昔ながらの「ビデオゲーム」はゲームセンターで再び輝くのか?『怒首領蜂最大往生 EXAレーベル』稼働記念exA-Arcadiaインタビュー

「アーケードは実はブルーオーシャン」

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exA-Arcadia(以下、exA)というプラットフォームを知っているだろうか。現在のとこはアーケードゲームのマニアにしか知られていないが、exAは2019年からスタートした「ビデオゲーム」用の汎用システム基板である。ゲームセンターには格闘ゲーム、音楽ゲーム、メダルゲーム、プライズ、体感ゲームなど様々なジャンルがあるが、中でも歴史が古いのは昔ながらのモニターとコントロールパネルでプレイする「ビデオゲーム」というカテゴリーだ。昨今では他のジャンルに押しやられ、日の目を見ることもすくなくなったビデオゲーム。exAはそんな斜陽とでもいうべき領域に突如として現れた新しいプラットフォームだ。

これまでIGN JAPANではexAに関するいくつかの記事を公開してきたが、今回、昨年稼働開始した『怒首領蜂最大往生 EXAレーベル』を記念して、exAのオフィスを訪問し、インタビューを行った。

現在、exAは国内で九州から北海道までのロケーションで稼働しているが、コロナ禍の状況ゆえに、まだまだ浸透しているとはいえない。だが、最新の『怒首領蜂最大往生 EXAレーベル』で一気にアーケードファンとゲームセンター経営者に注目が集まっているそうだ。『怒首領蜂』といえば、1997年に稼働開始されたケイブ開発の弾幕シューティングゲームであり、その後のケイブの弾幕路線を決定づけた作品だ。シリーズの最新作は2012年の『最大往生』だったが、今回、さまざまなモードを付け加えて『EXAレーベル』として復活したのだ。

左からアレックス氏、エリック氏、ジェームス氏

今回の移植や新たなモードはexAの内製開発部「TEAM EXA-AM2」のリーダーであるアレックス氏が担当した。ソースコード自体はケイブから提供されたが、処理落ちなどの再現にはかなり苦労したそうだ。アーケードゲームの処理落ちは基本的に基板の性能の上限によって発生する。しかしながら、よりパワフルな基板であれば、ソフト側でシミュレートする必要があるのだ。アレックス氏は数多くのトッププレーヤーのテストプレイやロケテストを参考にしながら、アーケードモードは可能な限りアーケード版オリジナルに遵守する移植を行ったそうだ。

また新たなモードに関しても様々な工夫が取り入られている。『最大往生』はこれまでのケイブファンにとってもかなり難しいゲームであった。筆者もステージ3にたどりつくのがやっとであった記憶がある。そのため、「EXA レーベル」と呼ばれる新モードでは難易度が抑えめでありながら、爽快感を高める調整を行っている。さらに隠された真ボスの「陰蜂」に直接挑戦できる「INBACHI」というモードも実装されている。「陰蜂」はケイブの真ボスと呼ばれる鬼畜難易度のボスの中でも、誰もクリアしたことがない強敵であり、普通のプレイヤーであれば出会うこともまず不可能な存在だ。ある意味、インカムに最も貢献しそうなモードである。

本作用のビジュアル。

他にも左右の画面の空いた部分に各種ステータスの表示を行う「ガジェット」が配置されたり、オリジナルとアレンジのサウンドトラックを選択できたり、1080pや4Kでのビデオ出力ができたり、exAならではの要素が付け加えられている。

exA代表のエリック・チャング氏にはexAというプラットフォームが目指すものについて改めて聞くことができた。エリック氏は『バーチャファイター4エボリューション』でEVOの準優勝を果たしたこともあるゲーマーで、exAは彼が愛するゲームセンターのビデオゲームのためのプラットフォームとして作られた。シューティングゲームや格闘ゲームは現在では家庭用ゲーム機やPCがメインのプラットフォームだが、統一した規格やレスポンスの良さ、さらにはソーシャルな要素を考えると今でもゲームセンターの意義はあると、エリック氏は考えている。また基板となるOSはWindowsであるため、ゲームコンテンツ以外の用途もありうると考えており、ゲームセンターというロケーションを利用した新たなプラットフォームとしてビジネスを展開していきたいそうだ。スペック的にはIntelのCPU、NvidiaのGPUを搭載し、PS5やXbox Series Xと同等のパワーがあるそうだ。逆に言えば、現世代のハードやPCでリリースされたほとんどの作品は、exAに移植することが可能というわけだ。

一方でビジネスモデルは旧来のゲームセンターのやり方を踏襲している。というのは、これまでのゲームセンターは基板をメーカーから購入し、100円や50円で遊ばせることで、仕入れ費用を回収していた。例えば、基板が10万円で1クレジットが100円ならば、1000回プレイされれば基板の費用は回収され、その後はすべて店舗側の収益となる(もちろん、メンテナンス費用などはかかるだろう)。しかしながら、昨今のゲームセンターではネットワーク筐体というものが普及している。これらはオンライン対戦、定期的なコンテンツのアップデートというメリットはあるものの、店舗側は筐体や基板といった初期投資に加え、ネットワーク使用量といった形で、1クレジットの100円から最低30%の手数料をプラットフォーム側などに払う必要があるのだ。結果的に初期投資を回収できる速度も遅くなり、回収したあとも一定額をネットワーク側に収める必要がある。

ところせましと筐体が並ぶオフィスにはexA用に作られたポスターもたくさん並んでいる。

そこでexAだ。exAはシステムソフトを20万、ゲームのROMを14万からで販売している。ゲームセンター側はそれらの初期投資を払ってしまえば、あとはインカムが直接利益となるわけだ。もちろん、オンライン対戦やゲームのアップデートといった要素は利用者にメリットがあるため、一概にネットワーク筐体が悪いということはない。ただし、この形式では店舗におけるゲームのバリエーションが限られ、どのゲームセンターでも人気があるゲームしかないという自体は発生しやすい。エリック氏はゲームセンターに多様なコンテンツを提供したいと考え、旧来のビジネスモデルを採用しているそうだ。また格闘ゲームなどのオンライン対戦には懐疑的で、強いプレイヤーがホームとするゲームセンターに利益が回らないばかりか、ネットワーク遅延に対応するためゲームコンテンツ自体が変化してしまったと語っている。

エリック氏の発想がノスタルジックなアーケード至上主義なのか、ビジネスのニッチを着いた良い発想であるのかは、今のところわからない。少なくとも筆者のようなアーケードゲームに思い入れがあるプレイヤーの足を再びゲームセンターに運ばせるだけの効果はあるのは間違いない。また思いがけない形でゲームセンターでのヒット作も生まれているそうだ。

例えば、『ニッポンマラソン』は奇妙なコスプレをして怪しい日本の都市を駆け回るパーティーゲームだ。インディーゲームとして話題になった作品だが、昨年開催されたロケテストで本作のexA版『ニッポンマラソンターボ』は驚異的なインカムを叩き出したそうだ。たしかにローカルマルチプレイヤーの作品はゲームセンターに似つかわしいものである。これがロケテスト限定のお祭り効果だとしても、ゲームセンター側がイベント形式で営業すれば利益が出る可能性はあるだろう。

またアーケードで根強いファンを持つシューティングゲームでは、『アカとブルー タイプレボリューション』、『ヴリトラ・ヘキサ』といった「新作」がexAに登場している。これらはスマートフォンやPCでリリースされた作品のリメイクであるが、exA版はアーケードのために徹底的な調整がされ、1080pや4Kに対応したグラフィックスにアップグレードされている。際立った集中力が必要されるシューティングゲームはアーケードの環境でプレイしたいという人は多いだろう。筆者もときおり、ゲームセンターでシューティングゲームをプレイしたくなる(一方でこれらの新作の家庭用やPC版も出してほしいという気持ちもある)。

このようにexAでは多くのタイトルをリリースするために、exAの開発環境を様々なゲームエンジンに対応させている。またそれだけではなく、exAではゲームセンター側にプレイ時間やインカムなど様々なデータが見れるツールを提供し、定期的に経営の相談を行い、KPIの設定などもサポートしているそうだ。またexA版の開発を行うデベロッパーには、様々な助言も行っている。エリック氏に言わせると「アーケードは実はブルーオーシャン。コンテンツの数は予想以上に少ない」とのことだ。

同時にexAはゲームセンター営業を行うお店以外にも、一般のゲーマー、レストラン、バーといった店にも販売している。風営法の規制が強い日本では無理だが、北米などでは飲食店に置く事例が増えており、いわゆるアーケード以外にもビデオゲームの生き残る場所は以外にも多いかもしれない。またエリック氏は面白い話として、テック企業が集まるシリコンバレーのオフィスにもたくさんのexAが搭載された筐体が設置されているそうだ。2010年代から、北米ではアーケード筐体がお洒落なアイテムとして認知され、ある種のブームとなっているのがexAの普及を後押ししているそうだ。

日本のゲームセンターの状況はコロナ禍もあって、引き続き厳しいものだ。とはいえ、オフラインでゲームを楽しみたいという需要は年々上がっているように感じられる。現在稼働しているタイトルだけではなく、50本の新作も開発されているそうで、今後のexAがどういう展開になるのかは興味深く見守ろうと思う。

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