東京では2020年4月7日から5月25日まで続いた緊急事態宣言。ゲーム業界でも、在宅勤務で十分な開発環境が得られないことや、家庭用ゲーム審査機関のCEROが臨時休業に入り、レーティング審査が約1ヵ月にわたり行えなかったことなど、大きな影響があった。その結果、さまざまなタイトルが発売延期を余儀なくされたのはご存じの通り。そんな中で、記者がもっとも気になったのは、昨年9月にギネス認定されて話題になった、ハムスターの『アーケードアーカイブス』(以下、『アケアカ』)シリーズだ。これまで、お盆や正月も含めて毎週欠かさず1タイトル以上をリリースし続けてこられたのは、社長の濱田 倫氏をはじめとする開発陣の並々ならぬ努力の結果だろう。コロナ禍でしかたがないとはいえ、さすがに今度ばかりは記録が止まるのでは……と思いきや、現時点(2020年6月中旬)では記録が更新中。この危機をどう乗り切っているのか? さっそく濱田氏に直撃してみた。

※本記事は週刊ファミ通2020年7月16日号(7月2日発売)の記事を増補改訂したものです。

濱田 倫氏(はまだ さとし)

ハムスター代表取締役。『アーケードアーカイブス』および『アケアカNEOGEO』のプロデューサー。おもに1980年代、1990年代のアーケードゲームの名作を復刻して毎週リリースしている。

“無理せずできる努力”がリリースの継続につながった

――現時点(6月中旬)で連続172週目となる『サンセットライダーズ』がリリースされました。どうやって毎週続けられているのですか?

濱田じつは、今回ばかりはダメだと思っていました。弊社は2020年3月27日からテレワークに入り、基本的に通勤禁止を現在にいたるまで続けています。自粛がスタートするとき、“ひとりも感染しないこと”を第1目標に掲げて、そのうえで“できれば毎週リリースを継続したい”という第2目標を立てました。後者はもちろん可能な範囲での目標ですが、世間が不景気な話題に溢れる中ですから、せめて明るい話題を提供したい、という思いがあります。

――確かに、クラシックゲームファンとして、『アケアカ』の継続が何よりうれしいです。

濱田『アケアカ』のタイトルはリリースまでに、版権元の各社様の監修作業などがあるのですが、このご時世ですから無理はお願いできません。そこへ追い討ちでCEROが休業に入ったことを知ったときには、思わず椅子から転げ落ちましたね。「そこが止まるのか~」と。ふたつの大きな壁ができたことで、無理しない範囲で可能な範囲で努力することにしました。そのひとつが、配信スケジュールの見直しです。まず、権利元各社様にご迷惑をかけることなく、監修作業をしやすい“ハムスターが権利を持っているタイトル”を優先していく方針に切り換えました。

――ニチブツやUPLの作品ですね。

濱田はい。しばらくニチブツのラッシュが続きましたから、ニチブツのファンの方には喜んでいただけたと思いますが、その一方で海外から「『サンセットライダーズ』はどうなっているんだ? いつ出るんだ!」という声も多くいただきました。現在はどちらも無事に配信できてよかったです。

――なるほど。CERO問題はどうやって?

濱田自粛がスタートした時点で、すでに審査が通っているタイトルを先にリリースできるように組み換えました。『プラスアルファ』などがそうですね。

――『プラスアルファ』は未発表タイトルだったから、うれしいサプライズでした。

濱田予定ではもっと後に発表・リリースする予定でした。ジャレコタイトルは権利元のシティコネクションさんが早く動いてくれていたため、リリースを早めやすかったのです。

“コロナ社内感染ゼロ”最優先でも『アケアカ』毎週リリースは継続中! 維持できている理由を社屋に“住む”ハムスター濱田社長に直撃!_01
“コロナ社内感染ゼロ”最優先でも『アケアカ』毎週リリースは継続中! 維持できている理由を社屋に“住む”ハムスター濱田社長に直撃!_02
『プラスアルファ』

ソフト1本あたりの開発に半年~1年かかる場合も!

――それにしても、毎週リリースを続けているうえに配信スケジュールの組み換えまでするとは、現場の苦労も多そうですね。

濱田「『アケアカ』タイトルは1週間で作っているのでは?」と誤解されやすいのですが、短くても4~5ヵ月、長いものだと1年くらいの開発期間を必要としています。現在も非常にたくさんのタイトルを並行して作っていますが、意外なことに開発に関しては在宅でもそれほど困らないことがわかりました。

――なんと! コロナ禍が収束したら、この先も安泰となるのでしょうか?

濱田はい……と言いたいところですが、この先どうなるかは、まったく予想がつきませんから断言はできませんね。ピンチになったら、ひたすらニチブツの麻雀タイトルを出しまくるかもしれません(苦笑)。現在も記録更新中ではありますが、我々は記録のためにゲームを出しているわけではないので、毎週リリースが止まってしまっても、それはしかたのないことと諦めます。とはいえ、まだまだ出したいタイトルが山のようにあるので、ベストを尽くしていきます。その結果として、毎週リリースが続いていくことを望みますね。

――ところで、濱田さんは毎週公式の生放送に出演されていますが、在宅勤務の影響は?

濱田じつは私、現在は社内に住んでいます。ハムスターは“通勤禁止”なので。お風呂がないのでシンクで体を洗ったりして乗り切っているんですよ。徒歩で来られる社員のみ、やむを得ない場合だけ出社してもらっていますが、基本は私ひとりです。

――そうなんですか! なんというか、無理し過ぎないでください……。

濱田おかげさまで、現在も社内感染者ゼロを続けています。意外なことに、社員のみんなは根が真面目なのか、テレワークに移行した後も仕事の効率は落ちていないんですよ。おかげで、現在もクオリティーを落とすことなく、タイトルを配信できています。ただ、ひとつだけ心配がありまして……。

――心配というと?

濱田収束した後、みんな会社に戻ってきてくれるかなと。

――(笑)。出社しないとできないようなことはないのですか?

濱田会社にかかってくる電話の対応やフリーズしたPCの再起動など、会社にいないとできないこともありますが、私がほとんどやっています。みんなが戻ってきてくれないと、アフターコロナでもずっと雑用をやるハメに……(苦笑)。

――ハムスターの皆さん、きっと戻ってきますよ! 濱田さんは体調を崩されたりしていませんか?

濱田会社からほぼ出ないおかげか、風邪もひいていません。ただ、体力が落ちて体重は増えました。外に出る用事というと、フジタさん(※1)を見送りに駐車場まで行くのと、ゴミ出しくらいですね。ふだんほとんど屋内にいるため、些細な用事で外に出ることに幸せを感じます。

※1……ゲーム芸人のフジタ氏。ハムスターチャンネルに毎週出演している。

――わかります(笑)。今後の配信ラインアップも豊富ですし、順調にいけば200週連続配信もいけそうですね。

“コロナ社内感染ゼロ”最優先でも『アケアカ』毎週リリースは継続中! 維持できている理由を社屋に“住む”ハムスター濱田社長に直撃!_03
2020年6月20日時点での配信予定リスト。『ウィズ』、『P-47』はすでに配信中だ。

濱田そうですね。ちなみにこのままいくと200週目は2020年12月24日(木)です。そのつぎの201週目は、2020年12月31日(木)なんですよね。

――クリスマスイブと大晦日!

濱田ご存じの方もいらっしゃると思いますが、『アケアカ』タイトルの配信日には、必ず生放送(※2)をやっています。

※2……ハムスターチャンネル。URLはこちら

――このままではクリスマスイブも年越しも第86スタジオ(※3)で過ごすことに?

※3……ハムスター社内にあるスタジオ。86=ハムとかけている。

濱田こうなったらもう、ゲストの方を巻き込むしか……ででおさん来ます?

――行けたら行きます。それでは最後に、『アケアカ』ファンにひと言お願いします。

濱田これからもたくさんのタイトルを配信していきます。今後もハムスターをよろしくお願いいたします!