ハムスターによる、1980年代および1990年代を中心としたクラシックアーケードゲームを現行機に復刻するプロジェクト『アーケードアーカイブス』(以下、『アケアカ』)。2021年9月24日からは同プロジェクトにナムコタイトルも参加し、2021年12月23日にはKONAMIの人気シューティングゲーム『ゼクセクス』も配信。ますます勢いづいているようにも見えるが、何もかも順調というわけではない。社長兼『アケアカ』プロデューサーを務める濱田倫氏が、2021年7月にコロナ陽性が判明し、じつに1ヵ月半ものあいだ入院および自宅療養での闘病生活をしていたのだ。

 昨年、コロナ禍の真っただ中に濱田氏を取材した際、「ハムスターの社員からは、ひとりも感染者を出さない」と言っていた濱田氏だが、ご自身がコロナに罹患し、復帰したいまも『アケアカ』のリリースは続いている。

 退院後、後遺症は残ったものの以前のように毎週の生放送に出演されるようになった濱田氏。入院の前後で開発体制に変化などはあったのか、また今後のリリースはどうなるかなど、気になることを訊いてみた。

取材日は2021年10月28日ですが、年末の記事公開に合わせて内容を若干編集しています。ご了承ください。

濱田 倫氏(はまだ さとし)

ハムスター代表取締役。『アーケードアーカイブス』および『アケアカNEOGEO』のプロデューサー。おもに1980年代、1990年代のアーケードゲームの名作を復刻して毎週リリースしている。

『アケアカ』コロナ対策を誰よりも徹底していたハムスター濱田社長にインタビュー。無念のコロナ罹患、そして退院後の開発体制は?
『アケアカ』コロナ対策を誰よりも徹底していたハムスター濱田社長にインタビュー。無念のコロナ罹患、そして退院後の開発体制は?
『アケアカ』コロナ対策を誰よりも徹底していたハムスター濱田社長にインタビュー。無念のコロナ罹患、そして退院後の開発体制は?
『アケアカ』シリーズより、『ゼクセクス』、『ダーウィン4078』、『ミズバク大冒険』。

プロデューサー入院で『アケアカ』最大のピンチ! 乗り切るまでの道のりを振り返る

――昨年の取材では、「ハムスターの社員から感染者はひとりも出さない」、「そのうえで毎週『アケアカ』のリリースを目指す」とおっしゃっていましたね。そんな濱田さんが、まさかコロナに罹るとは思いませんでした。

濱田『アケアカ』ファンの皆様にはご心配をおかけしました。昨年は偉そうなことを言っておきながら自分だけが罹るというオチになりましたが、一応“社員の感染者はゼロ”は達成しています。

――あ、社長はノーカウントの方向ですか。入院されたときはどんなことを考えていましたか?

濱田もうダメだと思いましたね。コロナ禍の始まりから順番に説明しますと、ハムスターでは2020年3月末から全面的なテレワークを導入していたんです。毎週の全体会議では、ひとりひとりがコロナに感染しないよう、しつこいくらい注意喚起もして……。

――コロナ禍が始まってすぐ、徹底されていたわけですね。テレワークの導入によって、社内にはほとんど人の出入りがなくなったと。

濱田はい。生放送(※)をご覧になっている方はご存じの通り、社内には私がひとりで寝泊まりし、外部との接触を最低限に抑えました。

※毎週木曜日にハムスターが配信している“アーケードアーカイバー”のこと。

ハムスターチャンネル(アーケードアーカイバー視聴ページ)

――外出するのは、たまの買い物とゴミ出しくらいだと言っていましたね。

濱田その買い物も週に一度で、帰宅も同様でした。この1年3ヵ月は公共機関をいっさい使わず、またお酒も1滴も飲まなかったんです。

――対コロナ体制を意識した会社は多いですが、そこまで貫いていたところはハムスターさんくらいだったのでは……。

濱田それだけに、感染したときのショックは大きかったです。ワクチンの接種日も決まり、社内に向けて「皆さん、体調管理やコロナ対策は徹底して、引き続き『アケアカ』の毎週リリースを続けていきましょう」と、注意喚起を強くアナウンスした翌日(2021年7月13日)、私の発熱を確認しました。38度でした。

――なんというタイミング……。

濱田それまで10年以上風邪もひかなかったので「まさか」と思いつつも、念のため会社の8階でひとり隔離生活をすることにしました。でも熱がすぐには下がらなかったため、翌々日(2021年7月15日)にPCR検査を受けることに。

――PCR検査はどうやって受けたのですか?

濱田病院がプレハブのPCRセンターを開設していたのでそこで受けました。鼻に綿棒を突っ込んで検査し、さらに翌々日(2021年7月17日)に通知が来ました。結果は皆さんご存じの通りです。

――陽性が判明したと。

濱田はい。保健所の判断で、その病院に入院することになりました。2021年7月19日からほぼ人生初の入院生活です。

――ワクチン接種もキャンセルになったわけですか。病床が空いていたのは幸いでしたね。

濱田1回目のワクチン接種予定日が、まさに19日だったんですよ。予約が取れたときは、これで一段落と安堵したのに、このオチです(苦笑)。このときはまだ病床が足りないと話題になる1~2週間前だったため、ギリギリ入院できました。いまになって考えると、ここで命拾いしたかもしれません。

――命拾い、というと……?

濱田入院から10日目(2021年7月23日)、容態が急変しました。レントゲンで肺を撮影したところ、前日の約半分の大きさになっていたんです。そこからナースステーション横にある“減圧室”へ移動になりました。

――うわっ、入院できなかったら自宅療養で耐えることになっていたわけですか。入院できたのは不幸中の幸いでしたね。

濱田減圧室にいるあいだはベッドから動くことはできず、おしっこも尿瓶を使っていました。看護師の方にはおっさんの尿を片付けてもらったりして申し訳なかったです。

――不安も相当に大きかったでしょうね。

濱田さすがに覚悟しましたね。病室から窓の外を見ると木の枝があって、葉がいくつかついていたんですね。お約束で「あの葉っぱがなくなったら……」とか考えていたら数日後、暴風雨で枝ごとなくなっていたんですよ(笑)。

――生還されたいまだからこそ笑えますが……洒落にならないですね。

濱田そして1週間以上経ち、2021年7月30日に一般病棟へ戻りました。病院内のコンビニへも行けるようになり、自由に動けることへのありがたみを実感しましたね。一般病棟でさらに2週間入院生活を送り、2021年8月12日、酸素ボンベと酸素濃縮器の手配をしていただけて、ようやく退院です。とはいえ、まだ自宅で酸素療養の継続がありますが。

――長い戦いでしたね。職場に復帰されたのはいつですか?

濱田2021年8月30日、約1か月半ぶりに出勤再開となりました。

――それだけ長く職場を離れているあいだ、『アケアカ』やアーケードアーカイバーへの心配事も多かったのではないでしょうか?

濱田『アケアカ』は毎週発売することが最優先ではないにしろ、できることなら続けたいという思いがありましたので心配でしたね。でも、開発の皆さんががんばってくれたおかげで、毎週配信を継続できました。

――そう言えば、濱田さんがお休みされている期間中にハムスターのアカウント名(HAMSTER)でのキャラバンモード(※)に参戦されている方がいましたが……もしかしてそのプレイヤーは濱田さんでしたか?

※『アケアカ』共通の5分間のスコアアタックモード。オンラインでランキングが登録される。

濱田あ、それ私です。山田君(※)には生放送中に「開発の誰かじゃない?」と流されていましたが(笑)。

※ハムスター社内の“山田君”さん。アーケードアーカイバーの運営を担当している。

『アケアカ』コロナ対策を誰よりも徹底していたハムスター濱田社長にインタビュー。無念のコロナ罹患、そして退院後の開発体制は?
『アケアカ』コロナ対策を誰よりも徹底していたハムスター濱田社長にインタビュー。無念のコロナ罹患、そして退院後の開発体制は?
『アケアカ』ナムコタイトルの『ゼビウス』と『源平討魔伝』。

ナムコタイトルも参加し、今後の配信タイトルは……?

濱田あとは生放送のアーケードアーカイバーですが、こちらも毎週配信を続けてきたので、どうするべきか悩みました。

――濱田さんがお休みされているあいだ、視聴者の皆さんからの心配されるコメントも多かったですよ。「無理しないで」と。

濱田ニコニコ生放送でも、Twitterでも、たくさんの暖かいコメントをいただけて本当に感謝しています。生放送のほうもフジタさん(※)はもちろん、ディーノ選手(※)にもスタジオに毎週駆けつけていただいたおかげで、毎週継続となりました。

※ゲーム芸人のフジタ氏。グレープカンパニー所属。
※男色“ダンディ”ディーノ選手。DDTプロレスリング所属のプロレスラー。

――あのときは、僕も(ゲストに)行けたら行く気持ちはあったのですが、スケジュールの都合がつきませんでした。

濱田ででおさんは来てくれなかったですね(笑)。入院期間中は消灯時間なのでリアルタイムでは生放送を観られなかったのですが、どの回もタイムシフトで観させていただき、元気をもらいました。

――濱田さんが入院されているあいだに“東京五輪 2020”も終わっていました。やはり浦島太郎みたいな気持ちになりましたか?

濱田私が不在のあいだに決算も跨いでいますから、社内はかなりてんやわんやだったようで……。ともあれ、最初に掲げた“ハムスター社員(社長は除く)からはコロナ感染者をひとりも出さない”と、“『アケアカ』の毎週リリース”は継続できました。あと生放送のアーケードアーカイバーも、何もかも入院前のままで。

――濱田さんが不在でも現場はしっかり回っていたという結果に。濱田さんが現場に復帰されてまもなく、ナムコ作品が参加されるニュースが出て一気に盛り上がりましたね。

濱田今後も“これ以上感染者を出さない”、“(できるだけ)毎週リリース”の社内姿勢は続けていきます。入院時、ナムコタイトル(『パックマン』、『ゼビウス』など)の開発も佳境に入っていました。入院中はそこがとくに気がかりだったのですが、無事にリリースでき、皆さんにも喜んでいただけたのが本当にうれしかったです。

 2021年9月24日のナムコ発表には必ず立ち会いたかったので、退院後のリハビリに対するモチベーションにもなったと思います。

――その後、『源平討魔伝』、『ラリーX』、『マッピー』、『スカイキッド』、『リブルラブル』、『フォゾン』、『ドラゴンバスター』、『未来忍者』と怒涛のナムコタイトルラッシュがあり、2022年1月6日には『スーパーパックマン』の配信も予定されています。これで終わりということはないですよね?

濱田もちろんです。バンダイナムコエンターテインメント様のご協力のもと、今後もたくさんのタイトルを予定しています。定番なものだけでなく『アケアカ』らしいタイトルも出てきますので、ご期待ください。

――ナムコ大好きっ子として、ものすごく期待しています。あと、東京ゲームショウ2021の期間中には、ナムコ以外のタイトルもたくさん発表されましたね。KONAMIタイトルの『ゼクセクス』もついに配信日を迎えました(2021年12月23日)。

『アケアカ』コロナ対策を誰よりも徹底していたハムスター濱田社長にインタビュー。無念のコロナ罹患、そして退院後の開発体制は?
現在開発中のタイトル。『ゼクセクス』と『未来忍者』はすでに配信済み。『スーパーパックマン』を始め、この表に載っている以外のシークレット作品もある。

濱田『スーパーパックマン』も、ぜひお楽しみにお待ちください。また、『トリオ・ザ・パンチ』や『がんばれギンくん』など、発表からかなりお待たせしているタイトルも、決して忘れているわけではないのでご安心ください。タイトルによっては、かなり開発に時間がかかるものもありますが、必ず満足いただけるものに仕上げてリリースします。

――来年以降も期待しています!

濱田ででおさんも、アーケードアーカイバーにまた顔を出してくださいね。

――はい、行けたら行きます。

濱田『アケアカ』ファンの皆様も、引き続きよろしくお願いいたします!