『Hellsinker.』が伝説のシューティングである10の理由!今なお人を惹きつける10年以上前の同人ゲーム

ゲームデザインから音楽、考察、影響まで、複雑怪奇に絡まったまさにカルトな作品

『Hellsinker.』が伝説のシューティングである10の理由!今なお人を惹きつける10年以上前の同人ゲーム
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先日、2007年に発表された伝説の同人シューティングゲーム『Hellsinker.』のダウンロード版が発表されたことを報じた。同人ゲームの世界ではかなり有名な作品ではあるが、Twitterでの多数のRT、実況動画の配信など予想以上の反響にファンのひとりである筆者も嬉しい限りだ。逆に本作に馴染みのない人は、どうしてこんなに話題を集めるのかわからないかもしれない。

そこで本稿では『Hellsinker.』が伝説たる10の理由をまとめることにした。本作の人気の理由の一部でも理解してくれたら幸いだ。もちろん、気になった方はぜひとも購入してプレイしてほしい。本作は確かに複雑でとっつきが悪いが、難易度は低く、システムを理解すれば誰でもクリア可能な内容となっている。プレイを始めた方にはさなり氏が作成した「Hellsinker.私的マニュアル」(現在は転載版)を読むことを強く推奨する。間違ってもゲームのマニュアルである「概要と手引き」を理解しようとすべきではない。その理由は以下で説明される。

正直なところ、筆者が本作を当時レビューしていたら、どう評価していたのかよくわからない。リリース間もない段階では、その内容を理解できなかった可能性が高いからだ。しかしながら、10年以上たった今、後付けながらもその影響力を考慮するならば、間違いなく10点満点の作品だと信じている。本作は少なく見積もってもシューティングゲーム(以下、STG)というジャンルの歴史を変えたと言えるし、音楽と演出の同期、ゲームメカニクスとフィクションのフィードバックといった点ではビデオゲームの歴史全体からみても特筆すべき存在だと思っている。

1. 全部、ひとりで作られたからこそ……

インディーゲームを称賛するとき「ワンマンデベロッパー」という言葉が使われることがある。言葉の通り、ひとりで開発を行うクリエイターのことだが、その点では『Hellsinker.』はまさにワンマンデベロッパーであるひらにょん氏(公開当時のハンドル名、その後はさまざまな名前で活動を行っている)によって作られた作品だ。

ひらにょん氏は『Hellsinker.』以前にインターネット上でフリーゲームの作者として知られた存在であった。美少女ゲーム『Kanon』の二次創作格闘ゲーム『Dogma』や鬼畜的難易度のオリジナルSTG『らじおぞんで』などが代表作だ。個人としての作品の他には、同人サークルの黄昏フロンティアが制作した東方二次創作ゲームにも参加(とんのり丸名義)するなど、同人ゲーム界隈でもある程度、名前が知られたクリエイターと言える。

『らじおぞんで』にも熱心なファンが今でも存在し、昨今ではVtuberのプレイ動画も!

ワンマンデベロッパーと言えども、音楽やイラストを外注するクリエイターは多いものだが、『Hellsinker.』も含め、ひらにょん氏はゲームデザイン、グラフィックス、エフェクト、サウンドトラック、効果音、ストーリーや設定などのすべてを制作している(ちなみに東方ProjectのZUN氏も同じタイプのクリエイターだ)。それぞれの分野において、彼の才能は評価されているが、特に音楽はゲームから独立した評価も得ている。

マルチな才能はそれ自体、称賛されることだ。だが、ゲーム開発においてすべてをひとりで行うのは、作品に独特の色彩を添えることになる。メカニクスとストーリーの一貫性、サウンドとビジュアルの調和、システムと世界設定のインタラクション――あるインディークリエイターはそれを「システムとシナリオの癒着」と呼んでいる。ビデオゲームがひとつの世界を提示するものであるならば、すべてをひとりの作家がコントロールすれば、より統一感のあるものを生み出せることができる。『Hellsinker.』はまさにそれを体現したような作品なのだ。

2. 複雑ながらも噛み合ったシステム

このようにひらにょん氏ひとりで作られた本作だが、そのシステムはSTGというジャンルを考えると驚愕するほど複雑なものだ。予備知識なしにプレイした人は超速の弾幕の中で爆散し、他方でマニュアルを読めば、その文章に目眩する。冗談抜きでそのような作品だ。

そもそも自機が4つも存在する(STGでは2か3機体が標準的だ)。そのうちのひとつのKAGURAには4つの武装パッケージが存在し、それらを選択して出撃するため、実質、7つの自機が存在することになる。それぞれの機体の攻撃手段も多様性に満ちている。メインショット、サブウェポン、ディスチャージ(いわゆるボム)と使用するボタンは基本3つだが、これらの組み合わせですべての機体が6から7つの攻撃手段を持つ。

【概要と手引き】から近接攻撃が得意なDEAD LIARの攻撃方法のチュートリアル。最初にこれだけ見ると頭が爆発してしまうので、今は解説動画などを見るのをおすすめする。

また通常のSTGと異なり、敵弾は避けるだけではなく、防御システムも多彩だ。ボムに相当するディスチャージは弾消しと無敵時間が発生する。ストック制ではなく時間経過で回復するゲージ制であるため、頻繁に使用することが可能だ。またサプレッションレディアスと呼ばれる自機の周りのオーラは敵弾を減速させたり、中和して消滅させたりすることが可能だ。

以上のように多彩な攻撃・防御手段を搭載しているため、十全に操れるならば、自機は非常に強力だ。レベルアップによるアップグレードといった要素はないものの、出撃前に自機の低速移動の方法、残機数、ブートレグゴーストと呼ばれるオートボムシステムの選択を行い、自機選択を合わせるとビルドの要素もあると言えるかもしれない。

 
初心者キラーとされるSegment 4のボス「錆竜」ことRUSTED DRAGON。この密度の弾幕が高速で押し寄せるが、相手を無力化する攻撃などを頼りに思いの外、簡単に突破できる。

そして、この強力な自機に対抗するかのように、敵とその弾幕の激しさも半端なものではない。弾幕STGは大量の弾幕を展開する一方、避けやすいように低速弾が標準だ。だが、『Hellsinker.』は弾幕STGでありながら、敵弾が速い。敵弾の種類も多種多様で破壊可能弾から前述したサプレッションレディアスで減速・消滅が可能なものもあるが、それらの手段で打ち消せないものも多い。このような熾烈な環境の中、プレイヤーは部分的に分岐が発生する8ステージ(+α)を10体以上のボスと対峙しなければならない。まさに地獄めぐり(Hellsinker)の名に相応しい。

しかしながら、これだけならば、あらゆる要素をブチ込んだ単なる闇鍋的作品になるだろう。実際、STGのありとあらゆる要素を取り込んだ本作はさながら過剰装飾のバロック建築のような趣があるのは否定できない。だが『Hellsinker.』が真の意味で傑作である理由は、複雑怪奇とも呼べるこれらのメカニクスをゲームプレイの中で意味あるものとして成立させているからだ。つまり、クリアを目指すにしろ、ハイスコアを目指すにしろ、プレイヤーは上述した攻撃や防御のシステムをフルに活用しなければならない。それぞれの要素は有機的に関連付けられた結果、使えない要素や死んでいる技はほとんど存在しない。それでいて、STGの初心者から上級者まで楽しめる難易度が実現しているのだ。

3. 同人ゲームだからこその過剰なゲーム構成

具体的なゲームプレイを説明する前に、まずは本作の構成を説明しよう。アーケードゲームを起源とするSTGは極度に標準化されたジャンルである。基本的には自機を選択すれば、5から6ステージくらいのリニアなゲームプレイがあるだけで、ときおりステージ分岐があったり、条件に応じて2周目のプレイがあったりする程度だ。このようなフォーマットは基本的に家庭用のSTGでも踏襲されているが、同人ゲームから生まれた『Hellsinker.』はやや異色な構成をしている。

初回起動画面。独特なフォントで名前(?)を入力する必要がある。

まず初めてゲームを起動するとOSのログイン画面のようなUIが現れ、ネームエントリーが求められる。この段階でプレイヤーは「スコア用のネームエントリーかな」と思うのだが、実はそうではないのだ。ハイスコア用のネームエントリーは毎回のプレイ毎に入力するのであって、この場面でのネームエントリーは実は別の目的があるのだ。ネタバレは避けたいので、詳細は述べないが、本作にはこのようなUIを巧みに利用した演出が豊富である。一部、視認性や閲覧制を犠牲にしたデザインもあるが、それも含めた世界観を構築している。もちろんフォントもオリジナルのものを使用している。

本作のキャラクターたちの目的はカーディナルシャフトと呼ばれる塔の攻略であり、ゲーム本編は8つのSegment(本作のステージの呼称)に分かれている。最初のプレイは一本道だが、Segment 4を突破すると、Segment 1から3ではLeadとBehindと呼ばれる2つのステージを選択することになる。これらはストーリー上における主人公たちの動きを再現するつくりとなっており、2つの視点から主人公たちの作戦が描かれていく。

 
ステージ間に挟まるノベルゲームのようなパート。

塔の中に侵入するSegment 4以降には、ステージとステージの間にノベルゲームのようなテキストが指し挟まる。もちろん、スキップすることは可能だが、ひらにょん氏らしい難渋な文体で書かれたテキストは本作の深淵な雰囲気を盛り上げてくれる。他の特定条件で発生するテキストを含めると、本作はゲームシステムが過剰なだけではなく、STGとしては文章情報さえも過剰、UIや画面内の情報も過剰という恐ろしいほどデコラティブなゲームだ。

このような複雑なゲーム構成と極端なまでの過剰装飾はアーケードゲームでは実現不可能な要素だ。「1プレイでユーザーをどう満足させるか」に焦点があたるアーケードゲームでは、シンプルなシステムが望ましいし、ゲームプレイを分断するようなテキストは避けられるべきだろう。しかしながら、同人ゲームである本作はアーケードのSTGのプレイフィールを守りつつ、ユーザーを徐々にゲームの世界に引き込む演出と構成を極めて巧みに行っている。プレイヤーの進行度に合わせてメニュー画面が変化するといった何気ない演出も、作品世界への没入感を高める効果を発揮しているし、クリア時にはオープニングのログイン画面の意図も理解できるものとなる。つまり、過剰でありながら無駄はない。『Hellsinker.』はトータルな体験としてSTGを再定義する傑作なのだ。

4. 音楽とゲームプレイのシナスタジア

実際のゲームプレイも驚きの連続だ。ステージの道中に大量に押し寄せる敵群と弾幕、巨大なボスをパーツごとに破壊することで変化する弾幕、縦スクロールSTGでありながら左右上下に、時には急速に下方向にスクロールするステージギミック。特定条件で登場する発狂したボスや耐久弾幕。おおよそSTGで考えられる要素がほぼすべて詰まっていると言って良い。

Segment 4のボスの攻撃パターンも音楽と同期しているが、まだまだ序の口。後半ステージにはもっと驚く展開が多数仕込まれている。

しかも本作はあらゆる場面で音楽とゲームが同期するようにできている。Segment 4の道中からボスに至る展開、Segment 5の迷宮探索のBGMとボスラッシュ、Segment 6の逆転スクロール。極めつけは最終ステージにおけるバロック調の音楽と弾幕美。そこでは12種類の弾幕と共に12パートの音楽が完全に同期しながら展開し、ゲームのフィナーレにふさわしい圧倒的な演出がなされる。

ゲームプレイと音楽を同期させる試みはSTGではそれほど珍しくはない。だが、本作の徹底したアプローチは非凡なもので、この点だけでも歴史に残ると言って良いだろう。加えて本作のサウンドトラックは音楽単体でも高く評価されてきた(公式のサウンドトラックが発売されていないのが、残念で仕方がない)。使っている音源は今、聞くとやや古く感じられるが、トランス系の声ネタやひらにょん氏固有のフレージングの上モノと共に奏でられるテクノ/ハウス系サウンドは単体の音楽作品としても十分に興味深いものである。90年代のIDMやドラムンベースなどが好きな人ならば音楽だけでも聞いてみてほしい。

5. システムと世界設定のインタラクション

『Hellsiker.』の体験はゲームプレイの中だけに閉じられたものではない。本作の魅力は作品世界とそのシステムの相関関係にも存在し、それを端的に表しているのが通称ラスボスとも呼ばれるマニュアルの存在だ。実際にはゲームのフォルダ内にある「概要と手引き」と呼ばれるHTMLファイルであり、いわゆるマニュアルとして読むと混乱するような代物なのだ……。

例えば、「的弾」という項目を「概要と手引き」引用しよう(※本作では一般的な敵は「的」と表記される)。

的は自分の魂(※1)の一部を千切って飛ばし、攻撃手段とします
これを一般的に的弾と呼びます。
ユーザーの操作するEXECUTORがこれに直接触れた場合、ミスとなりLIFEを1失い、復活します。
LIFE表示が無くなると復活できず、条件付で続行/もしくはプレイを終了します。
防ぐ手段や掻き消す手段もありますが、基本的には避けてしまう(相手にしない)事が
最も有効な対抗策でしょう。

これがSTGの敵弾、そして被弾についてのルールを書いたものであることはなんとなく理解できる。しかしながら、マニュアルとして考えるならば、極めて異様な記述だろう。「概要と手引き」は終始この調子の記述が続く。結果として、「マニュアルがラスボス」とネタにされるが、その半面、「クリアしてマニュアルを読むと言っていることがよくわかる」とも言われる。

であるならば、この「概要と手引き」の目的はどこにあるのか。筆者はこれをゲームシステムと作品世界を可能な限り統合するという制作者のマニフェストと理解している。より率直に言うと、STGに存在するルールやお約束といったシステムを無理にでも世界設定の中に取り込むという試みなのだ。

例えば、先程の「的弾」の説明で、なぜ「敵」ではなく「的」であるのか。それは本作の敵として登場する「Prayer」という存在は必ずしも敵対行動をとるような存在ではないからだ。確かに通常のSTGの敵の多くはただ飛行するだけで、プレイヤーの「的(まと)」でしかないものは多い。これらはある意味ではSTGの演出やレベルデザイン上のお約束として見過ごされているが、『Hellsinker.』ではなんとか説明をつけているのである。

他にも残機にあたる「LIFE」についても、「概要と手引き」では以下の図で説明している。

「概要と手引き」から

古典的な作品に限らず、ゲームにはメカニクスの都合上、ゲーム的要素と世界設定に不整合があることは珍しくない。『Hellsinker.』はSTGというゲームメカニクスに力点を置くジャンルながらも、それらの要素を作品世界の中に位置づけようとする並外れた意思を持つ作品である。本作の自機はいわゆる人型のキャラクターだ。人型のキャラクターのSTG自体は珍しいものではないが、彼らが空を飛べる理由にすら言及した作品は筆者が知る限り『Hellsinker.』だけだ。

6. STGへのリファレンス:メタ考察と自己言及

「概要と手引き」によってもたらされるゲームシステムと作品世界の統合という意思は、それ自体をとってみれば、ほとんど作者の自己満足のように思える。何しろプレイヤーをゲームに誘うマニュアルとしてはまともに機能していないわけだ。しかしながら、この「概要と手引き」によって本作はゲームプレイを超えた体験を与えてくれるのは確かだ。というのも、STGにとってはお約束であるはずの「敵(的)」、「弾」、「残機」という概念がただのお約束ではないということを、「概要と手引き」は語っているのだから。

興味深いのは、本作をクリアした多くの人は、初見で理解不能であった「概要と手引き」を理解できるようになるという点だ。筆者も久しぶりに「概要と手引き」を読んでみたが、確かに言葉は難解だが、このテキストは本作でやりたいことを明白に述べているように感じる。マニュアルとしては不親切だが、作品制作のためのマニフェストとして考えれば、本作は明確なコンセプトによって貫かれた作品に思える。

『概要と手引き』から自機と敵(的)の弾の説明。STGにおいて自機の弾は敵機よりも高速で威力が相対的に低いことは当たり前のことだろう。だが本作のマニュアルはそれさえ説明しようとしている。

そのため、本作のクリアを迎え、真のエンディングまで辿りついたプレイヤーは再び「概要と手引き」を手にし、新たなゲームを始める。いわゆる、考察と呼ばれるものだ。

「概要と手引き」に限らず、異例な量のテキストが存在する本作。それのすべてがひらにょん氏固有の難渋な文体で綴られているが、考察好きにはたまらないリソースである。現に本作のストーリーや設定に関する議論はインターネット上で長年にわたり展開してきた。

本作のストーリーをかいつまんで説明すると、グレイブヤードと呼ばれる組織に属する主人公たちがカーディナルシャフトと呼ばれる過去の遺物に侵入し、その破壊(?)を試みる物語だ。しかしながら、主人公たちの目的はいまいちはっきりしないし、カーディナルシャフトが何であり、それらを守るように存在する本作の敵(的)であるPrayerが何者なのか、ほとんどわからない。

オプションでプレイ中の会話の字幕が表示され、ストーリー考察の大きな要素となる。当然ながら、プレイしながら読むのはほとんど不可能であるため、リプレイと共に楽しむ用に意図されている、。

抽象的なストーリーの中で、比較的明白なことは、本作のストーリーや設定がSTGそのものやひらにょん氏の過去作品へ言及している部分だ。例えば、Prayerは「プレイヤー」のもじりであるし、「脱がすのはヘタだからな」といったSTGファンならわかる冗談があったりする。また強敵であるSegment 6のボスのAPOSTLE OF THE SEEDは音楽を含めて『らじおぞんで』のセルフオマージュだ。これらのリファレンスによって、プレイヤーの考察や解釈はゲーム世界の外部へと広がり、結果として、STGやアーケードゲームといった文化そのものを論じる人も存在する。

そのような解釈は一見、こじつけにも思えるかもしれない。だが、本作のラストシーンに登場するとあるテキストが、かの有名な『レイディアントシルバーガン』の「わたしのこと、愛してる?」のオマージュであるならば、これはあながち間違いではないように思えるのだ。『レイディアントシルバーガン』のラストシーンの音声には、ディレクターの井内ひろし氏の隠れたメッセージが込められており、そこではビジネスとクリエイティビティの間で引き裂かれる悲痛な叫び声が聞こえてくる。『Hellsinker.』は同人ゲームという異なったパースペクティブに対して、このメッセージに回答を与えているように思えるのだ。

7. 古今東西のSTGオマージュと弱点の解決

オマージュという点では、本作には過去のSTGが蓄積したあらゆるシステムや演出がフィーチャーされている。弾消しのあるボム、敵弾に自機がカスることでのスコアアップといった弾幕STGではお馴染みなものはもちろんだが、ショットを垂れ流すだけになりがちな弾幕STGの弱点をカバーする要素もある。

 
「MASTER」と表示されている敵を倒すと周りのお供が一気に消滅。『スペースインベーダー』以来のSTGの狙い撃ちの要素もしっかりと取り入れている。

例えば、上述したサプレッションレディアスはメインショットを撃っていないときだけ発生するため、ときにはショットを止めて敵弾を対処するといった戦術が可能となる。またいくつかの敵はマスター&スレイブという構造を持っており、マスターを撃破することですべてのスレイブが破壊される。スコアの稼ぎ方によってマスターの狙い撃ちを求められる本作は、やはり弾幕STGにはない狙い撃ちの楽しさを体験させてくれる。

 
Segment 3 Behindは『斑鳩』を彷彿させる巨大な要塞との戦闘。

演出面ではSegment 3に見られる巨大戦艦ステージや巨大ボスのパーツ破壊と発狂という要素はSTGの伝統を引き継いでいる。自機の攻撃やボスの弾幕パターンも様々なSTGの影響を見て取ることができる。だがここでも興味深い点は、STGの定番演出を取り込むと同時に、その弱点を解決している部分だ。特に上述した、最終ステージでの音楽と弾幕の同期シーンがあげられる。この場面はいわゆる「耐久弾幕」となっており、プレイヤーはボスを直接ボスを倒すことができず、一定時間、弾幕に耐え続ける必要がある。このような耐久弾幕のメリットは弾幕のパターンと音楽演出を完全に一致させることができる点だ。しかし逆に言えば、演出を重視した結果、プレイヤーの自由を奪い、避けることを押し付けているとも言える。

そこで本作が行った解決法は耐久弾幕という演出を利用しながらも、ボスへの撃ち込みを必要とするシステムであった。具体的には弾幕が展開される時間内にプレイヤーは一定のダメージをボスに撃ち込まなければ、次のステージに進めないという仕組みだ。いくらダメージを与えてもボスを破壊することはできないが、一定のダメージを維持しなければ、次に進めない。結果として耐久弾幕を避けながらも恒常的な撃ち込みを求められる、まるでバレエダンスのようなゲームプレイが実現しているのだ。

以上のように本作はこれまでのSTGの伝統を活かしながらも、それを刷新する試みを行っている。STGという特性上、これまでにない革新的なゲームメカニクスを打ち立てるとまではいかないが、多くの要素を取り入れながらも、絶妙なバランスを保った作品には間違いない。

8. 3種類あるスコアシステム

ゲームバランスとリプレイ性という側面でも本作は高く評価できる。上述したように、複雑怪奇なゲームシステムを持ちながらも、本作はSTGとしては簡単なゲームである。例えるならば、東方Projectのイージーモードと同等かそれ以下の難易度(※追記:下記SHORT MISSION等を利用したり、エンディングにこだわらない場合)であり、ほとんどのアーケードのSTGより簡単と言える。STGが苦手な人であっても、システムを理解すれば、10時間ほどのプレイでクリア可能なレベルだ。

とはいえ、本作のボリュームは並外れたものとなっている。通常の通しプレイは全部で8ステージ(+α)構成であり、ラスボスは条件によって3パターンに分岐する。さらにクリア後には2つのエクストラステージが用意されている。これらをすべて網羅しようとすると、クリアを重視するプレイでもかなり長く楽しめることは間違いない。また合計1時間という長丁場になる通しプレイ(FULL SEQUENCE ORDER)とは別に、ステージ選択性の短期決戦であるSHORT MISSIONというモードもある。スコアリングを別とすれば、ラスボスのパターンやクリアによってアンロックされるコンテンツはFULL SEQUENCE ORDERと変わらないため、初心者に優しい仕様と言える。

『概要と手引き』に掲載されている画面右側のUI類。11から15まではスコアに関連する要素であり、この過剰とも言える情報の提示も『Hellsinker.』の特徴と言える。

さらにハイスコアを追求すれば、本作はもう一生かけて遊べるものとなるだろう。そもそも、本作には総合的なスキルを反映したSPIRIT、敵の撃破数のKILL、アイテム取得数のTOKENという3つのスコアの指標が存在している。これだけでも複雑なスコアシステムだが、実際にこれらの3つのスコアを意図的に稼ごうとすると、かなり異なったゲームプレイを要求されることになる。例えば、敵撃破数を競うKILLとは異なり、SPIRITの稼ぎには特定の敵への狙い撃ち、撃ち込み、敵弾のカスりなど独特な立ち回りが必要となってくる。

恐ろしいことに、これら3つのスコアを前提としながら、それを飛躍的に高める大胆なギミックも用意されている。それがこれまで8ステージに「+α」と付け足してきた「決別の霊廟」という特殊ステージだ。ゲーム内での特定条件に達したとき、ステージ間に以下のようなテキストが出現する。

あまりに突如として挿入されるため、ファンの間で何度となくネタにされてきたフレーズだが、「決別の霊廟」への突入は本作のハイライトだ。全体のゲームプレイにおいてはボーナスステージのような立ち位置にある本ステージは、これまでのSPIRITをすべて没収された上で、個性的な4体のボスとのラッシュが発生する。音楽と共に怒涛のように押し寄せる展開は、演出としてもやりこみ要素としても、ただのボーナスステージとは言えない完成度の高さを誇っている。

すべてのボスを倒すと、成績に応じた倍率で没収されたSPIRITが返ってくる。そのため、SPIRITのハイスコアを狙うためには、この「決別の霊廟」をなるべく後半に出現させ、良い成績を狙う必要がある。KILLやTOKENのハイスコア狙いでも、ボスラッシュを早く終えることで、ザコラッシュに突入できるため、重要な稼ぎ要素となっている。

以上のように本作はクリアを目指す初心者にも、スコアを狙う初心者にも非常に高いリプレイ性を持っている。ステージ数やボス数といった単純な要素においても本作のボリュームは他のSTGを凌駕しており、それらのバランスと奥深さにおいても極めて完成度が高い。

9.多くのクリエイターを生み出した

『Hellsinker.』の影響を色濃く感じさせる『 ∀kashicverse-Malicious Wake- 』。縦スクロール画面の左右に大量の情報を掲載する方式も踏襲しているが、今考えると『Hellsinker.』のUIはM2 Shot TriggersのM2ガジェットの祖先かもしれない。

知名度で言えば、東方Projectには及ばないが、同人STGの世界で『Hellsinker.』がクリエイターに与えた影響はかなり大きいもの言えるだろう。実際に筆者は多くの同人ゲーム開発者たちが、本作に影響を受けたという発言を聞いてきた。 エンドレスシラフ の『 ∀kashicverse-Malicious Wake- 』といった直接影響を認めている作品もあるし、UIのレイアウトやゲージ制のボムといったデザインはその後の同人STGに強い影響を与えている。

また海外のSTGにも本作の影響を受けたものは存在する。全方位STGの『Monolith』などはメトロイドヴァニアやローグライクゲームに影響を受けながら、ボスの弾幕やそのストーリーの雰囲気に影響が見られる。さらに今後発売される横スクロールSTGの『Devil Engine』は「サンダーフォース」シリーズの色合いが濃いものの、クリエイターは『Hellsiker.』の影響に言及していた。

また本作は国内で合計3回のオンリーイベントを開催している。東方Projectのような定期的なイベントではないにせよ、同人STGというジャンルでオンリーイベントが開催されるのは非常に珍しいことだ。興味深いのは、何年か越しに開催されたオンリーイベントで、これまではファンだった多くの人々が同人ゲームを中心としたゲームサークルに所属したり、クリエイターになっていたりすることだ。

ある意味、東方Projectが多くのニ次創作を生んだとするならば、『Hellsinker.』は一次創作を生んだ作品と言える。複雑な内容、難解な設定は創造力の厳選となり、オリジナルな創作の魅力を人々に伝えたようだ。ニューヨーク・パンクの起源となったヴェルヴェット・アンダーグラウンドは、デビュー時にはセールス的に失敗したが、アルバムを買った多くの人がバンドを結成したと知られている。同人ゲームにおける『Hellsinker.』はまさにそのような存在なのだ。

10. インディーゲームの本質を体現

以上が『Hellsinker.』がなぜ同人STGにおいてこれほどまで高く評価されてきたかの理由だ。正直、必要以上冗長で本作を知らない人に伝わるかどうかに不安があるが、それほどまでに本作は濃厚な作品である。どれほど言葉を尽くせば、伝わるのかわからないが、もしも少しでも興味を持ち、プレイしてみるきっかけになればと思っている。

最後に一点付け加えるならば、本作は筆者が考えるインディーゲームの本質を体現しているという点だ。インディーゲームとは何かに関しては、様々な議論がある。筆者はインディーゲームの本質には、大規模なゲーム開発と異なり、個人の個性が強く出るパーソナリティ、商業的な作品では挑戦しづらい革新性、そして、ジャンルや既存の作品文化に対する愛という意味での模倣性の3つの要素があると考えている。その意味で『Hellsinker.』はすべての要素を体現した作品である。

逆にいえば、筆者はそのような本質を『Hellsinker.』から学んだとも言える。その点で自分の人生を変える作品となり、自分が今こうしてゲームメディアで文章を書き続ける決定的な理由なのだ。

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