Maiden & Spell - レビュー

ほとばしる東方愛とストイックすぎる対戦

※購入先へのリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、そちらの購入先での販売や会員の成約などからの収益化を行う場合はあります。 詳しくはプライバシーポリシーを確認してください

『Maiden & Spell』はアメリカの個人制作者mino_devによる弾幕シューティングゲーム(以下、STG)だ。通常のSTGと異なり、1画面を共有して1対1で戦うタイプの作品であり、ソロで楽しむストーリーモードの他、CPU対戦、ローカル対戦、オンライン対戦が可能だ。以前のプレビューでも触れたが、STG好きは「旋光の輪舞」シリーズを想起するだろう。実際のところ、そのプレイフィールはかなり異なり、多様な武装や移動手段で相手に積極的に仕掛けていく「旋光の輪舞」シリーズに比べると、シンプルな操作で弾避けに徹するストイックな印象が強い。

基本操作は十字キーによる移動と4つのボタンに割り振られた攻撃・防御技となる。対戦モードでは8体のプレイアブルキャラクターが用意されている。格闘ゲームのようにキャラクターに応じて個性的な技が用意されているが、4つのボタンごとに大まかなタイプが割り振られている。基本の攻撃技となる「自機狙い」、ばらまきや設置で敵の移動範囲を限定する「自機外し」は基本的に無制限に使用可能。強力な攻撃手段の「特殊魔法」と無敵や弾消しが発生するいわゆる「ボム」にあたる「防御魔法」はクールダウンタイムが設定されている。

これらの4種類の技に加えて低速移動の合計5つのボタンを利用して戦うが、操作は直感的であり、ルールも非常にシンプル。弾幕で敵を攻撃し、ヒットするとライフが1つ減り、4つあるライフを先に0にすると1ラウンド勝利となり、格闘ゲームのように一定のラウンドを先に勝ち取るのが目的だ。丁寧なチュートリアルもあるため、誰でもすぐにプレイできるだろう。

とはいえ、チュートリアルで十分に説明されない重要な要素も多数ある。例えば、それぞれの技によって移動速度が変化する点だ。基本的には自機狙いや特殊魔法のような攻撃的な技を放っていると自機速度は遅くなり、何も撃たない、もしくは自機外しを撃つと自機速度は速くなる。つまり、これらの技の選択肢は相手の弾を避ける際も重要なものとなる。さらに各キャラクターの防御魔法は敵弾を消したり、無敵時間が発生したり、性能がかなり異なる。これらの使い方を理解することがストーリーモードの攻略や対戦の上達の鍵となる。

「東方Project」への愛がほとばしる!魅力的なキャラクターと世界観のストーリーモード

最初プレイできるシナリオは2つだけだが、進めると他のシナリオがアンロックされる。

ストーリーモードは初期状態では2つのシナリオがプレイできる。使用できるキャラクターはそれぞれのシナリオで固定となっており、シナリオを進めることで、合計6つのシナリオがプレイ可能となる。ストーリーは地図の果てにある「世界一危険なダンジョン」である「大輪」に冒険者であるプレイアブルキャラクターたちが挑み、ダンジョン内で遭遇するモンスターと戦ったり、時には仲間割れしたりとかなりフワッとした物語が展開する。対決前のセリフや勝利後のメッセージなども、プレイヤーを置いてけぼりにするような部分が多く、エンディングも含めて一度クリアしただけでストーリーを理解することは難しいだろう。

ストーリーモードにおける戦闘のルールは、通常の対戦にはない特殊な要素がある。お互いに弾幕を放ちながら、4つあるライフを0にした方が勝ちというルールは同一だが、ストーリーモードでは敵のライフが残り1になると「マグナス」という派手な弾幕の必殺技を放ってくる。マグナス発動中の敵はシールドを張っているため、通常の戦闘とは異なり、一定以上のダメージを与えなければならない。弾幕によってダメージが異なるため、通常の戦闘とは異なり、DPSを意識した立ち回りとなる。

マグナスは派手な弾幕が多いが、パターンさえ見切れば回避可能だ。

マグナスはパターン性が強い派手な弾幕で見た目も、ゲームプレイも通常戦闘よりも楽しい。むしろ、マグナス以外の通常戦闘は「空気」とでもいうべき地味なもので、適当に弾幕をバラまいて、相手がミスするのを待っているだけだ。この「適当に弾幕をバラまき、相手のミスを待つ」という消極的なゲームプレイは本作のデメリットであることは明白で、そもそもマグナスが存在しない対人戦にも当てはまる。この点は対戦を扱う後半でも触れるが、STGとしての魅力を大きく損なう原因となっている。

とはいえ、本作のストーリーモードはビジュアル、UI、サウンドトラックが高い次元で調和しており、総合的な完成度は高い。そしてこれらの統一感を生み出すために本作が大いに参考としたのは、世界的に人気の同人STG「東方Project」であることは間違いない。

マグナス発動時のカットシーンもスムーズかつ美しい。

そもそも魔法使いやモンスターの少女たちが1対1で弾幕バトルをするというモチーフ自体が「東方的」だし、マグナスは「東方Project」のスペルカードそのものだ。エンディングのカットシーンは直接的なオマージュであり、会話のテンポや音楽の入るタイミングなどにも影響が見て取れる。だが、本作が「東方的」なのは、そういった表層レベルのものではない。「東方Project」が持っている演出とストーリーテリングの手法をオリジナルの設定で限りなく忠実に再現したとでも言うべき徹底的なものだ。

結果、本作のプレイフィールも「東方Project」に似たものとなっている。ストーリーは曖昧でありながらも、世界観には奥行きが感じられる。4人の冒険者たちのバックストーリーは不明ながらも、何らかの関係性を感じさせる。言うならば、大きな物語の一部を丁寧に切り出したような趣があるのだ。さらに条件を満たすことでアンロックされる2つのシナリオは、「東方Project」のExtraステージのような存在であり、より激しい弾幕バトルをテンションの高い楽曲のもとで素晴らしい演出で見せてくれる。

以上のように絵本のようなビジュアルと美しい弾幕をスタイリッシュなUIでまとめ上げたストーリーモードは、「東方Project」の正統かつ精神的なフォロワーだ。ストーリーや設定は完全にオリジナルでありながらも、ストーリーテリングや演出では徹底的に「東方Project」の手法を採用し、魅力的なキャラクターと奥深い世界観を構築するのに成功している。マグナス以外の退屈な弾幕合戦はSTGとしての魅力を欠いているが、本作のストーリーモードを最後までプレイした人はキャラクターや世界についてもっと知りたくなるだろう。続編も期待するだろう。なんなら、ファンアートを描いたり、同人誌を作る人がいても不思議ではない。そういう魅力を持った作品なのだ。

一度聞いた曲は音楽部屋で再生可能。はがね/STEEL_PLUS氏によるサウンドトラックは捨て曲なしの傑作ぞろいだ。

また「東方Project」や他のSTGと比べると、本作はかなり簡単に作られている。4段階で分けられた難易度があるが、初心者でもノーマルなら問題なくクリア可能で、STGになれたプレイヤーならノーマルは初見でクリア可能であり、ハードぐらいの難易度がちょうど良いだろう。STGガチ勢にはやや物足りないが、ビジュアルや音楽など雰囲気に釣られた新規プレイヤーが挑戦するにはちょうど良い難易度かもしれない。慣れた人であれば、全シナリオクリアには5、6時間、初心者でも10時間程度でできるだろう。さらにエキストラ要素としてアートギャラリーやサウンドギャラリー、「真・マグナス」と呼ばれる高難易度弾幕に挑戦する要素も取り入れられ、1人用ゲームとしても十分なボリュームだ。

弾避け能力が勝ちに直結!シンプルでドライすぎる対戦モード

オンライン対戦ではロビー機能があり、ロビーでチャットも楽しめる。

CPU対戦、ローカル対戦、オンライン対戦などが楽しめる本作の対戦モードはかなりしっかりと作り込まれている。対戦オプションとしてCPUのAIのレベル、ライフストックの数、勝利するためのラウンド数、ゲームスピード、弾の大きさなど細かいところまで調整可能で、オンラインマルチプレイにはインディーゲームとしては珍しくロビー機能やプロフィールのカスタマイズなどがある。敵キャラクターの行動を指定できるトレーニングモードといったものでさえ存在しており、後はランクマッチ機能さえあれば、昨今の対戦格闘ゲームと遜色ない充実した対戦機能と言えるだろう。

しかしながらこれらの本格的な対戦機能があるにも関わらず、本作の対戦そのものは決して奥深いとは言い切れるものではない。そのひとつの理由はストーリーモードに存在したマグナスがないことだ。そのため、CPUや他のプレイヤーとの対戦では相手のライフを削るため、延々と4つの技を放ちながら弾を避け続ける我慢比べとなる。もちろん、自機外しの弾幕で逃げ道をふさいだところで自機狙いを放つ、巨大な弾で相手を隅に追いやり近接攻撃で潰すといったテクニックがないわけではない。ただしほとんどの弾幕はSTGに慣れたプレイヤーなら回避可能なものであるため、単純に集中力が切れた側がミスをするという結果になる。弾避けテクニックがほぼその人の強さに直結するため、立ち回りだけでSTG上級者に勝とうとしてもそうそう勝てるものではないのだ。

自機外しのバラマキ弾以外は自動的に相手をロックして発射される。

この問題は、本作のほとんどの攻撃が敵を自動ロックするという点に由来している。結果として、本作には狙い撃ちという概念がなく、どこからでも正確に相手を狙うことができる。一部の強力な範囲攻撃は短めの射程を持つため、敵との距離感は重要となるが、基本的に画面上のどこにいても同じような攻撃を相手に繰り出せるため、移動という選択肢が弾避けという消極的な機能しか果たしていない。通常のSTGであれば、移動は弾避けと同時に敵への撃ち込みという積極的な機能を果たす。だが本作の移動はせいぜい敵との距離を詰める詰めないの2択であり、通常のSTGが二次元の位置関係を持つところ、本作は一次元の位置関係しか感じることができない。ツインスティックシューターのような形で攻撃方向を指定するデザインであれば、この問題は避けられたかもしれない。だが本作は操作のシンプルさを優先し、自動ロックというメカニクスを採用した。その結果、ゲーム内の立ち回りのバリエーションを犠牲にしてしまった。

高速移動できるキャラはなおのこと事故死することが多い。

さらに悪いことにこのメカニクスから発生する消極的なゲームプレイは「能動的に敵を倒した」という対戦ゲームに必須な感覚を減じている。自動ロックでは、当然ながら「狙い撃つ」という要素がなく、結果として「こう来たなら、こう返す」といった対戦相手とのコミュニケーションが発生しない。極論すればどちらも「事故った」ら負けという感触が強いのだ。また本作では戦闘が長引かないように、双方の被弾がない場合、どんどん移動できる場所が制限されていく。上級者同士のプレイではどうしても戦闘が長引くため、その解決策として取り入れたルールだが、結果として我慢比べや運の要素がどうしても強く感じられる。そうではなく、一定時間以上経過した場合、弾幕を強化したり、ゲージを利用した必殺技を使用できたりする要素を入れると、相手を能動的に倒したという感覚が演出できただろう。

初心者におすすめなのはパワータイプの黒竜の娘(左)と空からの巨大弾とデバフで攻撃する宮廷呪術師(右)。また砂の聖鳥もシンプルに強い。

とはいえ、これらの問題点は対戦が成り立たないというレベルのものではない。あくまでも本作の対戦はシンプルすぎて、奥行きが感じられないのが問題なのだ。対戦のためのモードやオプション、その他の環境はとても作り込まれており、オンライン対戦のラグも少なく、操作感も非常に良好だ。8人のプレイアブルキャラクターにはパワー型、設置型、スピード型などキャラクターの印象にあったバリエーションがあり、一部のキャラクター間には有利不利の相性があるのも面白い。それでもやはり本作のコアメカニクスには対戦ツールとしての欠点があるように感じる。もちろん、今後、熟練プレイヤー同士が研究を積み重ねた結果、高度な読み合いや戦術が発展する余地は否定しない。だが、少なくとも現状のデザインは多くのプレイヤーを長い間楽しませるには不十分であると思われる。

長所

  • 絵本のようで幻想的なビジュアルとサウンド
  • 奥行きを感じる世界とキャラクター
  • 統一感のあるUIと演出

短所

  • 避けるだけになりがちな対戦

総評

絵本のようなビジュアルと幻想的なサウンドで念入りに作られた本作は「東方Project」の筋金入りのフォロワーでありながら、まったく新しい世界とキャラクターを描くことに成功している。しかしながら、相手のミスを待つようなプレイスタイルが基本となる対戦には奥深さを感じることができず、せっかくのオンライン機能もすぐに飽きる可能性は高い。しかしながら、派手な演出と弾幕が楽しめるストーリーモードは単体でも十分に楽しむ価値がある。

※購入先へのリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、そちらの購入先での販売や会員の成約などからの収益化を行う場合はあります。 詳しくはプライバシーポリシーを確認してください
In This Article

Maiden & Spell

2020年2月25日
  • Platform / Topic
  • PC

絵本のような幻想的な世界のSTG『Maiden & Spell』レビュー、ほとばしる東方愛とストイックすぎる対戦

8
Great
「東方Project」の筋金入りのフォロワーである本作は美しいビジュアルとエピックなサウンドトラックにより、ワクワクするような世界とキャラクターを描くことに成功している。対戦モードには奥深さを感じることができないが、ストーリーモードは単体でも十分に楽しむ価値がある。
Maiden & Spell
More Like This
コメント