「スターフォックス」や「F-ZERO」の今村孝矢の今後は? 大学で教えながらフリーランスでゲームや漫画を手掛ける可能性も?

次の世代に「財産」を伝え、自身のクリエイティブもさらに追及

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「スターフォックス』や「F-ZERO」に『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』のキーパーソンとして知られる今村孝矢さんが32年間を経て、任天堂を退社した。

別のインタビュー記事では任天堂時代について振り返ってもらったが、本稿では今村さんの今後の活躍について伺った。

今村さんは、関西初の「AI・IoT・ロボット・ゲーム・CG」の専門職大学として今月開学した大阪国際工科専門職大学の教授になる。デジタルエンタテインメント学科のCGアニメーションコースで教えるそうだ。専門職大学は、産業界と連携して実践的な教育を行う新・大学制度のため、今村さんのような企業出身の実務家教員が4割以上いるという。

「財産」を次の世代に伝えるセカンドキャリア

 
今村孝矢さん。

「50歳を過ぎてから、セカンドキャリアについて考えるようになっていました。定年まで与えられた仕事をこなしていくのか? 思い切って環境を変えて、やりたいことを早めに始めるか? など、そんな話をいろんな人に相談していたら、新たに開学する大阪国際工科専門職大学で教えてみないかというお誘いを受けました。最初、大学で教えるというイメージは全然なかったんですけど、話を聞いているうちに興味が湧いてきまして、若い人たちに囲まれて仕事をするのも楽しいかもしれない、と思うようになりました。もちろんフリーランスの仕事もしながらですが」と今村さんは経緯を振り返っている。

任天堂の伝説的なクリエイターが培ったノウハウを大学で次の世代のクリエイターに伝えることはまず前例がないだろう。今村さん自身も、これはとても意義のあることだと感じるようになったと言う。

「ちょっと前まで現役だった人がいきなり教える側になるわけですから、それが学生さんにとっていろいろ刺激になればいいな、と思っています」

大阪国際工科専門職大学の学生が今村さんの授業を受けることになるのは3年生になってからだが、大学側はそれ以外にも教授と触れ合える機会を設けていくとのこと。

「大学といえば、広い講堂でたくさんの学生の前で講義をするというイメージがあると思いますが、それよりはずっと学生さんと近い距離で教えることになります。講義以外ではしゃべれない存在ではなく、小学校や中学校のようにずっと一緒にいる感じに近いですね。それこそ、ゲームを作るチームに入ってもらうようなイメージで教えていこうと思っています。インディーゲームの開発ラボみたいな感じです」と今村さんも語っている。

実際にゲームやアプリを開発していくだけでなく、学生は今村さんと一緒にゲームを遊んだり、今村さんが携わった作品をプレイしながら解説を聞いたりするという貴重な機会もあるかもしれない。

大学側は、今村さんのようなゲーム開発の経験が豊富な教員を探すことに苦労したと言う。ゲームはまだまだ「財産を次の世代に伝える」流れができていないと痛感したそうだ。ゲームメーカーは自社のノウハウを守りたがる傾向があるので現役のゲームクリエイターの教授はほぼおらず、だからこそなかなかメーカーの求める人材を育てることもできない。そういう意味で、大阪国際工科専門職大学の開学は新しい流れの始まりになるのかもしれない。

「おそらく僕らの世代辺りからゲーム開発者がたくさん増えたと思います。僕は定年退職を迎えずに大学の先生になったわけですけど、これからは増えるかもしれませんね。任天堂では50歳を過ぎて転職する人はあまりいないかもしれません。他のゲームメーカーに転職するにしても、ちょっと遅いじゃないですか。今後もさまざまな大学でゲームやCGを扱う学科が増えるでしょうし、元ゲームクリエイターが大学で教える需要が増えてくるんじゃないかと思いますね」と今村さん。

大阪国際工科専門職大学では今村さんに加え、ドワンゴの山口尚さんや元カプコンの手塚武さんも教えることになるという。デジタルコンテンツクリエイター出身の教授が充実しているだけでなく、先述したように教授と学生の距離も極めて近い。今年のデジタルエンタテインメント学科の学生は40人くらいだと言う。

今村さんが担当する授業では主にゲームやアプリなどの卒業制作を作っていくことになるそうだが、学生にとって、任天堂を代表するクリエイターの下で勉強ができることはまたとない機会だろう。ただ、今村さんは「任天堂のやりかたはこうだ」という教え方をするつもりはないと言う。

「ずっと任天堂でゲームを作って来たので、自ずとそこで学んだことを伝えることになるとは思います。ただ、『これが任天堂のやりかただ』という風に教えるつもりはないです。同じ任天堂でも、やりかたは個々で大きく違うので、私のやり方で伝えることになると思います」

 

それでも、人生の半分以上も任天堂で働いてきた今村さんでなければ伝えることのできない大切なことも多そうだ。今村さんに「任天堂で学んだ最も大事なことはなんだと思いますか」と聞くと、彼はしばらく考えに耽った。

「……絵もそうですけど、ものまねから始まるじゃないですか。そこからどれだけ自分のオリジナリティを出せるかということが大切で、ゲームの企画も似ています。人に伝わるものって、上手な絵であるとも限らないですし。任天堂は人に魅力を感じてもらえるものはどういうものだろうということを、開発だけでなくみんながすごく一生懸命に考えている会社だと思います」

人に伝わる魅力とは何か。これは言葉で説明できない、だがすべてのクリエイターが日々考えていることなのだろう。その中で、今村さんは任天堂で「粘り強くこだわり続ける」ことを学んだという。

「『これは完璧だ!』と思っても、クールダウンしてからもう一度考えることですね。満足だったとしても、時間の許す限り考え直すというのは学んだ気がします。僕は元々飽きっぽい方ですけど、この32年間でだいぶ粘り強くなったんじゃないかなぁ……。自分で満足してもこだわり続けるということですけど、やりすぎたらダメになることもあるので、そのさじ加減の感覚は身についたと思います」

受け手に衝撃を与えるものづくりは続ける

 

今村さんが大学教授というセカンドキャリアに魅力を感じた理由は、もう1つあるという。それは、フリーランスとしての活動も並行して行えることだ。

「会社勤めだと副業は難しいじゃないですか。でも大学教員であればある程度フリーランスで活動できます。本を出版されている先生も多いですよね。対外的な活動も続けることで、新しい世界にふれて視野が広がったりアイデアがわいたり、クリエイターにとってはプラスが増えるのではないかと思うのです。しかも、そうした活動で得た経験や知識を学生たちに伝えることもできます。僕も二足のわらじでやってみたいと強く思ったので(大学教員)はすごくいい選択なのかもしれないと考えるようになりました」

今村さんは2013年から京都市で開催されているインディーゲームイベントBitSummitへ行くようになってから、その熱気に魅了されたと言う。

 
©Michael Holmes

「すごく熱気があって、楽しそうだなと思っていました。そこでもっと自由にものを作りたいという気持ちが湧いて来ましたね」

インディークリエイターの活動を見て、スーパーファミコンやNINTENDO64向けに少人数でゲームを作っていた頃を思い出した今村さん。任天堂を離れた後、今村さん自身がインディーゲームを手掛けることもあるかもしれない。

「大学が軸足になるので、ディレクター業などは難しいかもしれません。でも企画やキャラクターデザイン、あるいはビジュアルの監修といった形で今後もゲーム制作に携わることができればうれしいですね。インディーゲームであれば2、3人でコンパクトにアプリを作ってもいいわけですから、それはできるかもしれませんね」

小規模のプロジェクトであれば、今村さん中心で制作される可能性が出てこないとも限らないわけだ。そのような機会が訪れた場合は「あまり見たことがない、けれども遊んでみたら心地よいもの」というポリシーを持って作りたいと言う。

「アクションゲームなら見た瞬間に『触りたい!』と感じて、ちょっと操作しただけで『楽しい!』と感じてもらえるものを作りたいですね。『Wii Sports』が良い例だと思いますけど」と今村さん。

もちろん、フリーランスで活動ができるようになった今、何もゲームに縛られる必要があるわけではない。今村さんは「漫画家になる」という子供の頃からの夢もあきらめていないらしい。彼は今、自作の長編漫画を描いており、すでに半分ほどは完成していると言う。

「1年くらい前から趣味でのんびり描いています。もう、わかりやすい娯楽作品で、バリバリのSFアクションです(笑)なんとか出版できるようにしたいと思っていますが、自費出版でもいいかなあ……任天堂退社後の創作活動の証として名刺がわりに配るとか(笑)」

他の業界についても、今村さんは依頼があれば様々なところでキャラクターデザインやイラストを描いてみたいと言う。

「でもどうでしょう? 素人ですから(笑)」

もちろん、キャプテン・ファルコン、フォックス・マクラウド、チンクル、ムジュラの仮面などのデザインで知られる今村さんが素人であるはずがない。彼の任天堂での32年間について詳しく知りたい人は、もう1つのインタビュー記事も読もう。

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