ここ数年、海外開発作を中心に、日本市場でも熱心にタイトル展開をしてきた韓国大手パブリッシャーのH2 INTERACTIVEが2020年9月に日本法人を設立した(日本法人名は株式会社H2INT)。同社は、今後さらに積極的に日本市場に取り組んでいくという。代表取締役社長に就任した許準夏氏に今後の戦略などをうかがった。

H2 INTERACTIVEの日本戦略を聞く。2021年は10タイトルをリリース、デジタルキー販売チャンネル“Direct Games”は近日サービス開始に

許準夏(ホ・ジュナ)

H2INT 代表取締役社長

日本市場に向けても多様なタイトルを提供したい

――まずは、改めてのご質問となりますが、H2 INTERACTIVEがどのような会社なのか教えてください。

H2 INTERACTIVEは海外の良質なPCや家庭用ゲーム機向けのゲームコンテンツをローカライズ、パブリッシングすることを目的として、2009年9月に韓国で設立されました。設立後、韓国を代表するパブリッシャーとして、ロックスター・ゲームスの『グランド・セフト・オートV』や『レッド・デッド・リデンプション2』、2Kの『NBA 2K』シリーズ、ベセスダ・ソフトワークスの『フォールアウト』シリーズ、『Doom Eternal』、505 Gamesの『テラリア』、『CONTROL』、CD Project Redの『サイバーパンク 2077』など、さまざまなタイトルをパブリッシングしています。売り上げは2019年基準で約23億円となっており、ソウルに本社を置いております。

――会社の方針をお教えください。

“良質なゲームコンテンツの発掘、提供、そしてゲーム産業での多様性の向上”がH2の方針です。北米やヨーロッパのタイトルはもちろん、インディーゲームなどの良質な作品をアジアのゲームユーザーに広く紹介することを目的としています。いまではローカライズが当たり前の時代となりましたが、昔はそうではなかったため、日本以外のアジアのユーザーがゲームを楽しむのに乗り越える壁が非常に高かったのです。H2は最前線で多様なタイトルをローカライズおよびパブリッシングしておりますので、少しはアジアゲーム市場での多様性の向上に貢献していけたかなと感じています(笑)。

――ちなみに、H2のHには、どのような意味が込められているのですか?

Heart to Heart (心と心を開く)の略字として、ビジネスパートナーやユーザーと心を通わせる、という意味を持っています。

――それでは、日本にオフィスを設立した経緯をお教えください。

韓国市場を中心にパブリッシングしてきたビジネスを、アジア地域に拡大することにより自然と海外進出を考えるようになりました。その中で、現在H2が韓国で運営している“Direct Games”をさまざまな地域で提供していこうと思い、初めての海外サービス地域を日本に決定しました。また、2019年に日本市場へ向けて初めて家庭用ゲーム機向けソフトのパッケージをパブリッシングしましたが、マーケティングやカスタマーのサポートなど日本市場に合わせた運営の必要性を実感したところもあります。

 パブリッシャーとして以外にも、日本支社を通じて日本ゲームのアジア地域向けパブリッシングを円滑に進める手助けもしていきたいと思っています。日本支社がH2として初の海外オフィスとなりましたが、今後は他のアジア地域への支社設立も考えています。

――ところで、許さんの簡単なプロフィールをお教えください。

私はActivisionでゲーム業界のキャリアを始め、PCや家庭用ゲーム機向けゲームに関する幅広い経験を重ねました。良質なゲームコンテンツが豊富なのにも関わらず、埋もれている現状を目の当たりにして、これはもったいないと思いみずからチャレンジすることにしました。

――日本市場に向けての戦略をお教えください。とくに注力している領域などはありますか。

デジタルキー販売ストアである“Direct Games Japan”を今年第一四半期にリリースすることに力を注いでいます。また、現在韓国市場では5Gのクラウドサービスを利用したさまざまなゲームコンテンツがPC、IPTV、モバイルプラットフォームより提供されていますが、これを日本市場でも検討しています。さらに、家庭用ゲーム機ではいままでのようにさまざまなタイトルをパブリッシングする予定ですので、お楽しみにお待ちください。

――日本で展開するタイトルは、どのようなセレクト基準で選んでいるのでしょうか。

タイトルの独創性、人気などさまざまな要素を考慮し選んでいます。タイトルによって違いますが、たとえば『WORLD WAR Z』は韓国と日本向けにパブリッシングしました。また、1月28日発売の『Ghostrunner』は、韓国や日本を含めたアジア地域全体をカバーしています。

――日本法人設立以前も、日本市場でタイトルをリリースされてきましたが、手応えをお教えください。

数年前からダウンロード専売で配信をしていましたが、2019年にはパッケージでのパブリッシングを始め、これまでに30以上のタイトルを日本市場向けにリリースしました。とくに、2019年9月に発売した『WORLD WAR Z』は、日本のユーザーに多く愛され、H2という会社が知られたきっかけになったのではないかと思います。

H2 INTERACTIVEの日本戦略を聞く。2021年は10タイトルをリリース、デジタルキー販売チャンネル“Direct Games”は近日サービス開始に
人気映画をモチーフにしたプレイステーション4用『WORLD WAR Z』は、H2 INTERACTIVEの日本での知名度を高めた。
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――日本独自のタイトルの予定などはありますでしょうか?

もちろんです。日本のゲームユーザーは特定のプラットフォームやジャンルなどに偏らず幅広くゲームをプレイされていると思いますので、皆様の求めるものを最良の形でお届けしていきたいと考えております。たとえば、『WORLD WAR Z - GOTY EDITION』の場合、もともと全世界ダウンロード限定で発売する予定でしたが、唯一日本だけパッケージでも発売を行いました。また、『Ghostrunner』のパッケージ版は、日本を含むアジア地域にだけ先行してリリースされます。いまだに、素晴らしいクオリティーにも関わらず知られていない開発会社やゲームコンテンツは数え切れないほどありますので、H2はこのような会社のゲームを発掘し日本を含むアジア地域のユーザーの皆様に紹介してまいります。

――2021年は日本市場で何タイトルくらいリリースされる予定ですか?

『Ghostrunner』を皮切りに、約10のさまざまなタイトルを予定しています。『Ghostrunner』は、ウォールラン・スライディングなどのアクションを生かしたスピーディな展開、一撃必殺システム、サイバーパンク風の世界観が本タイトルならではの魅力だと思います。とくに特典が付くパッケージ版は非常にご好評をいただきました。

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Nintendo Switch版とプレイステーション4版が1月28日に発売された『Ghostrunner』。一人称視点のパルクールアクション。
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ゲームデジタルキー販売チャンネル“Direct Games”の日本展開に注力

――韓国最大級のデジタル販売プラットフォーム“DIRECT GAMES”を今後日本地域向けに提供するとのことですが、まずは“Direct Games”のことをお教えください。

Direct Gamesは“ESD (Electronic Software Distribution)”サービスとして韓国初・最大級のゲームデジタルキー販売チャンネルです。2013年にサービスを開始しましたが、当時Steamでは決済手段などで多くのユーザーが不満を持っていました。しかもウォンではなくドルを基準とし、為替レートで適用された金額で支払う仕組みだったので、韓国市場とは合わない価格設定と、為替レート変動によるリスクがありました。このような問題点を解決したDirect Gamesは、サービス開始当日サーバーがダウンするほど反響がありました。また、高品質なローカライズやさまざまなキャンペーン、提供価格などDirect Gamesならではの価値を提供し続けることにより、業界をリードするプラットフォームとして定着できたと思います。

――“Direct Games”の特徴をお教えください。

“多様性”だと思います。現在60を超える開発会社やパブリッシャーの、約1500に達するタイトルを提供していますが、これは他社と比較しても圧倒的なボリュームがあります。またSteamキーだけではなく、Bethesda、Epic、Uplayキーも扱っており、さまざまなお客様のニーズに対応できるというのが特徴ではないかと思います。

H2 INTERACTIVEの日本戦略を聞く。2021年は10タイトルをリリース、デジタルキー販売チャンネル“Direct Games”は近日サービス開始に
“Direct Games”のハングル版。日本でも近日中にサービス開始とのこと。

――“Direct Games”を日本で展開する狙いをお教えください。

H2の今後のビジョンは、韓国を超えアジアを代表するパブリッシャーに飛躍することです。厚いゲームユーザー層、ゲーム産業の規模などを考えると日本は非常に重要な地域です。その分簡単な道ではないことを知っているものの、もっとも高いハードルからチャレンジしようと思い切って決めました。先ほどお話したとおり、Direct Gamesの日本サービスは今年の第一四半期に開始予定で、タイトルラインアップは現在調整中です。

――デジタル販売プラットフォームは、SteamやEpic Game Store、PLAYISMなど、日本でも百花繚乱の様相を呈していますが、既存のデジタル配信プラットフォームに伍していける勝算はありますか? どの点が“Direct Games”の強みとなりますか?

PCデジタル販売プラットフォームの競争が激化していることは確かですが、より多くの開発会社が市場に参入する機会が増え良質なゲームコンテンツを提供するということは、パブリッシャーの扱う質の向上やボリュームの増加という観点から見ると望ましい現状だと思います。

 Direct GamesはSteamやEpic Games Storeと直接競争するということではなく、互いに共生関係にあると考えます。多様な決済手段と迅速な顧客サービスの提供はもちろんですが、前述した“多様性”は日本市場でも通じる我々の強みだと思います。何よりDirect Gamesで提供するタイトルのほとんどがH2の直接のビジネスパートナーです。これまで培ったタイトルに対する的確な判断、長年のビジネスによる開発会社やパブリッシャーとの信頼関係で、日本市場に特化したさまざまなマーケティングを行えると考えております。

――“Direct Games”の日本市場における目標を教えてください。

いまの段階で詳しい数値をお話するのは難しいですが、日本のゲームユーザーがいまよりもっと多様なゲームコンテンツを楽しめる窓口になれるよう努力していきたいと思います。

――日本法人を含む、今後のH2 INTERACTIVEの目標をお教えください。

アジアを代表するパブリッシャーとして良質のゲームコンテンツを提供するのがH2の目標です。日本支社の設立で、日本の皆様とより密にコミュニケーションがとれるようになりとても嬉しいです。これからもよろしくお願いします。

2020年に発売されたH2 INTERACTIVEのおもなタイトル

  • 2020年3月26日 Sniper Ghost Warrior Contracts
  • 2020年4月16日 Super Pixel Racers
  • 2020年6月25日 Journey to the Savage Planet
  • 2020年10月8日 Deliver Us The Moon
  • 2020年10月15日 AVICII Invector:Encore Edition
  • 2020年10月15日 AVICII Invector
  • 2020年10月29日 WORLD WAR Z - GOTY EDITION
  • 2020年11月5日 Röki(ロキ)
  • 2020年11月19日 Black Desert Prestige Edition『黒い砂漠
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『Super Pixel Racers』はドットのグラフィックが特徴のレースゲーム。画面を分割して最大4人までの同時プレイが楽しめるほか、オンラインを通じて全世界のプレイヤーたちとも戦える。
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