一面番長になれるのは良いSTGだけ『BLACK BIRD』発売直前プレビュー

STG上級者にも初心者にも楽しい、予想以上に本格志向のSTG

一面番長になれるのは良いSTGだけ『BLACK BIRD』発売直前プレビュー
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東京ゲームショウ前のぐずついた天気の中、私はOnion Gamesのオフィスに初めてお邪魔した。小さなマンションの一室の中で数名のスタッフが10月18日に発売される『BLACK BIRD』の最終工程に入っていた。木村さんはやや疲れた雰囲気で私を迎えてくれた。

「やっぱ怖いなー。シューティング好きの人にプレイしてもらうのは」

以前、BitSummitでも似たようなことを言われた気がした。確かに私はSTG好きであるし、世間的にもそう知られてしまっている。大した腕前ではないが、今どきSTG好きのゲームライターはちょっと珍しいのかもしれない。とはいえ、そんなにビビらないで欲しいと思う。むしろこっちが緊張する。

なにせ木村祥朗である。今でもカルト的な人気を誇るRPG(?)『moon』を開発したラブデリックのメンバーであり、『チュウリップ』や『王様物語』といった癖の強い作品で知られるクリエイターだ。正直に言えば、私自身は木村さんの作品の熱心なファンとは言えないが、「そんなクリエイターが作ったゲームを眼の前でプレイするこっちのほうが緊張するわ!」と言いたいくらいだ。彼のことを知る人なら、STGに思わせてアドベンチャーゲームであったり、ドッキリする風刺やブラックなジョークが詰まっていると予想してもおかしくない。

アーケードゲーマーを唸らせる丁寧な作り込みと難易度調整

だが、そんな予想は外れた。『BLACK BIRD』は確かに今ではほとんど見ない任意スクロールの横スクロールSTGで、ダークなビジュアルや音楽はほぼ唯一無比のものだ。しかしながら、そのプレイフィールはオーセンティックなSTGそのものであり、アーケードゲーマーを唸らせる丁寧な作り込みと難易度調整がなされていた。

「死に舞(私のHN)くんは慣れているから、最初からトゥルーモードでプレイした方がいいよ」

本作には最初からプレイできる「ノーマルモード」と、それをクリアした人が挑戦できる「トゥルーモード」があるようだ。私はおだてられるままに「トゥルーモード」に挑戦したが、あえなく2面でゲームオーバー。アーケード向けSTGに近い難易度を感じた。ちょっと悔しかったが、私程度の人間が「トゥルーモード」を初見でクリアしたら、それはそれで問題だ。

そこで「とりあえずノーマルモードやらせてくださいよ。初見でクリアしますから」と改めてノーマルモードをプレイ。木村さんは私のプレイを見ながら、攻略にコツやこだわりのポイントを淡々と説明してくれた。

 
右上がコンボカウンターであり、ゲージが減らないように敵を倒し続ける必要がある。

レベルアップとスコアシステムをうまく絡ませた本作の肝

本作のゲームメカニクスはかなりシンプルなものだ。自機となる黒い鳥は通常ショット以外には周囲の敵弾を消し、全体を攻撃するボムがあるだけだ。残機制ではなくライフ制、左右がつながっているステージ、当たり判定のない地形、砲台を壊すという目的など『ファンタジーゾーン』からの明白な影響が見て取れる。だが、本作のパワーアップは『ファンタジーゾーン』のようなショップで行うのではなく、スコアアイテムを一定量取得することで、自機のレベルが上がる仕組みだ。レベルアップすると通常ショットが強化される他、対地ミサイルが加わったり、ボムの性能も変化したりする。後半に行くに従って、敵の物量は増えていくので、序盤でレベルアップしていくのは攻略には必須と言って良い。この点は序盤で積極的に敵弾にカスり、レベルアップして攻略する『サイヴァリア』に似た雰囲気もある。

では効率良くレベルアップするにはどうしたら良いのだろうか? ここにレベルアップとスコアシステムをうまく絡ませた本作の肝がある。敵を連続して倒すとコンボカウンター(最大値は30)が上昇し、敵撃破時の素点に倍率として乗算される。さらにこのコンボカウンターはボム使用後のスコアとアイテム出現数にも影響し、カウンターマックス時にアイテムを使用すると大量のスコアアイテムがゲットできる。要するにザコ敵でカウンターを上げ、ボムで素点が高い敵を巻き込みつつ“錬金”し、同時にレベルアップするというのが、本作の基本のプレイスタイルだ。これはスコア重視でもクリア重視でも変わらず、初心者であっても序盤から積極的にボムを使うプレイが推奨される。

画面中央の顔のついた樽のようなものライフ、スピードアップ、ボムのいずれかのアイテムが入っている。

ボムアイテム自体はステージ中に隠された樽から比較的豊富にゲットできるが、ショットを撃つことでライフ、スピードアップ、ボムと変化していくため、どのアイテムを取得すべきかという選択には横シューティングらしい戦略性がある。ステージには他にも大量の隠し要素や破壊可能オブジェクトがあり、スコア稼ぎをするためには注意深く探索していく必要だ。全ての砲台を破壊するとボス戦で、最終的にクリアタイムとザコ敵の撃破数に応じたボーナスが加算してステージのリザルトが決定する。

実直で素直で繊細に調整されたアーケードライクなSTG

木村さんのアドバイスの効果もあるが、私は宣言通り、初見で「ノーマルモード」をクリアした。ラスボス撃破時のライフは1であったからギリギリだが、確かに「ノーマルモード」はSTGに慣れた人なら初見でクリアできるだろう。逆に初心者にはちょうど良い難易度であり、システムさえ理解すればクリアすることはそれほど難しくない。個性的な世界観からは想像つかないほど、実直で素直で繊細に調整されたアーケードライクなSTGであり、「ノーマルモード」はこの手のジャンルの入門にふさわしいとすら言える。

「ちょっと、本気のプレイ見せます」

私のクリア後、「トゥルーモード」での”お手本”を見せようと木村さんは私からコントローラーを奪った。いよいよSTGファン向けのモードだ。木村さんは手慣れた手付きで初期配置にいる敵を連続して撃破し、コンボカウンターを貯めていく。基本的に地上の敵配置は固定で、空中の敵は砲台からスポーンしたり、音楽に合わせて空から降ってくる。そのため、地上敵でカウンターを貯め、カウンターのゲージが下がらないように空中の敵でうまくコンボをつなぐことになる。

「あーー、人が見ているとうまくいかない」

焦ったのか、敵に接触。コンボカウンターはゼロになり、すぐにリトライする。木村さんはひとりごちる。

「一面番長になっちゃうんだよね」

こちらは筆者のある程度の本気プレイ。
「一面番長」に陥るのは、少なくとも一面のスコア稼ぎが楽しく、リプレイアビリティが高いから

「一面番長」とは、一面のスコアやパターンに執着するあまり、それ以降の攻略が全くダメな人を指すSTG用語である。褒め言葉というよりも貶す言葉であり、煽り文句である。

しかしながら、「一面番長」が発生するゲームは優れたSTGであるはずだ。というのも、「一面番長」が成立するには少なくとも以下の条件が必要であるからだ。

  • 優れたスコアシステムと稼ぎの楽しさ
  • 同じステージを繰り返しても楽しいこと
  • リプレイすることが苦にならないこと

要するに、人が「一面番長」に陥るのは、少なくとも一面のスコア稼ぎが楽しく、リプレイアビリティが高いからなのである。

その点、本作『BLACK BIRD』はまさしく「一面番長」量産ゲームだ。スコアシステム自体は単純なものの、通常の強制スクロールのSTGと違って、任意スクロールの本作はパターンづくりの自由度が非常に高い。ステージのあらゆるところに隠しオブジェクトが埋まっているため、プレイヤーは積極的に敵や物を破壊し続けなければならない。さらにタイムボーナスもあるため、スコアを稼ぎつつ素早く砲台を破壊しなければならな。いかに効率よくコンボカウンターを貯め、隠しオブジェクトも含めた素点の高い敵をボムで巻き込み、ボスを瞬殺するか。シンプルなメカニクスからは予想できないほど、ディープなやり込みに耐える真の意味でのアーケードライクなSTGなのだ。

メニュー画面の左下に常にハイスコアが表示される仕様も本作の姿勢が良く分かる。

実際にその後、木村さんから受け取ったベータビルドで一足早く、攻略させてもらっている。すでに「トゥルーモード」をクリアした私のハイスコアは2300万点だが、私のスコアアタックはまだ終わりそうにない。あと100万点、いや500万点とスコアを上げる未来が見えているからだ。そのため、一面で被弾したとき、ボーナス点を取り逃したとき、すぐに捨てゲーするのが癖になってしまった。結果として一面のパターンは完成形にたどり着いたが、その後の展開はかなりアドリブに頼っている。「一面番長」の誕生である。

木村祥朗というクリエイターがSTGを愛して、このシーンをリスペクトしていることが実感できる

「なんか、見かけだけだと思われたく、なかったんだよね」

「ノーマルモード」をクリアした私とエンディングを見ながら、木村さんは振り返っていた。スタッフロールには私が良く知っているインディーや同人のSTGのベテラン開発者の名前がスペシャルサンクスに並んでいた。本作の開発にあたって、木村さんはこれまでのSTGの歴史やノウハウを実際の開発者から学んだようだ。確かに本作を既に10時間以上プレイしている私には、作品を通してSTGシーンの歴史や人物のことが自然と頭に浮かんでくるし、それが本作が本格的なSTGであることの証だと言える。しかし何よりうれしいのは、木村祥朗というクリエイターがSTGを愛して、このシーンをリスペクトしていることが実感できることだったと思う。

本作はNintendo Switchが10月18日、PC版がSteamで10月中に発売予定となっている。

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BLACK BIRD

2018年10月18日
  • Platform / Topic
  • PC
  • NintendoSwitch
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