アニメ風ゴアFPS『The Citadel』インタビュー、たった一人で90年代風FPSを作った日本の開発者にルーツを尋ねる

国産FPSの可能性

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※一部グロテスクなスクリーンショットがあるため、苦手な人は方は注意。


2020年8月、日本の個人ゲーム開発者が90年代風のFPS『The Citadel』をSteamでリリースしたことが国内外のFPSファンの間で話題となった。終末的な世界で銃弾を以てサイバネティクスの少女の臓物をまき散らすビジュアルと90年代の古典的なFPSのゲームプレイをしっかりとなぞったオールドスクールなゲームプレイという珍しい組み合わせが独特な立ち位置を確立したのだ。

本作は日本のPCゲーマーの間で話題に上がったが、それ以上に衝撃を受けたのはアメリカのオールドスクールFPSファンだろう。日本のレトロPCであるPC-98をリスペクトしたビジュアルノベル『VA-11 Hall-A』をベネズエラのクリエイターが作ったことや『Ghost of Tsushima』をアメリカのスタジオが作ったことを知った日本のゲーマーの衝撃と、『The Citadel』を知った北米のFPSゲーマーの衝撃は匹敵するのではないか。

本作にはアニメ調の少女とクリーチャーが組み合わされた敵キャラクターが多数登場し、臓物や欠損の描写、サイバネティクスの破壊描写が描かれる。そういった描写が苦手な人は注意。

そのうえ、『The Citadel』は90年代風FPSの主流だった『DOOM』や『Quake』などのid Software系以上にBungieの『Marathon』シリーズへの強いリスペクトを表明している。北米のFPSファンの間でも主流とは言いづらかったゲームに日本のゲーム開発者がどのようにして影響を受けてゲームを作ったのかを記録に残すべく、筆者は開発者のdoekuramori氏にテキストインタビューを敢行した。

オールドスクールFPSとの出会い

――doekuramoriさんの初めてゲーム開発したタイトルがThe Citadelだったと伺いましたが、本当なのでしょうか?

doekuramori:はい、これが初めてです。それまではツクール等を含め一切ゲーム開発を行ったことはありませんでした。

――doekuramoriさんの簡単なゲーム遍歴や、FPSに出会ったきっかけを教えてください。

doekuramori:最初に触ったゲーム機はセガサターンでしたが、それ以降ゲーム機は買ってもらえずPCで遊ぶようになったのがPCゲームに触れるきっかけでした。PCゲームで最初に触ったのが当時コーエーの『チンギスハーン・蒼き狼と白き牝鹿IV』とActivisionの『Civilization: CALL to Power』といったストラテジーゲームでした。

ただ、もともとアクションゲームが好きだったのでストラテジーにはハマれず、電気屋に置いてあったCroteamの『Serious Sam: The First Encounter』と2015 Inc,の『CIA Operative: Solo Missions』が私とFPSとの出会いでした。

実を言うと当時はFPSに幻滅していたんです。初めて触れたFPSの「CIA Operative」がイマイチな出来で、その次に触れたRitual Entertainmentの『SiN』はゲームの内容はよいもののかなりバグの多く、インターネットがまだ普及しかけの時期だったので修正パッチの入手も困難でした。

当時の私はPCの知識があまりなかったので、次に買ったBohemia interactiveの『Operation Flashpoint: Cold War Crysis』(現在は『ARMA: Cold War Assault』に改題)が自分のPCだと動作しなかったことをきっかけに、一旦FPSから離れました。

私が初めてPCゲームで「ハマる」という体験をしたのがNew World Computingの『Might and Magic』(以下、M&Mと表記)シリーズの6, 7, 8作目で、これが私がオールドスクールFPSに愛着を持つきっかけになりました。

M&Mの6, 7, 8作目はRPGでありながらグラフィックがDOOMなどのオールドスクールFPSと同じく2.5Dで表示されています。ゲームプレイも「リアルタイムに敵に向けて魔法を発射しては敵の魔法をステップでかわす」という、かなりFPSに近いものでした。

90年代のアメリカのPCゲーム市場では、WizardryやDungeon Masterといった一人称視点のダンジョンRPGの発展の一つとして、一人称視点でゲームがリアルタイムに進行するというFPSのようなRPGがいくつか登場した。Skyrimで有名なThe Elder Scrollsシリーズもその一つである。

その後もM&Mのようなゲームを求めていたのですが、かなり独特なゲームだったため今に至るまでフォロワーは現れていません。その後はBungieの『Halo: Combat Evolved』やRaven softwareの『Soldier of fortune II』、先述の『Serious Sam』シリーズなど当時の最新のFPSを追うようになりました。

ただ、2000年代前半はFPSのマルチプラットフォーム化が進みつつあった時期で、ゲームプレイよりもグラフィックを偏重する傾向にあり、FPSのマップがどんどん狭くなって敵キャラクターの数も減っていました。

一方で、M&Mシリーズは広大なマップで100体近くの敵が一度に動作するのがウリです。そういう規模の大きいゲームプレイは当時の最新ゲームではほとんどありませんでした。そういう「広いマップ」で「大量の敵」が出てくるFPSを求めていた時に出会ったのがBungieの『Marathon Infinity』でした。2.5Dやローポリであれば当時の最新のゲームではできないようなゲームプレイが可能だと知り、その後はいわゆるオールドスクールFPSに傾倒していきました。

最近のゲームを例に挙げますが、『Far Cry』シリーズの2作目以降は一見広いマップと大量の敵がいるように見えますが、実際は処理を軽くするために敵がプレイヤーのすぐそばにしか発生しないのでマップの広さがゲームプレイに活きていません。しかし、オールドスクールFPSにはそういうことがあまりないことが、FPSのオールドスクールと最新のゲームの大きな違いだと考えています。

――オールドスクールFPSに惹かれ始めてからは、どのようなタイトルに触れていったのでしょうか。

doekuramori:本格的にオールドスクールFPSに触れるようになったのは、かなり最近です。2000年代はGOG.com(古いPCゲームの移植を取り扱うゲーム販売サービス)がない上にSteamもタイトルの登録数が少なくてMS-DOS時代のFPSが入手困難だったため、新しいFPSを遊びつつ入手できる範囲内で古いFPSゲームを遊ぶようになりました。『Half-Life』の1作目や『Requiem: Avenging Angel』、『Far Cry』の1作目、『Giants: Citizen Kabuto』がお気に入りでした。

GOGが多くのオールドスクールFPSを取り扱うようになるまでは、フリー化されたMarathonシリーズくらいしかオールドスクールFPSに触れる手段がなかったように思います。ただ、オールドスクールFPSは最初の1エピソードが無料で遊べるので『Ultimate Doom』や『Duke Nukem 3D』、『Shadow Warrior』に『Blood』の体験版を何度も繰り返し遊んでいました。

(インタビュアー注:90年代のFPSは店頭のパッケージのほかにネット上のシェアウェアで販売されることがあり、体験版として最初のステージのみ無料でダウンロードしてプレイ可能なことが多かった)

――シェアウェアで入手したゲームの体験版を繰り返しプレイすることでオールドスクールFPSへの熱を維持しつづけたのですね。以上のゲームの中で名前に上がったBungieの『Marathon』に関する要素が『The Citadel』に数多く引用されています(武器商人のNPCの名前「Tycho」、中間セーブポイント「パターンバッファ」など)。doekuramoriさんが90年代FPSの中でも『Marathon』がお気に入りだったのはなぜでしょうか 。

武器商人の少年Tycho。サイバネティクス人間だらけの本作における数少ない生身の人間である。

doekuramori:『Marathon』は私が初めてフルに遊べたオールドスクールFPSだったこともありますが、セカンダリファイア(一つの武器で二種類の攻撃が可能)のシステムを気に入っていたことが大きいです。それと、当時のBungieは2001年に日本アニメ風のアクションゲーム『Oni』を作るオタク気質なゲームメーカーで、そのオタクっぽい雰囲気が気に入ったのだと思います。

Bungieが開発、Rockstar Gamesが販売した三人称視点のアクションゲーム。アメリカ製のゲームとは思えないOP映像が特徴的。

また、同じ理由(『Blood』にセカンダリファイアが搭載されていることやアニメ風FPS『Shogo: Mobile Armor Division』を開発していること)でMonolith Productionsの『Blood』の見た目がかなり好きですが、ゲームバランスはかなり極端なのでMarathonほど好きではありません。

開発の動機と開発経緯

――『The Citadel』の開発を始めたきっかけを教えてください。

doekuramori:ゲーム制作を始めるにあたって、『Project Warlock』と『Downwell』から影響を大きく受けました。『Project Warlock』はドッターと当時高校生だったプログラマーの二人が作ったゲームで、『Downwell』は当時大学生だった日本人の個人開発のゲームです。

私は「ゲームはプログラムをきちんと学んだ人間が集まって作るもの」という先入観を持っていたので、ほぼ個人でプログラムを独学で学んでゲームが作れるという事実が衝撃的でした。それなら自分でも仕事の合間の時間にFPSが作れるに違いないと考え、2019年の2月ごろにUnityに手を出しました。

――初めてのゲーム開発を始めてからSteamでのリリースまでの期間が一年半というのは、かなり短いですね。

doekuramori:実際のところUnityでのゲーム開発に必要なプログラミング言語のC#が難関で、Unityを2か月ほど触って時間的に仕事の合間にC#を学ぶのは厳しいと判断しました。一年で完成させるという目標を立てていたこともあって、2019年の4月からUnreal Engine 4(以下、UE4と表記)に切り替えました。UE4ではプログラミング言語を使わなくてもプループリントと呼ばれる機能で視覚的にプログラミングができます。

――『The Citadel』のゲームデザインやメカニクスはどのように作り上げたのでしょうか。

doekuramori:『Downwell』と『Project Warlock』の衝撃が大きかったので、『Project Warlock』のように敵を倒し、ステージをクリアすると『Downwell』のように穴を下っていくというイメージが常に念頭にありました。そこに『Marathon』のようなこだわりのある武器の使い分けを加えました。穴を下っていくイメージには『Diablo』の1作目の影響もあったかもしれません。

――オールドスクールFPSではスプライト画像をドット絵で描写することが珍しくありませんが、『The Citadel』が主人公や敵キャラクターのスプライト画像を手描きイラストにした理由は何でしょうか?

『The Citadel』のドット絵とイラストの中間のような解像度。スプライトを採用するFPSは昨今のインディーゲームで見られるものの本作のようなアニメ風のビジュアルのFPSはかなり珍しい。

doekuramori:ゲーム制作を始める前の自分の趣味がイラスト制作だったことと、『Marathon』のスプライトがドット絵というよりもイラストに近いことがあります。

MS-DOSで発売された90年代のFPSでは敵キャラクターやアイテムなどスプライト画像をできるだけサイズの小さいドット絵で済ませるのですが、Machintoshで発売されたBungieの『Pathways into Darkness』や『Marathon』シリーズではイラストをスキャンしたような画像が使われています。続編ではゲームらしさを演出するためにイラストをもとにしたドット絵になっているんですが、それでもドットにする必要がないくらい高解像度なんですよね。

多分、Machintoshのスペックの高さが理由でBungieのFPSではドット絵を使う必要がなかったんだと思います。自分の中で2.5D FPSといえば『Marathon』が念頭にあったので、スプライト画像はドット絵ではなくイラストでいこうと決めました。なお、制作に使った機材は第二世代のiPad Proと第一世代のApple Pencil、ソフトはイラスト制作アプリのprocreateとなっています。

――『The Citadel』の世界がサイバネティクスと終末感ただようSFになったのには、どのような理由がありますか?

doekuramori:世界観はそこまでゲームの影響を受けていないと思います。私はあまり漫画を読まないのですが、弐瓶勉先生の『BLAME!』とフアン・ヒメネス先生が作画を担当した『メタ・バロンの一族』という漫画が特に気に入っていて、その影響を受けたイラストを趣味で描いていたのが理由です。

――サウンドはフリー素材を使ったとのことですが、何か気を付けたことはありますか?特に敵キャラクターの断末魔(ボイス)は印象的でした。

doekuramori:BGMについてはDova-syndromeさんの素材を使用させていただきました。クレジット記載不要で商用可能なフリー音源であるにもかかわらず、ハイクオリティでとても助かりました。効果音は効果音ラボさんの物を使わせていただきました。

ボイスはfreesoundという素材サイトのCC0(クリエイティブ・コモンズ)とパブリックドメインの物を使用しました。パブリックドメインやCC0(クリエイティブ・コモンズのライセンスのひとつ)の素材は詳細が不明で使用に不安があるのですが、法的に問題の無いものを使用することに一番気を配りました。

――開発で特に印象に残ったことは何でしょうか。

doekuramori:何よりも印象に残ったのはオールドスクールFPSの面白さの大半はマップデザインに依存していて、ゲーム開発もマップデザインに一番時間がかかることです。

クリエイター支援サイトのCi-enに最初の体験版の記事を残しているのですが、2019年の2月から3月にゲームの構想を始めてUnityに触れ、4月にUE4に移行してからの開発を始め、同年の8月に最初のエピソードを公開していまあす。この時点で後半に登場する武器の半分と残り5体のボスキャラクター、解像度やキーバインド、音量調整などのオプションを除いてシステムはほぼ完成していました。 そこからゲームの発売まで10か月近くレベルデザインに費やしたことになります。

――Ci-enではどのようなプランを設け、どれくらいの支援者がいましたか?

doekuramori:Ci-enはあくまでも体験版をアップロードする場所を借りる目的で使用していたため有料プランは設けず、無料プランのみ用意していました。無料プランの支援者はEP1をアップロードした前後でおおよそ300人くらいだったと思います。

――日本で作られるオールドスクールFPSに興味を示す人が300人もいたのは、意外なほど多いと私は感じます。

doekuramori:Ci-enはDLsiteのアカウントがあれば登録できるので、支援する敷居が低かったんだと思います。

――Ci-enで『The Citadel』を公開した段階で具体的なフィードバックや感想はありましたか?

doekuramori:思った以上にありました。Twitterで意見を言ってくれる人が多く、武器の反動や空中での体の制御、マウスオプションや音量オプションなどもそこで得たフィードバックを元に追加していきました。

発売前・発売後の反応

――リリース直前や直後にどのような反応があったか印象に残るもので「想定通りだったこと」と「想定外だったこと」を教えてください。

doekuramori:想定通りだったのは、武器とゴア描写の作りこみを評価してくれる人が多かったことです。『The Citadel』に出てくる武器はすべて架空の物ですが、現実的な銃に関してはメカニズムが実際ににあり得るように考えています。動作もタクティカルトレーニングの講座などを参考に作っていますが、本作をsteamで公開してから数日のかなり早い段階でユーザーが気づいてくれたように感じました。

想定外の点ですが、デバッグ環境が自前のPCしかないため想定以上にゲームが重くなっていたことが挙げられます。プレイ環境による不具合ですが、これはCi-enでエピソード3まで公開していた時点では一切寄せられていませんでした。

『The Citadel』は物理演算で臓物と銃弾が派手に飛び散るため、CPUの処理性能もそれなりに必要となる。

――おそらく、オールドスクールFPSに興味のあったCi-enの支援者のほとんどがゲーミングPCを所持していたのかもしれません。

doekuramori:そうなんだろうと思います。あと、エンジン自体の不具合が原因のクラッシュがあるという点も想定外でした。正しくコードが組めていれば正しく動作すると思っていたのですが、ゲームを実際に作って広く公開することで初めて気づかされました。

――地域ごとにユーザーの反応の差はありましたか?

doekuramori:まずは日本ですが、オールドスクールFPSあるいはFPS自体に興味のない層がかなり触ってくれた印象があります。体験版の段階でのフィードバックを元に難易度を簡単なつもりで調整していたのですが、steamでの公開後に「難しすぎる」「操作方法がわからない」などの意見がかなり寄せられました。ある程度ゲーム内のチュートリアルも追加したのですが、PDFなどの形式でマニュアルなどを添付することも考えています。

海外の反応ですが、ある程度のバッシングは正直想定内でした。というのも、製作段階から欧米の良識的な人の神経を逆なでする要素をあえて盛り込んでいたからです。

※インタビュアー注:『The Citadel』はSteamでのリリース直後に海外の一部のユーザーから激しい反発や非難のみならずdoekuramori氏に対する誹謗中傷が相次ぐ問題が発生し、パブリッシャーが誹謗中傷に抗議する声明を出したことが日本のゲームメディアでも報道された。

例えば、女性に見えるキャラクターをゲーム内で殺すことについてですが、男女平等に考えるなら女性の兵士であっても男性の兵士であっても同じようにプレイヤーは感じ取る「べき」です。しかし、当然ですがプレイヤーは女性キャラクターを殺すことにより強い嫌悪感を感じるはずです。私はプレイヤーにその点に居心地の悪さを感じてほしかった。「Call of Duty」などでベトナム人兵士を倒して何も思わないのなら、『The Citadel』で女性兵士を殺しても何も思わない”べき”だ、あえて盛り込みました。

本作の英語版で女性に見えるキャラクターをあえて”he”と呼ぶのも同様の理由です。体の性と心の性が一致しないことが往々にしてある現代で安直に見た目で性別を判断するべきではない。そのため、あえて盛り込みました。

――いくつかの日本のゲームメディアは『The Citadel』を取り上げましたが、海外メディアからは発売前と発売後にそれぞれ反応はありましたか?

doekuramori:発売前の段階での海外メディアからの反応はなかったように思います。発売後はバグ報告に注力していたので、バグ報告以外の反応は無視していました。

YouTuberによるアマチュアのゲームレビュアーの反応がいくつかあるのは把握しています。パブリッシャーがつく以前にインタビューに一件答えたのですが、今のところ公的な海外メディアからの連絡は一件のみです 。そのため、ほとんどアマチュアレビュアーからの評価のみが集まっている状況です。

ただ、オールドスクールFPSは銃器に対するこだわりが少ないゲームが多く、本作の銃器の作り込みはそこを補完する意図があったのですが、そのこだわりが一部のプレイヤーに伝わらなかったことを残念に思います。こういう要素はオールドスクールFPSの愛好者がむしろ嫌うCoDシリーズなどが上手に扱っている要素でもあるので、そこがさらに気にくわなかったのだろうと思います。

――発売から2週間も経たない間にインディーゲームパブリッシャーのTop Hat Studiosから連絡が届いて『The Citadel』のパブリッシャーになったことには驚いたのではないでしょうか。

doekuramori:はい。憶測なのですが、Top Hat Studioさんから出ているゲームの日本語翻訳を担当されている方がThe Citadelを気に入ってくれました。もしかしたらそこで何らかのつながりができたのかもしれません。

日本のアートスタイルとFPSの因縁

――本作は日本的キャラクターデザインを採用したFPSという特徴的なビジュアルが注目されました。イラストで描かれたオールドスクールFPSは少なからずありましたが、日本のアートスタイルと交わって注目されたことはあまり前例がないように思います。

なお、日本のゲーム会社によるFPSが開発中止になってしまうケースがあった、あるいはゲームデバイスとしてのPCの認知が普及していなかったことがあります。日本的なアートスタイルとFPSを組み合わせたものとして2007年のオールドスクール風FPSのアダルトゲーム『GUN-KATANA』、2017年のフリーゲームのFPS『淀屋橋お嬢様倶楽部』、2018年のゾンビ系FPSのアダルトゲーム『Seed of the Dead』などわずかな例はあります。

日本のアートスタイルを採用したFPSが今まで少なかったこと、あるいは過去に作られたもののFPSの歴史に残らなかった日本のゲームなどでdoekuramoriさんが気になる点はありますか?

『Shadow Warrior』(1997)に登場する日本アニメ風の敵キャラクター。滝で水浴びしているところに話しかけると発砲される。

doekuramori:日本製の日本らしいFPSについて思うところはかなりあります。まず、1990年代後半のPS1とセガサターンの時期にはロボットアニメ的なFPSをGENKIが精力的に作っていました。中でもロボット操縦FPS『ベルトロガー9』はかなり出来の良いゲームだったと記憶しています。あれほど出来のいいゲームが「知る人ぞ知る」ゲームになってしまい、あの独特のゲーム性を引き継ぐゲームが現代に残っていないことが残念でなりません。

『GUN-KATANA』は、発売当時にDOOMが遊びたくても遊べなかった自分にとってかなり気になるゲームでした。しかし、アダルトゲームメーカーとしてかなり意欲的な試みだったにもかかわらず、2007年にはオールドスクール風FPSという概念がなかったために”ただの技術不足なFPS”として評価され、FPSゲーマーからもアダルトゲームのユーザーからも冷笑的な評価を下されていたことを覚えています。あの時点で紙芝居ばかりに固執していなければ、現代のアダルトゲーム界隈も今ほどに縮小することもなかったのではないかと思います。

2007年に発売されたFPSのアダルトゲーム『GUN-KATANA』は左右の手で異なる武器を使い分けるゲームプレイが特徴。

『淀屋橋お嬢様倶楽部』は動画でしか見たことがないのであまり語れないのですが、『Seed of the dead』については海外ゲーマーからはあまり好意的な評価をされておらず日本的な美少女表現とFPSの組み合わせに対して嫌悪感を感じる層の厚さを感じさせられずにはいられません。

アニメ的要素とFPSの組み合わせは意外と長い歴史がありますが、欧米圏と日本側の無関心の両方に常にさらされてきた印象があります。 良識的な欧米の人々の一部はアニメに限らずエロというものに対してアレルギーめいた拒否反応を示して、特にアニメについては子供の見るものと認識しているためにアニメ的な要素を含む大人向けのゲームを小児性愛・小児虐待という文脈でとらえる人も少なくないです。それは文化に対する不寛容であると思いますが、年々そういう態度が軟化してきているのも確かです。

日本側についてもバイオハザード7がFPSになったことについて否定的にみる人をあまり見かけず、FPSというジャンルがようやく日本でも受け入れられつつあることを感じます。そのため、個人的にはアニメ的なFPSが受け入れられる土壌がようやく日本でも海外でも育ち始めたのだと感じています。『The Citadel』が日本だけでなく欧米でもある程度好意的に受け入れられたのも、そういう理由があるんだと思います。

――『Shadow Corridor』や『恐怖の森』など、日本のホラーゲームのフリーゲームやインディーゲームでは一人称視点を採用したものがありました。

doekuramori:Shadow Corridorのロケーションは和風ですが、ゲーム自体はかなり洋ゲー風ですね。恐怖の森は2.5Dグラフィックが3Dが当たり前の時代でも受け入れられる証左のように感じます。

――日本で作られたFPSおよび一人称視点のゲームの歴史はまだまだ掘り下げる余地があるようには思いますが、やはりシューティングとして国内外で評価された日本のFPSで『The Citadel』以外のものを探すのは非常に難しいように思います。

doekuramori:完全な素人が仕事の合間の時間を作って一年である程度評価してもらえるFPSを作れるのだから、今後日本でもインディーズFPSが出てきてくれることが自分の望みです。できればGENKI製FPSと『GUN-KATANA』の精神的続編的が作られて、両者の名誉の回復が図られてほしいです。

次回作の構想とアップデート

――The Citadelのアップデートおよび家庭用ゲーム機進出で何か予定していること、それに次回作の構想について教えていただけますか?

doekuramori:まずは次回作の構想ですが、DOOM1に対するDOOM2のような続編を考えています。つまり、既存のアセットをすべて流用して新しい武器や新しい敵、新しいマップを追加する続編です。次回作はThe Citadelのプロジェクトファイルをそのまま流用する予定なので、この続編で実装される敵や武器は将来的にはすべてThe Citadelにも実装したいと考えています。

『The Citadel』のアップデートは上記の通りですが、個人的に家庭用ゲーム機でFPSを遊ぶことがほとんどないためゲーム機向けの具体的なプランを考えてはいません。『The Citadel』のゲーム機向け移植とパブリッシングを担当するTop Hat Studioさんは家庭用移植について何も問題ないと言ってくれましたが、私の本心では正直なところ半信半疑です。具体的には、『The Citadel』の表現がゲーム機市場にそぐわないと思っていることに加えて、ボタン配置が一番の懸念です。自分自身ゲーム機のパッドでFPSを遊ばないのでどのようなボタン配置にするのか想像もつきません。

90年代風FPSのススメ

――2010年代のインディーゲームのシーンとして、90年代風のFPSを作るオールドスクールFPSのリバイバルについてどう思いますか?

doekuramori:私は2015年くらいまでのオールドスクール風FPSがあまり好きではありません。ゲーム開発の質問でも言及しましたが、オールドスクールFPSの面白さはマップデザインに多くを依存しています。2015年以前のオールドスクール風FPSはマップ自動生成の物が多く、正直あまり褒められる出来ではありませんでした。

しかし、不思議なことに一人称視点のメレー(近接格闘)が中心のゲームでは自動生成マップはほとんど問題にならないんですよね。ここ最近は自動生成マップとFPSの相性の悪さに気がづき始めたのか、手作りマップのオールドスクール風FPSが多くを占めるようになり、そのほとんどがとても良い出来だと感じています。なお、ローグライクFPSは『Nightmare Reaper』と『Void Bastards』がよくできていましたが、これらは例外だと思います。

ただ、オールドスクール風FPSのほとんどが『DOOM』と初代『Quake』お手本としているので、そろそろMarathonクローンが出てきてほしいと思っています。2020年9月に開催されたRealms Deep(オールドスクール風FPSを専門とした新作ゲーム発表会)で多くのインディーFPSが新たに発表されましたが、Marathonっぽいのはありませんでしたので。

『Void Bastards』はコミック風な見た目のサバイバルFPS。『System Shock 2』や『BioShock』の元開発者が手掛けた。

――doekuramoriさんが考える『Marathon』らしさとは何でしょうか?

doekuramori:「クロスヘア(照準)に敵を重ねるだけでは、いくら撃っても当たらない」のがMarathonらしさだと思います。オリジナルのMarathonにはクロスヘアすらなかったのですが。

DoomやQuake、Duke Nukem 3Dではクロスヘアに合わせて狙えばその通りに弾が飛んでいくので、エイム能力と反射神経が偏重されすぎているきらいがあります。しかし、知っての通り現実の銃はあんな風に弾がまっすぐ飛びません。銃を使う上で重要なのは、弾が敵に当たる位置にまで近づく立ち回りです。そういう立ち回りの重要さを表現できているFPSは多くないので、「走り回って反射神経でクロスヘアを重ねてクリックするだけのゲーム」じゃない『Marathon』のようなFPSがでてきてくれたら嬉しいですね。

――『The Citadel』をプレイした人にオススメしたいゲームはありますか?

doekuramori :オールドスクールさを求めている人は特にNewBlood InteractiveとNightdive Studios、3DRealmsがパブリッシングしているオールドスクール系FPSが全部おすすめですが、数が多いので一本一本の紹介は省略します。

逆にThe Citadelらしさを求めてくれる稀有な人がいるなら、まず『Marathon 2: Durandal』、リロードのこだわりが光るLucas Artsの『Outlaws』、それに武器ごとの特徴のとらえ方がすばらしい『Stalker: Shadow of Chernobyl』、The Citadelのゴアと退廃的な雰囲気と影響を与えた『Requiem: Avenging Angel』をオススメします。ただし、『Outlaws』と『Requiem: Avenging Angel』は現行OSで起動する際に不具合が発生して解像度などに問題があるみたいです。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

doekuramori:ゲーム作りはかつてなく簡単になりつつあるので、軽率に手を出す人が増えてほしいです。以上です。お付き合いくださりありがとうございました。

――こちらこそ、本当にありがとうございました。

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