本日よりアメリカのサンフランシスコで開幕したゲーム開発者向けのカンファレンス“GDC”(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)で、Asobuのアン・フェレロ氏が日本のインディーゲーム開発者についての講演を行った(Zoom経由でのオンライン登壇)。
同氏はAsobuで日本のインディーゲーム開発者コミュニティ運営に携わっているほか、かつて日本のインディーゲーム開発者に取材したドキュメンタリー映画“Branching Path”を監督した人物。自身の知見とオンラインで実施したアンケート結果を織り交ぜつつ、現状の整理と課題までが提示された。
冒頭で前提知識として説明された、同人ゲームやフリーゲームなどの歴史やそれぞれの界隈の住み分け等については(現地の聴講者には重要なものの)日本の読者諸氏には周知のことと思うので飛ばすとして、まずはアンケート結果として提示された数字を紹介していこう。
ただしサンプル数が65人と少ないので、ある程度のバイアスも考慮して「こういう属性の集団ではこんな感じだった」というぐらいにとらえるのがいいかと思う。
- 母集団の分布
- 多くは個人開発者または5人以下の小規模チーム
- 20代は13%。海外のゲームやインディーゲームに接している
- 30代と40代の合計は85%。本業または貯金がある。日本の家庭用ゲームに強く影響されている世代
- 資金面の問題
- 37%がフルタイムで開発、35%が本業や副業を持つ。24%は趣味として開発
- 58%が他の仕事を資金源とし、40%が過去作を少なくとも資金の一部としている
- パブリッシャー契約の弱さや投資の弱さ、公的機関からの支援の弱さなどを指摘
- 投資やクラウドファンディングなどは独立した有名開発者などに偏りがち
- 言語の壁の問題
- 80%の開発者が他言語でうまくコミュニケーションができないか、翻訳ツールなどに頼る必要があると感じている
- ゲーム開発関連の情報収集にも影響する
- 海外進出を考えた場合ローカライズ費がのしかかる形になる(英語圏の開発者が英語で出すだけでも比較的広くリーチできるのに対して)
- ローカライズ経験は半数があるが、パブリッシャーが行ったケースは19%
- 一番多いのは英語。次に中国語、韓国語、ラテンアメリカ向けスペイン語と続く。
- パブリッシャーがローカライズ費を取り分に乗せるようなケースもありうる
- 和製英語的な用語が伝わらないことがあり、ゲームをうまく説明できない
- 例えば“ベルトアクション”は“Beat'em Up”、“シミュレーションRPG”は“タクティカルRPG”など
- 配信プラットフォームの分布
- PC/Macが圧倒的に多く、次いでSwitch、モバイル、プレイステーションプラットフォーム、Xboxプラットフォームと続く
- PC系ではSteamが最も多く、次いでコミケや同人イベント、第3位にitch.io
- プロモーション面の課題
- ネットの告知ではTwitterが圧倒的。次いで公式サイトがあり、YouTubeが続く
- 記者の友人の海外の開発者にはTwitchが1%しかないのが印象的だった様子(開発垂れ流し配信などもよくある)
- 日本のメディアへのアプローチは56.5%が直接、パブリッシャーが8.1%実施。35.5%がコンタクトせず
- 海外のメディアへのアプローチは19.4%が直接、パブリッシャーが16.1%実施。63.5%がコンタクトせず
- ネットの告知ではTwitterが圧倒的。次いで公式サイトがあり、YouTubeが続く
- 日本でのリリースの場合
- 75%が自主パブリッシング、13%がパブリッシャー契約(残りは開発中または混合)
- 66%がプロモを自分で実施、13%がパブリッシャーがプロモを実施、21%はプロモをせず
- 海外でのリリースの場合
- 40%が自主パブリッシング、25%がパブリッシャー契約、35%はリリースせず
- 25%がプロモを自分で実施、18%がパブリッシャーがプロモを実施、57%はプロモをせず
ちなみに海外向けのプロモという点では、言語の壁や伝手がなくてそもそも連絡の付け方もわからないという問題も当然ありつつ、ゲーム内容が日本向けに特化していて海外であまりうまく伝わらないというケースも紹介されていた。
例えばアドベンチャーゲーム『アンリアルライフ』ではSteam版の78%、Switch版の97%が日本でのセールスだという。これは感性に訴える部分が大きい繊細なタイトルがゆえと言えるかもしれない。
またサイコロを投げてアレな単語が完成するとアガるゲーム『NKODICE』では、ローカライズでその面白さを伝えるのが困難と指摘。もしかしたら何か置き換えられる文字もあるかもしれないが、相当ヘビーなカルチャライズが必要になるだろう。
さて、これらのデータ類や分析は過去に語られたこともあるし、日本のインディーゲーム界隈の人や詳しい人なら認識しているか想像がつく範囲だと思うが、ラストがなかなか唸らされた部分。それは産学との連携や制度面での課題だ。
- 教育機関での課題
- “ゲーム会社への就職”に特化しがち
- 国際交流なども薄い
- ゲーム業界での課題
- 4月に一斉入社する形で、副業も認められない
- インディーゲームをサポートしていない
- CEDECなどの業界のカンファレンスでもインディー関連の講演が少ない
- 制度面での課題
- クールジャパン戦略などは対象が大手に限られる
- 地方へのサポートが非常に薄い
- 海外のゲームイベントにブースを持っていることはなく、海外出展へのサポートが薄い
実際、記者が目にしてきたアメリカのインディーゲームイベントでは、カナダやオーストラリアや韓国など、国や地方政府系のファンドが出資を通じて支援していたり、国の業界団体で大きなブースを確保していたりもする。
またGDCには世界的インディーゲーム賞のIGFに学生部門賞もあるし、ゲーム開発を教える学校の出展なども多い。日本にそれがまったくないというわけではないが、まだまだ弱いという指摘はそう間違っていないだろう。
最後に日本に限らない提言として、以下のようなことが示されていた。
- もっと多くの翻訳された情報の提供
- あるいは映像等では少なくとも英語でのキャプション(聞き取れなくても翻訳ツールに頼れる)
- 国単位での出展やオンラインでの露出
- 交換留学などの国際交流の機会を増やす
- より多くの非英語向けのインキュベーションプログラム
- より多様なゲームやクリエイターの紹介の機会創出
- それによる成功例が後進を刺激するため
- より幅広いゲームにスポットライトを当てることによる新たなファン層の創出
- 海外でも増えてきたJRPGやビジュアルノベルなどが例
- インディーゲーム開発者の対外的な地位向上ができれば、インディペンデント映画や音楽と同じようなサポートを得る事に繋がる
- 気に入ったゲームやクリエイターがいたらぜひ広めたりイイねをして欲しい