タイトーから2022年2月24日発売予定のNintendo Switch用ソフト『タイトーマイルストーン』と、同じくタイトーから2022年3月2日に発売予定の卓上ゲームセンター“イーグレットツー ミニ”。クラシックゲームを復刻するこの2タイトルについて、『タイトーマイルストーン』のプロデューサー・外山雄一氏、イーグレットツー ミニのプロモーションを担当する“お林さん”こと林 幸人氏、そして両タイトルのサウンド監修を担当する石川勝久氏による鼎談を行った。

『タイトーマイルストーン』とは?

 1980年代の名作アーケードゲームを集めたNintendo Switch用ソフト。収録タイトルは10本で、いずれも『アーケードアーカイブス』(以下、『アケアカ』)で定評のあるハムスターが開発を手掛けている。収録タイトルの中には『アケアカ』未収録のものもあるが、いずれはすべて『アケアカ』でも単体で配信予定とのこと。

『タイトーマイルストーン』収録タイトル

  • ニンジャウォーリアーズ
  • ハレーズコメット
  • フェアリーランドストーリー
  • ちゃっくんぽっぷ
  • エレベーターアクション
  • アルペンスキー
  • ワイルドウエスタン
  • フロントライン
  • QIX(クイックス)
  • スペースシーカー
『タイトーマイルストーン』&“イーグレットツー ミニ”開発座談会。両プロジェクトの目指す先は“未来のため”
『タイトーマイルストーン』&“イーグレットツー ミニ”開発座談会。両プロジェクトの目指す先は“未来のため”
『タイトーマイルストーン』&“イーグレットツー ミニ”開発座談会。両プロジェクトの目指す先は“未来のため”
『タイトーマイルストーン』(Switch)の購入はこちら(Amazon.co.jp) 『タイトーマイルストーン』(Switch)ファミ通DXパック TシャツサイズLの購入はこちら(Amazon.co.jp)

イーグレットツー ミニとは?

 1970年代~1990年代の名作アーケードゲームが遊べる卓上ゲーム機。本体だけでも40本収録されており、さらに“イーグレットツー ミニ専用パドル&トラックボールゲーム拡張セット”で10タイトルが追加可能。

イーグレットツー ミニ収録タイトル

『タイトーマイルストーン』&“イーグレットツー ミニ”開発座談会。両プロジェクトの目指す先は“未来のため”

『イーグレットツー ミニ専用パドル&トラックボールゲーム拡張セット』収録タイトル

『タイトーマイルストーン』&“イーグレットツー ミニ”開発座談会。両プロジェクトの目指す先は“未来のため”
『タイトーマイルストーン』&“イーグレットツー ミニ”開発座談会。両プロジェクトの目指す先は“未来のため”
『タイトーマイルストーン』&“イーグレットツー ミニ”開発座談会。両プロジェクトの目指す先は“未来のため”
『タイトーマイルストーン』&“イーグレットツー ミニ”開発座談会。両プロジェクトの目指す先は“未来のため”
イーグレットツー ミニの購入はこちら(Amazon.co.jp) イーグレットツー ミニ専用パドル&トラックボールゲーム拡張セット(初回限定)の購入はこちら(Amazon.co.jp) イーグレットツー ミニフルパッケージ 豪華特装版(初回限定)の購入はこちら(Amazon.co.jp)

外山雄一氏(とやま ゆういち)

『タイトーマイルストーン』プロデューサー。
(文中は外山)

石川勝久氏(いしかわ かつひさ)

『タイトーマイルストーン』・“イーグレットツー ミニ”でそれぞれサウンド監修と特典CD制作を担当。
(文中は石川)

林 幸人氏(おはやし ゆきと)

“イーグレットツー ミニ”プロモーション担当。
(文中はお林)

『タイトーマイルストーン』&“イーグレットツー ミニ”開発座談会。両プロジェクトの目指す先は“未来のため”

――まずは、皆さんそれぞれの立場を教えてください。

お林イーグレットツー ミニのプロモーション担当です。まずは自己紹介ですね。昔、上京したあとアトラスを退社して、再就職先を探していたとき、ファミコン通信の“ゲーマー募集”という広告を見かけまして……。

――ええっ! ファミ通に!?

お林さっそく応募したところ、ゲームのプレイと筆記試験を受けさせられました。結果的には落ちたんですけど(笑)。そのときの筆記の内容がすごくて、なんと算数問題だったんですよ。“『ドラゴンクエスト』のすべての街の宿屋の合計料金を答えよ”みたいな内容で、「こんなに難度が高いのか」とビックリしました。それからは、もっと真摯にゲームを遊ぼうと思いました。いまでも実家を探せば、問題用紙が出てくると思いますよ。

――お林さんを落とすファミ通(笑)。もし採用されていたらその後のゲーム業界がいろいろと変わっていそうですね。上京する前はどちらにいらっしゃったのですか?

お林出身は熊本で、そこにはパチンコ屋もゲームセンターも多かったんです。お客さんの取り合いになって価格競争が起きていたので、50円2ゲームが当たり前の環境でした。しかも新作が!

――それはうらやましい環境ですね。

お林そのため、小遣いが少なくても友だちとたっぷりプレイできました。ただ、価格設定が安い代わりに、難易度が高く設定されていることも多く、おかげでゲームの腕が鍛えられました。

 友だちといっしょに『ギャプラス』にもハマっていました。ひとりではハイスコアを目指すのがきびしいので(※)。

※『ギャプラス』は上級者になると延々とプレイできるが、カウンターストップとなる9999万9900点の達成を目指すと数日かかる。

 1970年代もずっとゲームをやっていて、デパートの屋上でリレーとかスイッチで動くエレメカを、幼稚園のころから遊んでいました。

――なんだか、ファミコン通信の募集の話からどんどん時間が遡っているような。

お林ファミ通と言えば、『ログイン』(※)も当時から読んでいまして……。

※アスキー(現KADOKAWA)が刊行していたPCゲーム誌。

――あ、そのへんで大丈夫です! 外山さんの自己紹介をお願いします。

外山『タイトーマイルストーン』では、プロデューサーを担当しています。ゲーム業界に関わったことといえば、高校3年生のときに『ログイン』のプログラムコンテストに応募して30万円をもらったのが最初でしたね。高校生にとっては大金です。そのお金で、MSX2を買いました。安くなる前の時代のMSX2ですよ!

――けっきょく『ログイン』のお話に! そしてすごいです。

外山賞金をもらったとき、当時の『ログイン』編集長から、長崎の自宅へ電話がかかってきました。高校生の俺に直接電話してくるなんてすごい! と感動しましたね。それもこの仕事を志した理由のひとつではあります。

 あとは、1987年ごろ佐世保にあった四ヶ町商店街のゲームセンターで、初めて『ダライアス』に触れました。ただ、すでに社会人として働いている時期だったので、それ以降はあまりアーケードゲームをやり込めてはいませんでしたね。1980年代序盤までは、ゲームセンターというよりは駄菓子屋、実家の近所では金物屋や電器屋にゲームが置いてあって……『スペースインベーダー』を置いている、家からいちばん近い店は寿司屋でした(笑)。

――お寿司屋さんに『スペースインベーダー』とは、なかなかシュールな光景ですね。石川さんは両タイトルに関わられているんですよね?

石川『タイトーマイルストーン』とイーグレットツー ミニではサウンド監修、それと特典CDの企画と制作を担当しています。

 いま、昔のタイトーの音楽を知っているのが僕くらいしかいないので、僕が出張らなくてはどうしようもないという感じですね(笑)。ただ、僕は昔からゲームをそれほどやり込んでプレイしていたわけではなく、どちらかと言うとゲームミュージックマニアだったんです。ゲーム自体は友だちにやってもらって、その音楽を聴いていました。

――ZUNTATAの石川さんらしいゲームとの接点ですね。当時衝撃を受けたゲームサウンドは何ですか?

石川小中学生のころはゲームセンターに対するイメージがよくなくてあまり行っていなかったんですが、セガのアーケードゲーム『カルテット』の音楽には衝撃を受けました。当時バンドもやっていたのでDX7(※)でFM音源については知っていました。ただ、そのころはそれまでゲーム音楽といえばシンプルな、ピコピコ音のするものというイメージを持っていたんです。

※ヤマハのシンセサイザー。

 そのイメージが、『カルテット』で変わりました。最近はゲームでもFM音源がのっているんだと。それをきっかけにゲーム音楽にのめり込みましたね。

 そのあとは、やっぱり『セクションZ』(※)です。曲がメチャクチャカッコよくて。それとバンドをやっていた影響もあって、バンドサウンドに近いセガの音楽には強く惹かれていました。

※カプコンのアーケードゲーム。作曲はその後ZUNTATAに移籍することになるTAMAYOさん。

――セガのサウンド、いいですよね。タイトーへ入ったきっかけは……?

石川じつはタイトーの音楽はそんなに聴いていなかったんです。それでも『ダライアス』の音楽はすごい迫力で、低音によってボロいゲーセンの窓枠がビリビリ震えていたのが印象に残っています。

 タイトー関連の話としては、タイトーに入る前、どこかで『ナイトストライカー』のロケテストがやっていて、そこでロケ調査の方が来ていたんです。当時の自分はイヤなゲームミュージックオタクだったので、「タイトーの音色っていつも似ていますよね」みたいな感じで言った覚えがあります(笑)。

 ちなみにあとから知ったのですが、そのロケ調査の方は、『ナイトストライカー』の企画を担当された海道賢仁さんでした。

――おお、すごい巡り合わせ!

石川『ナイトストライカー』は、ゲームもおもしろくて、ホーミングミサイルを発射する前の「カァーン」っていう音がトラウマものでしたね(笑)。

『タイトーマイルストーン』&“イーグレットツー ミニ”開発座談会。両プロジェクトの目指す先は“未来のため”

何が何でも復刻したかった『ルパン三世』

――イーグレットツー ミニに入るゲームはどのように決まったのですか?

お林8方向および4方向レバーとボタンで遊べる操作形態で、“当時楽しかった手触り感”を大事にしてタイトルを選定しました。

 ハンドルがないと楽しさが再現できないレースゲームなどは最初から候補から外れていました。未収録のもので汎用筐体もののタイトルに関しては、SDカードで対応していけたらと、現在検討中です。それと選定基準としては、世に出てお客さんが遊んだものというのもあります。

――『アドベンチャーカヌー』などマニアックなものも収録されているのはうれしいです。

お林僕の友だちの友だちで、都内のゲームセンターに行ったとき、稼動していたゲームを書き残していた人がいたんです。その方に調べていただいたところ、とある店で『アドベンチャーカヌー』がありまして。そこにあったならいいだろうと、収録が決まりました。

――なるほど。『フロッグ&スパイダー』なども候補に上がりましたか?

お林『フロッグ&スパイダー』はですね……ゲーム内容はともかく、収録したかったです(笑)。

外山いわゆる“インベーダー基板”で動くものは全部入れてほしいよね(笑)。

――当時インベーダーの基板でさまざまなゲームが作られてましたよね。後続の基板で『スペースサイクロン』(※)などもありましたが……。

※Nintendo Switchの『スペースインベーダー インヴィンシブルコレクション』にて復刻・収録されている。

外山『スペースサイクロン』は、タイトー入社前に“レトロゲーム・アラカルト(※)”で初めて知りました。

※2016年4月に沼津で開催されたイベント。

お林昔のゲームを語ると、基板の歴史になってきますよね。純正以外の基板で動くケースもあったり……。

――店舗によって音が違うから、何がオリジナルかわからなくなることもありました。

お林イーグレットツー ミニで復刻する際、収録するタイトルを決めるとき、正しい基板の音が出ているのかを念入りに確認しました。

――収録タイトルの中では、『ルパン三世』が驚きでした。

お林そうですね。最初は版元がどこかわからなくて、前職の伝手を生かして、さまざまな人脈を頼りに、ようやく解決にいたりました。その伝手がなかったら、『ルパン三世』の収録はなかったと思います。

――古いものの版元を確認するのはたいへんそうですね……。

お林本当にたいへんです(苦笑)。それでも、版権キャラのゲームとしては『ルパン三世』は入れるべきだと考えました。

『タイトーマイルストーン』&“イーグレットツー ミニ”開発座談会。両プロジェクトの目指す先は“未来のため”
『ルパン三世』

――では、『タイトーマイルストーン』に収録する作品はどう決まりましたか?

外山“ハムスターさん(※)が用意できるもの”を前提に、お客さんが求めるものを優先して決めました。

※本作の収録タイトルはハムスターが開発している。

 可能であれば『タイトーマイルストーン2』、『3』とシリーズ化していきたいです。

――夢が広がりますね。

外山そのためにも皆さんぜひ『タイトーマイルストーン』を遊んでください。また、『タイトーマイルストーン』収録作品は『アーケードアーカイブス』でもいずれは配信されますので、皆さんのお好きなプレイ環境を選べるのも本作の魅力です。

『タイトーマイルストーン』&“イーグレットツー ミニ”開発座談会。両プロジェクトの目指す先は“未来のため”

――どちらも楽しみです。リリースされたら、タイトーのクラシックゲームにはしばらく困らなさそうです。

お林イーグレットツー ミニはゲーム史上でも、二度とないかもしれない歴史的なハードだろう、と個人的には思っています。

 タイトーというメーカーを知っていただくため、タイトーを体現するようなタイトルでなくてはならないと考え、社内でもさまざまな協議を重ねて、収録タイトルを決めていきました。

 候補はたくさん挙がりましたが、収録タイトルはすべて、社内で満場一致で決まったものです。マスターロムがないといった理由で収録をあきらめたタイトルはないですね。そこは安心していただければと思います。ただ1枠だけ、『アドベンチャーカヌー』だけは、強引に“お林枠”という形でねじ込みました。

――お林さんイチオシの1本なんですね。収録タイトルを50種類にするのは最初から決めていたのですか?

お林「まずは50タイトル」と決めていました。SDカードによる拡張があるので、順調に売れればつぎに収録すればいいかと。

――頼もしいです! 公式Twitterでも収録タイトルを募集していましたね。どんなタイトルの要望が多かったのですか?

お林圧倒的に『ナイトストライカー』ですね。もちろん第1弾で終わるつもりはないので、イーグレットツー ミニのヒット次第で、さらなるタイトルの復刻が実現できるかと思います。

 それと個人的な考えではありますが、実際のゲームセンターではタイトー以外のタイトルも稼動していたわけで、今後他社さんのタイトルも収録できればいいかなとは思っています。

――すばらしいお考えです。レアなタイトルも、このハードなら収録できそうですね。

お林ワイバーンF-0』や『イグジーザス』など2画面で動くタイトルや、『ワイバーンF-0』と同じ基板を使っていた、直営店で少数稼動したほぼ未発売タイトルと言っていい『ローンウルフ』なども復刻できればいいななと、個人的には思っています。

――今回収録されている『断仇牙』も未発売タイトルでしたし、『ローンウルフ』が日の目を見るときも来る可能性があるわけですか。

お林ちなみに『ローンウルフ』のゲーム内容ですが、当時チラシが出ていたので、世のどこかで読めるかもしれませんね。

『タイトーマイルストーン』&“イーグレットツー ミニ”開発座談会。両プロジェクトの目指す先は“未来のため”
『断仇牙』

『タイトーマイルストーン』メニュー画面のBGMは新規書き下ろし!

――『タイトーマイルストーン』やイーグレットツー ミニにも、書き下ろしのBGMが収録されていますね。

石川『タイトーマイルストーン』ではメニュー画面のBGMがあって、PSG風に書き下ろしてもらっています。イーグレットツー ミニにはメニュー曲が3曲あって、1曲目がMSM5232(※1)、いわゆる『フェアリーランドストーリー』や『アウターゾーン』などで使われている音源をモチーフにした曲です。

――1980年代中盤あたりのイメージですか。

石川2曲目は、『ニンジャウォーリアーズ』や『メタルブラック』などで使われているFM音源のYM2610(※2)をモチーフにしています。『タイトーマイルストーン』とイーグレットツーミニの1曲目と2曲目は元ZUNTATAの瓜田幸治さんに制作してもらいました。彼自身、音源スペックとかにすごく詳しいのでこだわって制作してもらっています。そしてイーグレットツーミニの3曲目は、うちの土屋(※3)が作ってくれた曲で、音源縛りのないオーケストラの曲です。

※1、※2:いずれも音源チップ。
※3:土屋昇平氏。タイトーのサウンドチーム“ZUNTATA”に所属。

――新しい曲なのに、それぞれの時代がテーマになっているんですね。

石川イーグレットツーミニのほうは3曲続けて聞くと、アーケードゲームの音源の年代を追えるようになっています。『タイトーマイルストーン』のほうは今回はPSG風に作ってもらいましたが次回はFM音源風などのように、同じ曲でも音色の差し替えで対応できるような雰囲気の曲にしてほしいと瓜田(※)さんにお願いしました。

※瓜田幸治氏。サウンドデザイナー。

 瓜田さんいわく、単純に新規のBGMを作るのではなく、基板がSJシステムのころであればこういう曲を作るだろう、というイメージで制作したとのことです。マニアックなこだわりですね(笑)

――BGMのお話を聞いていて思ったのですが、ゲームのBGMって何が始まりなのでしょう? ナムコさんの『ラリーX』かも? という話を聞いたことがありますが……。

お林BGMを“ゲームプレイ中に流れる音楽”と定義しますと、1980年の『インディアンバトル』や『カーニバル』のほうが先ですね。

――となると、『インディアンバトル』がBGMの元祖に近い感じですかね?

石川“ゲームミュージックどれがいちばん最初か”という論争はじつはけっこうあって(笑)。

お林一説には、1979年に出た任天堂さんの『シェリフ』ではないかということも言われていますね。SEが鳴ったときもBGMが途切れず流れていたり、優先処理もしっかりあるっぽいです。あくまでメカ的な仕様を含まないゲームでですが。

――調べていくとおもしろい話題ですが、ちょっと脱線してきましたね。石川さんがサウンド監修で苦労したことはなんでしょうか?

石川最初にイーグレットツー ミニが形になってきたとき、監修前はサウンドがけっこうボロボロなものが多くて。「これ、どうしたもんかな」と悩みました(笑)。とくに古いゲームのサウンド再現は難しいものが多くて苦労しました。

 ただ、イーグレットツー ミニの開発チームが優秀で、いろいろなことを指摘していくうちに、みるみるよくなっていきました。最終的には満足できるデキになったと思います。

『タイトーマイルストーン』&“イーグレットツー ミニ”開発座談会。両プロジェクトの目指す先は“未来のため”

タイトーの各種マザーボードに関するお話

――タイトーのゲームの歴史は長いだけあって、さまざまなマザーボードがありますね。古くはSJシステムから……。

お林SJシステムは基板の形ごとに4パターンありまして、最初の基板は『スペースクルーザー』や『スペースシーカー』、『バイオアタック』などがありました。

――SJシステムの代表作と言えば、やはり『エレベーターアクション』ですかね?

お林海外での評判も含めればそうですね。

――イーグレットツー ミニでは基板集めも苦労されたそうですね。

お林エミュレートではなく、実際にオリジナルの基板を開発スタッフにわたして、データを吸い出してもらっています。なかにはタイトー社内にも残っていない基板もあるので、外山さんと某所へサルベージしに行ったり……。

 『アウターゾーン』なんかも基板がなくて、ようやく見つけたと思ってもところどころパーツが抜けていたりしているんですよ。小さいセキュリティーチップがないだけで、起動が難しいんですよ。

――セキュリティーチップは、当時のコピー対策でしょうかね。令和の時代になって復刻の妨げになるとは……。

お林セキュリティーチップが付いた基板自体は世に出回っているのですが、我々が必要なのはそのセキュリティーチップを作るためのマスター基板なので、たいへんでした。『アウターゾーン』は、本当にギリギリでちゃんとした基板が見つかって入れられた感じですね。

石川基板によって音に差が出るのも問題でした。同じ基板でも音程が違うものがあったり、鳴りかたが違ったりして……。同じオリジナル基板の『インベーダー』であったとしても、違いが出ます。1個1個別回路で作っているので、部品の劣化などで音が変わってきてしまうんですよね。逆にいうと、どれがオリジナルなのかを判別するのも苦労しました。

 今回の収録タイトルでいうと『マリンデート』が、一部のサウンドがこわれていたのですが、ゲーム自体がマイナーだったため誰も違和感に気付かなくて(苦笑)。昔のタイトーの営業ビデオを見て、当時との違いに気付けました。

お林物理回路のものって、別回路を使って別効果を生み出しているものも多いんですよね。それもあって、今回はオリジナルのものが本当に当時そのものの効果を出せているのか、検証が難しかったです。記憶と、当時の映像頼みでしたね。

――苦労を乗り越えて復刻していただけるのは、クラシックゲームファンとしてありがたいです。タイトーの基板というと、Hシステムとかもありますよね。Hシステムの『サイバリオン』は24kHzのモニターにつながないと動かせないとか……。

お林それも苦労しました。映ったと思ったら消えてしまったり不安定で……。そのうち、相性のいいコンバーターが見つかったので、それを使ってやっとなんとかなりました。

 ほかには、『ミッドナイトランディング』などの専用筐体を使うものもありました。当時は同じ筐体で『ミッドナイトランディング』が『トップランディング』に変わったのを覚えていますが、同じ基板を使っていたんですかね。

外山社内資料では同じ系統の基板となっていますが、表示能力が全然違うので、バージョンアップ版なのかもしれません。

石川『ミッドナイトランディング』は、4つスピーカーを積んで、それぞれから別の音が出るという仕組みでしたね。飛行のジェット音、ナレーション、音楽が全部別の出力で出ているという、謎のこだわりがありました。

――『ミッドナイトランディング』と『トップランディング』が同じ基板というのは驚きです。ほかのマザーボードだと……『レイメイズ』のLシステムとか。

石川Lシステムボードのタイトルは基本的に音源がYM2203だったのですが、『レイメイズ』は音源がYM2610なんですよね。

――そうなんですか。あと、回転拡大縮小機能のついたF2システムでは、世に出なかったタイトルもあるのですか?

石川サイドエフェクト』というゲームが、ロケテストだけやって世に出ませんでした。円形のフィールドの真ん中に砲台があって、周りから敵が来るのをパドルで撃ち落とすというゲームです。ちなみに、曲だけはアレンジバージョンのみですが、CD(※)で出ています。

※アルバム『新大陸』(1991年:サイトロンレーベル)に収録。

外山ほかにロケテストだけやって未発売になったタイトルとしては、『ついんくいっくす』などもありますね。

 これらは社内ではROMが作られたのですが、けっきょくお蔵入りになりました。世に出回っているものもありますが、それらは不正コピーされたものです。

――未発売タイトルもいろいろなものがあるんですね。F3システムは大ヒット基板でしたね。クイズ系のゲームも多く出ました。

お林クイズがブームの時期でしたしね。ただ、クイズゲームに関しては時事ネタも多いので、その辺のタイトルは今出しても……という感じではあります。

 イーグレットツー ミニに収録されている『エレベーターアクションリターンズ』も、この時期に発売されましたね。ぜひ新規の人にも遊んでもらいたいタイトルです。

――新しめの時代(と言っても1990年代後半)に稼動していたFX-1システムは人気のタイトルも多く、イーグレットツー ミニに収録されてもおかしくないものもありますが……。

お林サイキックフォース』に関しては、入れるべきだという声も多かったです。

石川確かに『サイキックフォース』(※)は入れたかった……。でも、そうするとイーグレットツー ミニで再現すべきシステム基板(※)が1種類増えてしまうんですよね。それは開発コスト的にきびしいかなと。

※『サイキックフォース』のシステム基板はFX-1A。

未来のための復刻プロジェクト

――今後の拡張に期待します。開発の際に心掛けたこととかもお聞きしたいです。

お林たぶん、5年後10年後に我々の後輩がイーグレットツー ミニと似たような商品を作るかと思います。そういう人に向けても、きちんとしたものを残さないといけないな、と考えて作りました。開発に関するノウハウも、後々に備えてキッチリ残してあります。

 イーグレットツー ミニはタイトー40年の資産であると思っているので、未来のためにもいいものができるようにがんばりました。

――ゲーム業界全体で、過去の作品のアーカイブ化を目指す動きは活発だと思いますが、タイトーさんの場合は40年の歴史があって、ビデオゲーム以前から考えると膨大な量になりそうですね。

お林クラシックゲームを遊べる手段は、いつでも用意しておきたいですね。消してはいけないものですし、いつまでも覚えておいてもらいたいですから。

――最後に、『タイトーマイルストーン』とイーグレットツー ミニを楽しみにしているファンに向けてメッセージをお願いします。

外山どうしても過去タイトルを復刻するときは超人気作ばかりに偏りがちですが、『タイトーマイルストーン』やイーグレットツー ミニのような商品が出ればそれ以外のタイトルも復刻の機会を得られると思います。

 今後も続けていって、クラシックゲーム業界全体を盛り上げたいと思いますので、ぜひ応援をいただけますと幸いです。『タイトーマイルストーン』に関しては、Tシャツ付きの限定版もエビテンで発売されるので、そちらもよろしくお願いします。

お林50タイトルしっかり吟味して、“THE・タイトー”を体感してもらうための商品になっていると思います。ひとつでもプレイしたゲームがあればぜひプレイしていただきたいですし、そこから当時こんなゲームがあったんだ! ということも含めて、ぜひ楽しんでください。

 イーグレットツー ミニが続いていくためにも、復刻の要望や感想についても、どんどん寄せていただければ幸いです。

石川『タイトーマイルストーン』もイーグレットツー ミニも、タイトーの最初期からアーケード全盛期のゲームまで遊ぶことができると思います。“ZUNTATA”という名前がタイトーのサウンドチームに付いていない時代のタイトルも多くて、僕が関わる以前の先輩方のサウンドも楽しめるので、タイトーサウンドの進化の歴史を味わってみてほしいです。

 それともちろん、特典CDについてもよろしくお願いします。たいへん苦労したので、できれば特典CD付きのものを買っていただければうれしいです(笑)。