KONAMIがインディーゲームクリエイターによる展示会Indie Games Connect 2022(以下、IGC 2022)を2022年6月26日に開催する。同イベントは、KONAMIがクリエイターと来場者との“つながり”を作りたいとの思いから企画したもので、出展料、入場料ともに無料で行われる。IGC 2022を統括するKONAMIの安慶名伸行氏と、協力しているゲームクリエイターのmumimumi氏とむじ氏の3名に、イベントに対する思いなどを聞いた。

KONAMIが出展料・入場料無料でインディーゲームイベントを開催する理由。Indie Games Connect 2022に対する思いをキーパーソンに聞く

安慶名伸行氏(写真右)

コナミデジタルエンタテインメント 事業推進本部 上席主査。IGC 2022の責任者。ゲーム音楽作曲家としてもおなじみ。

むじ氏(写真左)

2D謎解きアドベンチャーゲーム『Recolit』(2022年リリース予定)を制作するインディースタジオImage Labo代表。IGC 2022のキービジュアルも手掛ける。

mumimumi氏(写真中央)

Unity製のアクションゲーム『モチ上ガール』で2018年日本ゲーム大賞U18部門金賞を受賞した個人ゲーム開発者。現在は新作アクション『百科ガール』を制作するかたわら、銀座Unityもくもく会の新代表としても活動中。

KONAMIがインディーゲームを支援する理由

――IGC 2022を開催するという一報をいただいたときにとても驚きました。本イベントの開催決定に至った経緯から教えてください。

安慶名昨今は、ゲームを遊ぶシーンであったり、ゲームのお客さまへの届けかたが、従来とは大きく変わっているなという印象があります。とくに、世界中にいらっしゃるインディーゲームクリエイターの方たちのゲームをお客さまに届けるとはどういうことかと、ずっと考えていました。弊社では、インディークリエイターを集めた銀座Unityもくもく会を、去年から月1回ペースで実施しています。あとは、集英社ゲームクリエイターズCAMPでアクションシューティングゲームのコンテストを実施したり……。

 それらに加えて今回こういった出展会を企画しました。やはりイベントは、インディーゲームクリエイターの皆さんがいちばん活き活きとされる場でもありますので。我々もそういったものを1回やってみたいなというところがきっかけです。

――このタイミングでの開催というのは、コロナ禍の動向をある程度見越した上での判断だったのでしょうか。

安慶名そうですね、去年、一昨年だったらできなかったと思います。現在も完全に収束したわけではありませんが、我々のできる範囲でやれればいいなと考えています。

――それにしても「あのKONAMIさんが」という驚きがあります。従来より開催されているインディーゲームイベントがフォローしきれていない部分、改善すべき部分があるからこそ、という面が、やはりあるのでしょうか?

安慶名いえいえ! 我々は逆に学ぶことのほうが多い立場です。オフラインのインディ―ゲームイベントにはけっこう訪れていまして、いちばん最初はデジゲー博ですね。去年はBitSummitも行ってまいりましたし。いわゆる日本の主要なインディーゲームイベントには行かせていただいております。

――たしかに、インディーゲームのイベントはたくさんあって困るものではないですし、開催に関してはKONAMIさん側での“機が熟した”というところでしょうか。

安慶名そうですね。現時点では「KONAMIとしてできることは何だろう」と模索している段階です。そのひとつが“つながり”なのかなと考えていて、それは今後も大事にしていきたいと思っています。

――KONAMIさんの大きなネームバリューがあるからこそ生まれる“つながり”は、間違いなくあると思います。

安慶名主役であるインディーゲームクリエイターや作品のお届けの仕方が、もっとも大事なテーマになっています。

KONAMIが出展料・入場料無料でインディーゲームイベントを開催する理由。Indie Games Connect 2022に対する思いをキーパーソンに聞く

IGC 2022を支える3つの柱

――キーワードとなる“つながり”について、具体的に教えてください。

安慶名今回の出展会には3つの柱があります。ひとつは“相談会”。サポーター企業であるソニー・インタラクティブエンタテインメントさん、集英社さん、講談社さん、そして弊社が、参加者の皆さんのゲーム制作・プロモーションなどのご相談ごとを伺います。

――企業とインディーゲームクリエイターのつながり、ですね。

安慶名もうひとつの柱は“セミナー”。パネルディスカッション形式で開催予定です。こちらは抽選になりますが一般来場の方も参加できます。ここではソニー・インタラクティブエンタテインメントの吉田修平さんが登壇し、世界と日本のインディーゲームの比較や、日本のインディーゲームの将来について語ってくださる予定です。

 最後の柱は、出展に応募された方はご承知の通り、“出展料が無料”ということです。一般来場の方も無料でお越しいただけるので、これまでインディーゲームを知らなかったり、これからインディーゲームをもっと遊んでみたいと思っている方々が、ゲームの向こう側にいるクリエイターと会場で直接対話する、格好の機会になるのではないかなと判断しています。

――mumimumiさんとむじさんは、IGC 2022の立ち上げに参加されているとのことですね。

安慶名そうですね。むじさんですが、エンジニアのご経験もあり、現在は絵からゲームへと幅広く活躍されている方です。小さいころから絵を描いていらっしゃったということですが、むじさんの絵はふだんの何気ない景色の中に空気を思わせる独特の色使いと、少し現実から離れたようなテイストが非常に魅力的だと感じています。その世界観がゲームとして表れているのが『Recolit』です。ゲームが現実とインタラクションしたらどんな感じになるのだろうと思いながら作られている作品です。『Recolit』を見て、ぜひIGC 2022のキービジュアルをむじさんにお願いしたいと思いました。“つながり”を大切にイメージして描いていただき、すばらしいキービジュアルになったと思っています。

KONAMIが出展料・入場料無料でインディーゲームイベントを開催する理由。Indie Games Connect 2022に対する思いをキーパーソンに聞く

安慶名mumimumiさんは、小学生のときからゲーム制作を始めています。代表作の『モチ上ガール』を始め、彼が作るゲームはプログラム、グラフィック、サウンドなどすべてを彼自身が制作しています。見た目だけではなく、遊びの部分でもコンセプトが明確でして、そのコンセプトがゲームのおもしろさや魅力、世界観にしっかりと結びついています。Unityインターハイでの準優勝と優勝経験があるのも納得です。“銀座Unityもくもく会”やいろいろなインディーゲームの出展会に参加して、遊んでもらった人の声を聞きながらモチベーションを高めて新作に挑んでいらっしゃいます。今年からは“銀座Unityもくもく会”の主催者にもなり、さらなる活躍を見せてくださっているんですよ。“銀座Unityもくもく会”を通じて知り合ったおふたりになりますが、IGC 2022には大いに協力していただいています。

――今回のIGC 2022はいろいろと試しながら手探りで進めるとのことですが、KONAMIさんが今後見据えているインディーゲームとの付き合いかたというのは?

安慶名こうしてイベントを開催すると決めましたので、1回では終わらないようにしたいと思っています。長く続けたいなと。まずはそれがいちばんですね。今回1回目を実施しての感触で、どこに向かうべきかというのは、当然考えていかないといけないことになると思うのですが、そのときは、「KONAMIとして……」というよりは、インディーゲームクリエイターの方たちがどこに向かいたいのか、その手助けのようなことが、私たちにどれくらいできるかというところが、テーマになると思っています。

――それでは、来場を考えている読者に向けてひとこと。

安慶名“つながり”というキーワードを強調してきましたが、このコンセプトの第一にあるのは、来場される方にインディーゲームに出会っていただき、そのゲームの向こうにいる作り手の人たちとつながる。そこが大きな魅力のひとつだと思っているので、ぜひたくさんの方々に遊びに来ていただきたいなと思っています。

イベントのつながりを作れる機会がありがたい(むじ氏)

――現在制作中の『Recolit』を作りはじめたきっかけを教えてください。

むじ自分でイラストを描けることと、以前やっていたエンジニアの経験を生かして何か作れないかと考えていたときに、いろいろ縁があってゲームを作れるかもしれない状況になりました。試しに作ってみたところ、制作に協力していただける方が増えていって、いまの規模感で作れているという感じです。

――作品のコンセプトについて詳しくを教えてください。

むじ基本的にアドベンチャーゲームとパズルゲーム以外のものが難しくて遊べないので、どちらかにしようと思っていました。考える中で“明かりの中でしかモノを操作できない”というアイデアがパズル的でおもしろいかなと思って、そこを起点に舞台を設定していきました。私はどちらかというとファンタジーよりも現実的な舞台が好きなので、“夜”をテーマに、コンビニとか、ふつうの街並みとか、駅のホームを描くゲームにしようと思いました。

――開発期間はどれくらいですか?

むじ3年くらいです。

――その期間は、最初に定めたゴールに向かって着実に進んでいる感じなのでしょうか。それとも、当初の予定から大幅に変わっているのでしょうか。

むじ蛇行に蛇行を重ねて……みたいな(笑)。開発を始めて半年時点で想定していた規模感から、いまは4倍くらいになっています。ちょうどそのころに入った、プログラムをお手伝いしてくれている方に「こんなに膨れるとは思わなかったよ」って先日言われました。本当は5倍に膨らむところを何とか抑えたんですけど(笑)。

KONAMIが出展料・入場料無料でインディーゲームイベントを開催する理由。Indie Games Connect 2022に対する思いをキーパーソンに聞く
明かりを頼りに進んでいくナゾ解きアドベンチャー『Recolit』。

――リリースが近い中での IGC 2022への出展ということですが、このイベントのことを知ったときの率直な感想を教えてください。

むじやはり最初はびっくりしました。KONAMIさんはゲームを作る会社さんだと思っていたので。しかも出展料が無料というので、「こんなうまい話があっていいのか?」みたいな気持ちが、正直ちょっとありました(笑)。

――“つながり”というコンセプトについてはいかがでしょうか。

むじゲームって、ひとりで作っていると「このゲームおもしろくないのでは?」「作っていて意味あるのかな?」みたいに思うことがあるのですが、オフライン出展の機会で「ここがいいですね」って言ってもらえると、すごくモチベーションが上がります。あと、パブリッシャーさんに「ここをこうしたほうがいいよ」というアイデアをいただいたら、そこから気づいて、よりいい調整ができたりもするので、そういうつながりを作れる機会は、すごくありがたいです。

――そのあたりはまさにオフラインイベントだからこそのメリットですね。

むじオフラインのいいところは、来てくださった人に、作品が強く印象が残りやすいことだと思います。「このゲームがうまくいくといいな」という、ポジティブな気持ちを感じてもらいやすいというか。オンライン形式のイベントは“ミニマルな情報が大量に流れる状態の中から自分が好きなものを選ぶ”というきっかけになったりするので、それはそれで意義があるのですが。

――コロナ禍以降注目度が上がっているオンライン形式のイベントとともに、今後は実地型のイベントもどんどん開催されてほしいと思われます?

むじそう思います。

――むじさんは、IGC 2022のキービジュアルも担当されているとのことですが、どのような思いでお描きになったのですか?

むじキービジュアルをよく見ると、おもちゃのレールみたいなものが描いてあるんです。いろいろなゲームを作ってきた人たちが、その日(IGC 2022の開催日)までに持ち寄って、おもちゃのレールでつないであげるという。そういう形でイベントがレールになれたらいいなという思いで描きました。

――では、来場を考えている読者に向けてひと言お願いします。

むじインディーゲームのイベントはお祭りみたいなものだと思っています。出展側は楽しさを提供する気持ちでいるので、会場にいらっしゃる方も「楽しいところへ行くぞ」という気持ちで来てもらえると、すごくいい経験になるかなと思います!

遊んでおもしろかったら作者に直接伝えてあげてください!(mumimumi氏)

――現在制作中の新作『百科ガール』について教えてください。

mumimumi進捗の間隔が長すぎてそのときどきでタイトルが変わってしまっているのですが、一応全部同じプロジェクトとして作っています。ただ、方向性が変わりすぎて……まぁ、悪く言えば迷走中です(笑)。

――IGC 2022では、その最新バージョンが出展されるということですよね。

mumimumiそうです。

――しかしなぜまた迷走しているのでしょうか?

mumimumi結局長い目で見たら、(前作の)『モチ上ガール』のときと似たような流れで進んでいるのかもしれません。あのゲームも『星のカービィ』の3D版のようなプロトタイプから、4年の歳月を経てやっとできたものなんです。

――なるほど、試行錯誤しながら作っていくスタイルですね。

mumimumiまずは複雑なゲームを作って、そこにアクションをひとつ増やしたら、すでにあるアクションの中からひとつを減らす……みたいな工程をくり返しています。それが自分的にいいゲームを作る方法なのかなと。

――前回はこのくらいの規模のゲームを作ったから、今度はチームでもっと大掛かりなものを……という発想にはいかなかったのでしょうか?

mumimumi人数を増やしてしまうとそれはそれで難しいですね。自分はあまりコミュニケーションが得意ではないというか、人を巻き込んで動かしていくみたいなタイプではないので、これまでの経験を生かしつつ、できる範囲でクオリティーを上げていく方向です。いまはエディターを作って作業を効率化して、開発のサイクルを短くしていくことを意識しています。

KONAMIが出展料・入場料無料でインディーゲームイベントを開催する理由。Indie Games Connect 2022に対する思いをキーパーソンに聞く
muimui氏開発による、餅を使うワイヤーアクション『モチ上ガール』。

――今後も個人ゲーム開発者としてやっていくとなると、オフラインイベントへの出展は、より重要な意味を持ってくるかと思います。今回のIGC 2022開催についてはどのような印象をお持ちでしょうか。

mumimumi自分の作ったゲームの反応は、やはりネットではなく生で見るのが楽しいです。コロナ禍でインディ―ゲームイベントが少なくなってしまったなぁと思っていたところで、皆さんの生の反応がに接することができる機会を作っていただけるということで、すごくありがたいです。

――イベントに出展すると、ゲームに対する率直な感想だけでなく、場合によってはアドバイスをもらうこともあると思いますが、そのあたりに関してはどう捉えているのでしょうか?

mumimumi自分は批判的な意見もすごくありがたいです。ふつう、そういうことは面と向かっては言ってくれないですからね。ただ、全員が全員、自分のように思ってるわけではないので、開発者に何か意見する際には「すみません、気になるところがあるんですけど」みたいに確認して、うまいことコミュニケーションしていただければと。

――最後に、来場を考えている読者に向けてひと言お願いします。

mumimumi入場無料なので、とりあえず来てください(笑)。オフラインイベントのいいところは、遊んでおもしろかったら、そのことを作者に直接伝えられることなので、黙って立ち去らず「すごくおもしろかったです! 期待してます!」と言ってほしいです。そうすると、開発中のゲームが完成します(笑)。

KONAMIが出展料・入場料無料でインディーゲームイベントを開催する理由。Indie Games Connect 2022に対する思いをキーパーソンに聞く