『マイティ・グース』が楽しいのにどこか物足りないのは「1枚のコインを賭けた開発者との勝負」が存在せず、まるで気の抜けたコーラになっているから

「100円を入れるデザイン」がこれほどまでに重要だとは

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オランダのBlastmodeとデンマークのMP2 Gamesが共同開発したゲーム、『マイティ・グース』が楽しい。本作は「メタルスラッグ」シリーズを強く意識した2Dアクションシューティングで、賞金稼ぎのガチョウが暴れまわるという内容だ。

ラン&ガンとも呼ばれるジャンルであり、銃をぶっ放してあらゆる敵を倒していくのが目的となる。武器のアイテムを取得すれば「マシンガン!」と誰かが叫び、ガチョウはガーガーと鳴くうえにたまにカットインで画面に割り込んできて、おまけにウォーマシンというメカに乗って暴れまわるわけだ。

効果音が物足りない、敵の弾が視認しづらいなどの問題点はあるが、ガンガン撃ちまくって気楽に遊ぶゲームとしては確かに楽しい。楽しいのだが、このゲームを遊んでいると「おもしろいのに、ものすごく物足りない気分」になる。

それはなぜか。おそらく、本作が「コインをいっこ入れられない作り」だからだろう。

かつての100円を入れるアーケードゲームと、買い切り型ゲームの差

『メタルスラッグ』(1996) 画像はSteamより

もちろん私は『マイティ・グース』を遊ぶためにお金を払ってゲームを購入しているが、ここで言うコインを入れる行為とはアーケードゲームでのことを指し示す。もともと「メタルスラッグ」のようなゲームはアーケード、つまりゲームセンターなどで遊ばれ人気が出た作品であり、遊びたいときにはゲーム筐体に100円を入れてプレイ開始となるわけだ。

つまり、ある程度まとまったお金を出してゲームソフトを購入する買い切り型の作品とは違うビジネスモデルが用意されている。ビジネスモデルが変わるとゲームのおもしろさも変化し、たとえば家庭用ゲーム機版の「マリオカート」はレースゲームだが、スマホ向けの基本プレイ無料タイトル『マリオカート ツアー』はキャラクターやカートの育成に重点が置かれるようになるわけだ。

かつてのアーケードゲームの場合、最初に100円を入れてもらうのが重要となる。とにかく遊んでもらえなければお金を稼げないわけで、見た目も楽しそうでなければならないし、1面で特に楽しませる必要があるだろう。

しかし、100円を入れたあとずっと遊ばれては困る。つまり、どこかでプレイヤーを殺してコンティニューでまた100円を入れてもらう必要があるわけだ。ただし、強引に殺してはプレイヤーが白けてしまうため、ほどよく難しくして自然に殺し、攻略の可能性があるように思わせるのがベストとなる。

『METAL SLUG 3』(2000)の「ソル・デ・ロカ」は確実にプレイヤーを殺そうとしてくるやりすぎなくらいのボス  画像はSteamより

プレイヤーは覚えたテクニックを駆使したり、パターンを構築したり、あるいは他人からコツを教えてもらうなどをしてクリアを目指していく。こうすることでゲームセンターという場所が盛り上がり、かつゲームにお金を使ってもらえる状況を作り出せたわけだ。現在のゲームセンターはまた環境が違うだろうし、作品によってもビジネスモデルはさまざまだが、「メタルスラッグ」のような作品はそうだろう。

また、アーケードゲームにはワンコインでクリアするという文脈があり、その挑戦もまた楽しみのひとつなわけだ。いまでいう「スマホ向け基本プレイ無料ゲームに対する無課金プレイ」みたいなものだろうか(意味合いはだいぶ異なるが)。

「メタルスラッグ」のようなゲームは、コンティニューしまくってクリアしてもそれなりのおもしろさにとどまる。もちろん友達と一緒にワイワイ遊ぶならそれでもいいのだが、クリアしたらたいていその一度きりでおしまいだ。しかし、ワンコインでクリアしようとすると途端にシビアな“開発者との勝負”が始まる。これは本当に刺激的で、特定のジャンルではそれを乗り越えようとする遊び方も根強いほどである。

ゴリ押しのガチョウと、鑑賞できないほど殺しにくる食器

『マイティ・グース』(2021)

では、『マイティ・グース』はどうか。本作は明らかに買い切り型として制作されている。そのため「メタルスラッグ」のようにプレイヤーを殺す必要がなく、ゆえに優しい作品に仕上がっているのだ。

本作では敵の攻撃を避けたりパターンを覚える必要はあまりなく、マシンガンやショットガンなどの武器をガンガン撃ったり、あるいは一時的に無敵になれる「マイティモード」を使えばゴリ押しできてしまう。緊急回避も非常に強く、道中で拾ったコインを使えば武器やウォーマシンを呼び寄せることもできる。

Steamの『マイティ・グース』ストアページには「プレイヤーのスキル、タイミング、反射神経が試される」と書いてあるが、これはあまり正確ではない。むしろ、気軽にガンガン撃っていればだいたいクリアできるカジュアルなアクションシューティングといえよう。

これ自体はなんら悪いことではないし、むしろサクッと遊ぶという意味では長所であるとすらいえる。しかし、「メタルスラッグ」の影響を非常に大きく受けているにも関わらず、前述の100円を入れて開発者に挑戦するアーケードゲームの文脈はまるっと削除されているのだ。こうなると、物足りなさを覚えるのも当然ではないか。

もちろん、ビジネスモデルが変化するのであればアーケードゲームの文脈をそのまま引き継ぐことはできない。つまりここに工夫が必要で、それをうまく成功させているのが『Cuphead』だろう。

『Cuphead』(2017)

『Cuphead』もいわゆる2Dアクションシューティング(ラン&ガン)に該当する作品で、レトロなカートゥーンアニメ風のビジュアルと洒落たジャズサウンドが素晴らしい作品だ。一方で、それらを鑑賞している余裕がないほどに高難易度でもある。そこに疑問を持つプレイヤーもいるが、実はそれこそが重要となる。そもそもこのジャンルにおいては、「プレイヤーを楽しませると同時に、開発者の挑戦状を叩きつける」という文脈があるのだから。

一方、『Cuphead』は昨今の流れにも沿うようになっている。確かに難易度は高いが、通常ステージとボス戦が区切られている。ゆえにプレイヤーはむやみに長いステージに挑戦しなくてよく、難しくてもクリアしやすい。もしやられたとしてもどれほどステージを攻略できたか進捗が表示されるため、上達具合を理解しやすい。つまり、プレイヤーに挑戦状を叩きつけつつもやる気をなくさないような配慮もあるわけだ。

一口にアクションゲームといってもその内容はさまざまだが、このジャンルにおいては難関を乗り越えることは重要であり、ただ簡単にしただけでは味わいも抜けてしまう。このガチョウに足りなかったものは、「コインを入れて開発者と戦うデザイン」だった。それがないと、まるで気の抜けたコーラを飲むような、甘いけれどもただ甘いだけの作品に感じられてしまうのだ。

ガチョウには、カジュアルならではの可能性もあったのではないか

『マイティ・グース』(2021)

とはいえ、炭酸の入っていないコーラが好きな人もいるように、カジュアルな「メタルスラッグ」を目指すという方向性もありだろう。それならば、『マイティ・グース』はもっと可能性があったのではないか。

本作をカジュアルなゲームと捉えたとしても、攻略方法が「パワーアップでゴリ押しする」なんて一言で済んでしまう単調さが気になるのは事実だ。エレベーターで敵の湧き待ちをするシーンなどは特に暇なので、そこで会話劇を挟んだり(ただし操作を邪魔しないものにする)、お金で恒久的なアップグレードや装飾品を買えるようにしたり、あるいは出落ちでもいいのでぶっ飛んだステージギミックを用意すれば、「カジュアルだからこそ楽しい」と評価されやすくなるだろう。

そもそもカジュアルにするのであれば、いっそのこともっとライフを増やしてプレイヤーがかなり死にづらくなる優しいモードを用意してもよかっただろう。穴に落ちてやられることもいくらかあるので、ガチョウに羽が生えて空を飛べるなんてふざけたシステムを用意すれば初心者救済にもなるはず。このあたりを考慮すると、本作はどうもカジュアルにも振り切れていないのだ。

特定の作品から大きく影響を受けるのはなんら悪くない。ただ、元の作品の何が重要なのかをきちんと掴めていないと、ただコーラの気が抜けるのかもしれない。


渡邉卓也(@SSSSSDM)はフリーランスのゲームライター。『マイティ・グース』でも「メタルスラッグ」でもシャッガンが好き。

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