グリッチ表現で2Dシューティングの異次元を突破した怪作「Rym 9000」プレビュー

ただのビデオドラッグとは言い切れないデザイン

グリッチ表現で2Dシューティングの異次元を突破した怪作「Rym 9000」プレビュー
※購入先へのリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、そちらの購入先での販売や会員の成約などからの収益化を行う場合はあります。 詳しくはプライバシーポリシーを確認してください

「枯れた技術の水平思考」と言えば、ゲーマーおなじみの横井軍平のデザイン哲学だが、同様のことはゲームジャンルにも言えるのではないだろうか。「枯れたジャンルの水平思考」とでも呼ぶべきだろうか、そのゲームデザイン哲学は既に確立したジャンルにおいて、その基本システムを維持しながらも、その概念を新しい角度から眺めて革新的なゲームを作り上げる。実際にジャンルのお約束を守りつつ、レベルデザインや細かい調整、もしくはサウンドやアートを刷新することで、そのジャンルに新たな風を送り込むゲームはこれまでも多数存在している。

最古のゲームジャンルであるシューティングゲーム(以下、STG)はその歴史の古さやゲームデザインとしての単純さから言って、自他共認める「枯れたジャンル」と言える。もちろん今後、何かの大きなイノベーションもありうるとは思うが、おそらくそこから生まれるものは我々の知るSTGとは別のものになるだろう。そもそも過去の名作の数々の完成度は高く、それらを崩すことで良いものを作るのことはかなり困難だ。

そこで必要なのが水平思考である。横井軍平が依拠した水平思考とはエドワード・デボノという学者・コンサルタントのもので、端的に言えば、物事を多面的に眺めるということだ。俗に「撃って避ける」のがSTGの本質とされる(筆者はこれだけが本質とは考えないが……)がそのシンプル極まりないメカニクスを多面的に眺めると一体、何が出てくるのだろうか。「撃って避ける」といったコンセプトを維持したまま、革新的なゲームを作ることが可能なのだろうか。

今回紹介する「Rym 9000」はまさにそういったSTGの核心に迫りつつも、全く見たことない風景を見せてくれる怪作だ。もともと小さなインディーゲームのプラットフォームであるitch.ioで販売されていた本作は、先日、1月16日にSteamでも販売が開始された。Sonosheeと呼ばれるインディーデベロッパーからリリースされた本作は、そのビジュアルインパクトから一部のインディーゲームファンには知られていた。itch.ioのログによると、筆者も1年前にダウンロードしてプレイしていたはずである(残念ながら、すぐに存在を忘れていたのだが)。

まず最初にこのゲームのシステム部分だけ説明しよう。箇条書きでまとめるとおおよそ以下のようになる。

  • 敵を撃って敵と敵弾を避ける
  • 攻撃方法はショットのみ、パワーアップアイテムで変化
  • 一発まで被弾が可能で、被弾状態だとショットの攻撃力がアップ
  • 被弾状態はアイテムで回復可能
  • 敵を早く倒せば倒すほどハイスコアが得られる
  • ステージを通した残機の概念はなく、各ステージ1回のミスまで許される

本作のゲーム部分の根幹は本当にこれだけの要素で出来ている。やや特殊な被弾によるパワーアップという要素を抜けば、80年代のSTGと変わらないか、もしくはそれより単純なゲームとすら言える。しかしながら、実際のゲームプレイはまったく新しい斬新な体験だ。その意味では「Rym 9000」は単純なSTGながらも、まさしくイノベーティブなゲームとして仕上がっているのだ。

どこがイノベーティブか。それを説明するのは本稿の役目だが、とりあえずトレーラーを見て欲しい(激しい映像なので注意していただきたい)。


グリッチというにはやり過ぎなサイケデリックな映像はほとんどビデオドラッグの域に達している。一枚絵のドット絵で描かれるカットシーンも音楽と同期しながら凄まじいテンションで歪み、電子音の中に溶けていく。かろうじて機体から出ているショットやボスキャラで本作が2DのSTGであることはわかるが、ほとんどどういったゲームかは理解できないだろう。

ただこの映像を見た時点で私はかなり惹きつけられたのは事実だ。ドット絵をフィーチャーしたインディーゲームは数あれど、ここまでの荒々しく、グリッチや画面の揺れ、さらにはティアリングのような形で画面が崩れ、溶けていく(ほとんど文字通り、溶けていく)ゲームは見たことがない。そもそもほとんどバグとしか言いようがない画面でどうやってゲームが成り立つのか。本当にこれはゲームなのか。興味と同時に多くの疑問が浮かび上がってくる。

しかしながら、上述したように本作のゲームプレイは表面的に見れば、オーソドックス、いやむしろシンプルなSTGとしか言いようがないものである。だがそこから発生するプレイ体験は稀有のもの。どこに秘密があるのだろうか。

 

まず第一にこの過剰なまでの演出を逆手に取ったゲームプレイがデザインされていることだ。本作の一番の特徴はゲームがまともに見えないほどのグリッチ、画面の揺れ、ティアリングによる過剰演出であることは間違いないが、これらの演出は実はゲームプレイと連動する形でコントロールされている。具体的にはショットを撃たないと、グリッチはほとんど起こらず、ショットを撃ったり、敵を倒したりすると、激しいグリッチと揺れが発生する。さらに被弾するとこれらのグリッチが強化される。被弾した状態でショットを撃ちまくると、ほとんど弾避けが困難なほど画面が歪んでくるのである。

さらに重要な点は、これらの演出はプレイヤーの有利となる行動とトレードオフになることだ。つまり、プレイヤーは敵を倒すためにショットを撃つ必要があるが、ショットを撃つと画面が見づらくなる。また被弾時はショットが強化されるが、そうするとまたいっそうと画面が見づらくなる。逆に画面を見やすい状態に保つために、プレイヤーはショットを中断することも可能であり、画面の状態を一定コントロールすることが可能なのだ。攻撃的に振る舞えば、グリッチのエフェクトが派手になり、消極的なプレイをすると画面が穏やかになる。このゲームプレイと演出のフィードバック構造はプレイヤーの心理状態にもマッチしており、アグレッシブなダンスチューンと共に感情を大いに揺さぶってくれる。

敵機の色が白、黄、赤と変化するが、なるべく早い白の段階で倒すと高得点が得られる。

またスコアシステムは単純ながらも、この演出面と良いシナジーを産んでいる。本作のスコアアタックは出現した敵を出来る限り素早く倒すこと、それに尽きる。被弾時のパワーアップ状態のダメージ効率がもっとも高いため、ハイスコアを求めるプレイヤーはあえて被弾して敵を速攻撃破することになるが、そうすると画面が極端に歪んでいくのである。そこでスコアアタックを目指すプレイヤーは、この理不尽なまでの過剰演出を驚異的な視認能力とパターン化によってねじ伏せていくのだ。

ここに至り、読者は既に演出は演出である以上の意味を持ち、ゲームプレイに関与する重要な要素であることが理解できたと思う。本作のどぎついビジュアルは何も見た目だけのこだわりではなく、シンプルのSTGをより楽しく、アグレッシブにするための「ゲームデザイン」なのだ。まさに「枯れたジャンルの水平思考」ではないだろうか。

ビジュアルの要素をゲームプレイと同期させるような試みは「Rez」のような実験的なゲームにも存在したが、本作はあくまでもSTGとしての文法を守りながら、それを突き破るような体験を提示してくれている。ショットがオート連射ではなかったり、一部のオプションやコントローラーサポートが貧弱であったり、細かい問題はあるが、STGファンならずとも一度体験してほしい怪作だ。

実績でアンロックされるテキストログには巨大なドット絵のアートとバックストーリーが描かれている。英語なのが残念!

残念ながら、現状は日本語に対応しておらず、実績にアンロックと共に閲覧可能なテキストログはすべて英語だ。ストーリーと世界設定を楽しめるこのテキストログはかなりのボリュームがあるが、ゲームプレイ自体には影響しないため、気にせずプレイしてもらいたい。ただし英語のみというリリースゆえに現状のところ、レビューの予定はなく、本プレビューでの紹介にとどめる。日本語が実装されれば、今年のGotyのビジュアル部門にノミネートされてもおかしくない傑作だろう。

※購入先へのリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、そちらの購入先での販売や会員の成約などからの収益化を行う場合はあります。 詳しくはプライバシーポリシーを確認してください
In This Article
  • Platform / Topic
  • PC
  • Macintosh
  • PS4
More Like This
コメント