90年代生まれが見た80年代カルチャー『198X』プレビュー
80年代を生きる主人公がアーケードゲームに心躍らせるあの感覚
なぜか心落ち着く場所はないだろうか。例えば自分の部屋だったり、お気に入りの夜景が見れる高台でもいい。そんなお気に入りの場所で自分を見つけ、80年代を生きた少年の人生の一部を追体験できるのが『198X』だ。
筆者は90年代後半生まれで80年代だけではなく、90年代の記憶も薄い。初めて触れたゲーム機も「プレイステーション」や「セガサターン」でゲーム自体もポリゴンを使用したものがほとんどだ。実家の近くにはゲームセンターがあった。現代では珍しくクレーンゲームよりも格闘ゲームやSTGと言ったゲーム筐体の方が多く置かれたゲームセンターだ。コンソールゲーマーだった筆者は、コントローラーではなくレバーとボタンで操作するゲームに違和感を感じながらもゲームセンターの魅力に飲み込まれていった。
80年代では「スーパーマリオブラザーズ」や「ドラゴンクエスト」など、現在でも長く楽しまれているゲームが数多く誕生した。もちろんそれ以降に発売された「ストリートファイター2」やそれ以前に発売された「ギャラクシアン」など素敵な作品はたくさんあるが、80年代に生まれた多くの作品は現在でも語り継がれているゲームが多い。80年代から90年代のゲームセンターの伝説は多くの媒体で語られており、その時代を知らない身としては活気付いていたゲームセンターをリアルタイムで体験した人が正直羨ましい。そんな環境で育った90年代生まれの筆者が『198X』をプレイして80年代のゲームがどのように映るのだろうか。

『198X』では80年代に人気があったされていたアーケードゲームをプレイすることとなる。はじめにプレイヤーが操作するのはベルトスクロールアクション風のゲームだ。「ファイナルファイト」の様なゲームだがしっかり現代風にアレンジされている。キャラクターのアニメーションが滑らかで敵を殴った時の重量感がありアクションの感触がとても良い。近年ベルトスクロールアクションというジャンルのゲームが少なくなって本当に残念だと感じる。

STGは残念ながらあまり触れたことがなく、苦手なジャンルのゲームだ。過去に『怒首領蜂』の体験版を狂った様にプレイしていた時期があったがそれも遠い昔の話。初めは敵の放つ球を避けきれず、なかなか進むことができなかったが次第に慣れ進める様になった。この感覚、身に覚えがあると思い考えてみると死にゲーの感覚に近い。敵への対処をトライアンドエラーを行いながら進んでいく感触、STGとの向き合い方を垣間見れた様な気がした。

この手のドライブゲームは好きだ。『198X』に収録されている「THE RUNAWAY」は金髪美女を助手席に乗せないタイプの「アウトラン」の様なゲームプレイだ。時間制限に追われながら走る緊張感は、アクセルペダルを深く踏み込ませる。また、コースにはきついカーブがない為、ブレーキングの技術が必要なく車を避けて目的地に向かうことに集中できる。思えば時間制限内にチェックポイントを通過しながらゴールを目指すタイプのレースゲームは近年見なくなった。去年「アウトラン」の筐体で遊ぶ機会を奇跡的に得られたが、リアルタイムで遊んだ世代の方が羨ましく感じる。

横スクロール忍者ゲーはスマートフォンゲームで見かける様なゲームプレイが特徴だ。自動的に主人公がフィールドを走り、敵を攻撃しながら障害物を避ける。アイテムを獲得することでゲージが溜まり、キャラクターの攻撃がパワーアップし攻撃範囲と攻撃力が上がる。しかし、敵の攻撃を受けてしまうとゲージが減少してしまうので注意が必要だ。この手のゲームはシンプルなゲームプレイだが集中力を求められるので動体視力と反射神経が求められる。

3DダンジョンRPGも遊ぶことができる。ランダムエンカウントで敵とバトルするが相手に応じて弱点の攻撃を与えることで大ダメージを与えられる。また、カイフクはバトル中に1回だけ使用できるので、いつ使うべきか考えながらバトルする必要がある。単純なRPGで遊びやすく敵も個性的でプレイしていて楽しい。

ゲームやシナリオも優れているが、『198X』内で流れているBGMも素敵だ。シンセサイザーを主とした音作りや4つ打ちのビートは80年代らしさを演出している。耳に残る単調ながら優れたメロディーラインも当時のゲームシーンを想像させ、プレイヤーを80年代にタイムスリップさせる。当時の音楽が好きな人はゲーム中に使用されている曲の中で必ず刺さるものがあるだろう。もしサウンドトラックが発売されるなら迷わず購入する。
生きた80年代を体験するのに『198X』は良い機会だ。当時に流行していたゲーム体験を現代風にアレンジされた表現で楽しむことができ、ゲーム単体としての体験の質はとても高い。また、主人公を介して語られるストーリーは80年代ならではのノスタルジーを感じさせるために重要なエッセンスとして機能している。しかし、『198X』はあくまでも80年代を体験するゲームであり、主人公の人生をゲームと一緒に垣間見る一種のノベルゲームのような感覚に近い。1時間から2時間ほどで語られるストーリーに対してボリューム不足を感じるが、現代の忙しい大人が一種の懐かしさを感じるために必要な水準は満たしている。そのため、レトロゲームのやり込みや超大作のようなボリュームをを期待して『198X』をプレイするのはお門違いだ。
90年代後半に生まれた筆者が『198X』をプレイしてもしっかり80年代を生きる主人公がアーケードゲームに心躍らせるあの感覚を体感することができた。もし、80年代のコンテンツに少しでも興味があり、初めてゲームに心躍らせたあの頃を思い出したいのであれば『198X』を強くおすすめしたい。