるようになってふと後ろを見ると、お父さんはもう支えていないことに気づくと(笑)。

ゲームとマンガの違い? 井上流キャラクター設定術とは?

──ゲームとマンガ、両方の制作を経験されている井上先生から見て、ゲームの良さは何だと思いますか? また、2つの共通点はどこにあると思いますか?

井上氏
 良さかどうかはわからないですが、私がマンガを描く場合は、”冒頭で読者が主人公に共感して同じ視点になってもらってから、物語を始める”ようにしています。ですから、この冒頭をうまく描けないと、読者はなかなかマンガの世界に入ってもらえないと考えているんです。

 ところが、ゲームの場合は”プレイヤーキャラクターをコントローラーで操作した瞬間、プレイヤーは主人公の視点になる”んですよね。

 ここが優れているというか、ズルイなと思います(笑)。マンガで何十ページも費やして一生懸命主人公に共感してもらおうと四苦八苦しているのに、ゲームの場合は選択肢の”はい/いいえ”を選ぶだけでもう主人公視点(主観)になれちゃうんですから(笑)。

──(笑)。では、マンガの良さは何だと思います?

井上氏
 自分の好きなテンポで物語を読み進められることですね。一気に読み進めることもできるし、細切れの時間で少しずつ読むこともできる。これがゲームだと「あぁ、ムービーが始まっちゃった」とか「イベントの途中でセーブができない」とか、ある程度ゲーム側に合わせないといけないですから。

──ゲームやマンガのキャラクターは、どういうところから考えていくのですか?

井上氏
 ゲームの場合はビジュアル重視のところもあるのでまた別なのですが、マンガの場合は“役割”ですね。

 たとえば太宰治の小説『走れメロス』の場合、主人公のメロスの役割ははっきりしていますよね。でも、メロスがどんな見た目の人物かというのは、それほど細かくはわからないんですよ。

 なので私の場合は、見た目よりもまずは”何をするキャラクターなのか”から考えます。主人公のライバルなのか、単に主人公を騙したい人なのか、それともそう見せていて実は味方なのかとか、面白く見える方法といっしょに役割を考えるんです。

──ゲームの場合はいかがですか?

井上氏
 私はグラフィック担当なので、描くキャラクターは、最初から役割が決まっていた場合がほとんどです。自機、敵、ラスボス……みたいな(笑)。役割は仕様で固まるので、池田さんにお任せして、私は見た目の視認性とか面白味だけ考えていられるんです。

 制作はチームでやるので、チームのスケジュールもデザインに関わってきます。キャラクターを2Dと3Dのどちらで描くかを検討して、「3Dだと1カ月かかるけど、2Dなら1週間でいけるね」とか、「3Dボスに人を回しちゃったから、中ボスは2Dスタッフで作ろう」とか、制作に関するスケジュールと予算を検討しながら、現実的にデザインします。

──ディレクターをされていたときは、まさにそんな感じだったんですね。

井上氏
 そうです。それでも……主人公が5人いるようなゲーム、たとえば『デススマイルズ』の場合はキャラクターの決め方がちょっと違いました。なにしろこのゲームは「ゴスロリの少女を使って『ゴレンジャー』をやろうぜ!」というコンセプトでしたから(笑)。

 そうそう、実はこれに決まる前は、”ヴァンパイア風の男””ゴスロリの女””怪力の男”が出るシューティングを考えていたんですよね。それを池田さんに見せたら「何年前のゲームなんだ!」と言われてしまって。「いかにも主人公らしい男、いかにもヒロインらしい女が出てくるゲームなんて古くない?」と。
 なので「そこまで言うなら、このゴスロリの女の子を主人公にして、5人に増やします」とリアクションしてみたら、「いいね! それ!」と返されて(笑)。こんな感じで、キャラクターが決まる場合もあると。

──井上先生や池田さんのいろいろなインタビュー記事を拝見していると、ゲーム制作中におふたりの意見がぶつかった話をしばしば目にするのですが、そんなに口論になることが多かったのですか?

井上氏
 池田さんとは、“日々ケンカ”と言っていいくらいぶつかっていました(笑)。

──それは、お互いの才能を認めたうえで……ということですよね?

井上氏
 もちろん(笑)。私はプログラマーとして池田さんを非常にリスペクトしていますから、ぶつかり合いはありましたが、罵倒するようなことはなかったです(笑)。池田さんはケンカをしているときでも、何にも肩入れしないので、そこは「バランスが取れている考え方をするなぁ」といつも感心しますね。非常に客観的な意見を出してくださるんです。あえて欠点を挙げるなら”絶対に相手を褒めないこと”ですね(笑)。

──(笑)。それで思い出したのですが『BTOOOM!』の”飯田さん”は、池田さんがモデルですよね?

井上氏
 そうです。でも池田さんは私のマンガを読んでないそうなので、「モデルにしても大丈夫かな」と思って出してしまいました(笑)。

──”飯田さん”はいい役でしたね。

井上氏
 基本的にリスペクトしていますから!

『エスプレイド』開発こぼれ話

──細かい話になりますが、『エスプレイド』で祐介の通う鳳凰高校のグラウンドにある”なくそう少年犯罪”と書かれた横断幕にもこだわりがあるそうですね。

  • ▲横断幕”なくそう少年犯罪”。

井上氏
 昔は”切れる17歳”と言って、不良高校生が社会的な問題になった時期があったんですよ。本来であれば”なくせ少年犯罪”と書くところなのでしょうが、少し消極的に”なくそう少年犯罪”にしているほうが未来っぽいと思ったんですね。スローガンにあまり強い言葉を使わない、というか。そんなことをどこかで言ったと思います。

エムツー広報
 ゲームでも開始早々、少年犯罪が起きていますしね。“覚がいじめられている”という。

井上氏
 まさに“切れる17歳”ですよ(笑)。

──その横断幕もそうですが、印象に残るといえば”いろりの隠しエンディング”もそうですよね。

井上氏
 あれは、担当したプログラマーがふざけて入れたエンディングなんです。

──え!? 他人に無関心な、都会の人の冷たさみたいなものを表現しているのかと思いました。

井上氏
 いや、そんなことはなく(笑)。

──そうなんですか、今ならスマホでパシャっと写真だけ撮って去っていくようなシーンになるのかなと。

井上氏
 あのシーンは本当におふざけだったのですが、いろいろ想像ができたみたいですね。そういうシーンを描くならムービーにするか、マンガにしたいくらいです。

──マンガに描くようなおつもりで、いつもゲームの設定を考えていた、ということですね。

井上氏
 そうです。『エスプレイド』もムダに細かいところまで設定を考えていました。いずれマンガで描くつもりでいましたし。

エムツースタッフは”男どアホウシューティング”や

──以前、雑誌”コンティニュー”のインタビューで、「またゲームを作りたいと思うことはないか?」という問いに対して「マンガで利益が出たら、投資して『エスプレイド2』を作りたいかも」とおっしゃっていましたが、当時、井上先生には続編の構想があった、ということでしょうか?

井上氏
 仮称『エスプレイド2』に関しては、企画書までは進めていたんです。今なら出資できるかもしれませんが、そもそもゲームの内容が今では通用しないかも。

 当時の企画書の内容を実現させるくらいなら、新しいタイトルを考えたほうがいいのかなと。

──どんな内容だったか、教えていただけますか?

井上氏
 アイデアの1つに“時間を戻す”システムがありました。敵弾に触れそうになったら時間を止めて、そこから撃った敵に弾を戻す能力が使える、という想定でした。
 これなら仕様的に無理がなく、超能力も使えて駆け引きが楽しめる、と考えていましたね。

──続編まで考えていたということは、1作目でやり残したことがあったから?

井上氏
 そんなことはないです。十分やりきれたと思っていました。でも、世界観をいろいろと考えていたからか、その先の世界も描けるなと思ったんですね。

 といいつつも続編が作れなかった理由の1つは、当時、池田さんから「続編の制作禁止令」が出ていたからで。

 当時の池田さんは、同じものを作り続けていると自分たちの感性が摩耗したり、成長が止まると考えていたようです。なので、私がケイブで初めて手掛けた『怒首領蜂』の後は『エスプレイド』『ぐわんげ』『プロギアの嵐』という順番でリリースしていますが、いずれもシステム・世界観ともに、まるで違うものを作っていたわけです。

──確かに、先生が所属していた頃には、続編がありませんね。

井上氏
 でもその後独立して、少し経ったら『怒首領蜂 大往生』が出たり、『エスプガルーダII』が出たりして「続編出しとるやんけ!」という気持ちになりました(笑)。

──(笑)。では、もし新しくシューティングの制作に関わる機会があるとしたら、やってみたいことはあります?

井上氏
 昔『デススマイルズ』の“RPG風シューティング”を考えていたことがありましたね。『ファンタジーゾーンII』みたいに、左右がつながった横スクロールするステージ内にワープゾーンが2つあって、そこに入ると縦スクロールのステージに移るという。そこは街の一部になっていて、いろいろ移動するうちに街をぐるっと探索できるような構成になっている、と。それで物を探す要素なども盛り込みたかったんです。

──見てみたいです。では、シューティング以外だったらどうですか?

井上氏
 私は2Dのアクションゲームが好きなので、『魔界村』とか『悪魔城ドラキュラ』みたいなゲームを作ってみたいですね。

──そちらも見てみたい! 一緒にお仕事をされているエムツーさんとどうですか?(笑) 今回、一緒になったエムツーさんのスタッフについては、どう思われますか?

井上氏
 それはこのひとことにつきます”男どアホウシューティング”(笑)。

──(笑)。どういう意味ですか?

『男どアホウ甲子園』(※)みたいな?

※男どアホウ!甲子園:1970年から1975年まで週刊少年サンデーで連載された野球漫画。原作・佐々木守、漫画・水島新司。1970年から1971年にTVアニメが放送された。

井上氏
 ケイブ時代、池田さんが人によい評価をするときに”男どアホウ○○○”という表現をよく使っていたんですよ。それを拝借しました。もちろん、愛情を込めて、です(笑)。

──どういう点で、そう思われました?

井上氏
 20年以上前のゲームを新商品として今作ろうと思っているところ、ですよね。これはもう「あんたどアホウや」と言うしかないです(笑)。私はどアホウな人が好きですから、完成を楽しみにしています。(了)

  • 取材日:2019年7月25日。井上先生の仕事場にて

まとめ

 『エスプレイド』の演出がドラマチックだったり、プレイ中に深い世界観の片鱗がチラチラ見えたりするのは、作り込まれた設定とそれをどう見せるかについて、原作者がディレクターとしてコントロールできている点が大きいのだろう。だからこそ、見せたいものの軸がブレていないし、“作家性を強く感じる”作品に仕上がっているのだ──筆者が、今回のインタビューを終えて思ったことである。

 そして『エスプレイドΨ(サイ)』は、原作者が再び制作に関わったことで、キャラクターの個性や物語の流れがよりはっきり浮かび上がっている。
 新要素に原作との齟齬がなく、また魅力をより引き出せているのは、原作者だからこそできる仕事なのだと感じた。それは、今後明かされる情報からもわかってもらえると思う。

 ゲームの場合、移植作業は原作者の手を離れることがほとんどだ。『エスプレイドΨ』のように作者の意向を汲んだ真のディレクターズカット版がリリースされることは珍しい。

 そういう意味では、21年目にして実現した初移植は、ほぼリメイク作品ともいえる仕上がりで、試みとしては非常にユニークである。

 単なる移植に留まらない『エスプレイドΨ』は、これからの『エムツーショットトリガーズ』の展開を占う試金石になるかもしれない。今後もゲームファンの皆さんと『エスプレイドΨ』を追いかけて、見届けたい所存だ。

© ATLUS © SEGA © 2019 M2 Co., Ltd. Original Game: ©ATLUS/CAVE 1998
©ATLUS/CAVE 1999

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  • ジャンル: STG
  • 発売日: 2019年12月19日
  • 希望小売価格: 9,800円+税

エスプレイドΨ(サイ)

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  • 対応機種: PS4
  • ジャンル: STG
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  • 対応機種: Switch
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  • 希望小売価格: 6,800円+税

エスプレイドΨ(サイ)

  • メーカー: エムツー
  • 対応機種: Switch
  • ジャンル: STG
  • 配信日: 2019年12月19日
  • 価格: 4,500円+税

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