20年以上前にSTGから脱落した僕が『DRAINUS』と出会い、「初心者向けSTGとは何か」と考える

アーケードライクな作品のゆくえ

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僕はかつてシューティングゲーム(STG)から脱落した人間です。

STGとは、かつてアーケード(ゲームセンター)で人気を誇ったジャンル。古いものでいえば『スペースインベーダー』、あるいは「グラディウス」シリーズや「ダライアス」シリーズあたりが有名でしょうか。

その昔、たまたま友人の家で家庭用ゲーム機版『極上パロディウス 〜過去の栄光を求めて〜』に出会ってプレイしましたが、高速スクロールステージの難しさに打ちのめされてからほとんど触れなくなりました。

『DRAINUS』(2022)

それから20年以上の時間が経過し、2022年に『DRAINUS』というSTGに出会います。本作は初心者でも遊びやすいように作られた作品のようで、僕も楽しくプレイできました。

しかし一方で、本作に物足りなさを覚えたのも事実です。確かに難易度が低くて簡単にクリアできるわけですが、「STGの魅力」を発揮できているか、あるいは「多くの人を取り込む」という作品になっているのかと、疑問に感じたのです。

気軽に遊べるインディーSTG『DRAINUS』について

『DRAINUS』(2022) 特に迫力があるオープニング。

『DRAINUS』はteam ladybugによって開発されたインディーゲームです。レトロな横スクロール形式のSTGで、主人公は最新鋭戦闘機「ドレイナス」に乗り込み帝国との戦いを繰り広げます。

本作の特徴はなんといってもグラフィックと演出。チュートリアルからスムーズに移行するオープニングは見事な掴みですし、ボスが出る前の「Warning」画面やステージクリア時の演出も迫力があります。

難易度はかなり低めで遊びやすい作りになっています。実質的なライフ制なうえに残機の要素もあり、機体のショットやボムを変更できる成長(ビルド)要素も存在。ゲームオーバー時はチェックポイントから復帰したり、ステージを選択できる機能もあります。

『DRAINUS』(2022)

もうひとつの特徴が、過去の名作STGのオマージュもしくはパロディです。タイトルが「グラディウス」と「ダライアス」を組み合わせたような語であることからわかるように、敵キャラやサウンドなどに有名なSTGを意識した部分(というより模倣したもの)が非常に多くなっています。

IGN JAPANでは、STGに詳しい今井による『DRAINUS』レビューも掲載していますので、詳細はこちらをご覧ください。

本題に入る前の注意点

『DRAINUS』(2022)

今回『DRAINUS』について考えていく際に重要なポイントがふたつあります。まず1点目は、アクションゲームの初心者向けタイトルを参考にしていくということです。

アクションゲームとSTGはジャンルが違うので単純な比較はできませんが、アーケードにルーツがあることは同じです。アクションゲームは家庭用ゲーム機などさまざまな媒体でうまく形を変えて繁栄しているわけで、そのまま真似はできずとも考え方は参考になるでしょう。

また、「初心者向け」という言葉をこれ以降は避けていきます。というのも「初心者」とは割と曖昧な言葉で、20年以上ほとんどSTGを遊んでいなかったけれどもゲームそのものはいつもプレイしている僕もSTGに関しては「初心者」といえますし、普段まったくゲームを遊ばない人も「初心者」なわけですよね。

それぞれの立場からすると同じ「初心者向け」でも意味はかなり異なってきます。そのため今後は「初心者向け」ではなく、より多くの人が楽しめるであろう「間口の広いゲーム」という考え方で進めていきましょう。

『ヨッシークラフトワールド』と比べて見える「強烈な個性」

『ヨッシークラフトワールド』(2019)

さて、アクションゲームにおいて低難易度でグラフィックと演出にこだわったゲームとなると、僕はまずNintendo Switchの『ヨッシークラフトワールド』が思い浮かびます。

本作はヨッシーを操作してゴールを目指すアクションゲームなのですが、極端に難易度が低いのが特徴です。ライフがいっぱいあるのにきせかえをするとさらにライフが倍増するし、ジャンプして穴や敵を避けるゲームなのに空を飛べる「はねヨッシー」という要素まであり、未就学児でもプレイできるでしょう。

では、そんなアクションゲームの何が楽しいのかというと、工作で作られた世界です。海底にはダンボールで作られた竜宮城があり、空き缶などで作られた汽車に乗り込み、バケツのペンギンがいる冷たい海を冒険し、落ち葉や松ぼっくりで作られたバス停でのんびりと手作りのバスを待つゲームなのです。

あるいは巨大なヨッシーロボになってすべてを破壊していったり(もちろん壊すものもきちんと工作です)、ソーラーカーでレースを繰り広げたりと、あらゆる工作が目まぐるしく登場します。

ステージセレクト画面も贅沢で、攻略を進めていくたびに飾りが増えていく異様な作り込み。かつてコラムで『ヨッシークラフトワールド』をツーリズム・アクションゲームと表現しましたが、横スクロールアクションなのにまさしくのんびりとした旅のようなゲームなわけです。

本作のような作品でアクションゲームに慣れたらより難しいものに挑戦してもよし、高難易度が嫌でもNintendo Switchさえあれば遊びやすいアクションゲームはいろいろとあり、入門用タイトルとして非常に効果的でしょう。ふたり協力プレイにも対応しているので、誰かと遊ぶという意味でも間口が広いゲームです。

『DRAINUS』(2022)

『DRAINUS』も同じく低難易度化を行い、グラフィックと演出が特徴となっています。ならばジャンルが違うだけで方向性は同じかと思うのですが、「際立った個性」という大きな違いがあるのです。

『ヨッシークラフトワールド』は、多くの人が一度は触れたであろう“工作”を題材にしています。世界がどんな素材で作られているのかも考えられていますし、動きもきちんとそれらしくなっており、普段あまりゲームを遊ばない人の関心も引く題材になっています。

一方、『DRAINUS』は多くの要素が過去のSTGのオマージュ、あるいはパロディで構成されています。これはSTG好きにはウケるでしょうが、内輪向けであることは否定できません。正直、特にSTGが好きではない僕からすると非常に有名なものだけがわかるのみで、蚊帳の外にいる感覚でした。

もちろんオマージュやパロディそのものが悪いわけではありません。ただ『DRAINUS』は本当にそれらが多く(わかっている人に向けられている印象が強く)、間口が広いとは言い難いのです。

「星のカービィ」と比べて見える「優しさの違い」

『星のカービィ スターアライズ』(2018)

さて、ほかの間口の広いアクションゲームといえば「星のカービィ」シリーズが挙げられます。

「星のカービィ」シリーズは作品によって方向性が異なるのですが、おおむね「その場にあるコピー能力を使っていけば、気持ちいいアクションが楽しめる」という作りになっています。

『星のカービィ ディスカバリー』(2022) この作品では、非常にインパクトがあるうえに攻略手段の提示となる「ほおばりヘンケイ」という要素が登場しました。

たとえばタイヤになる「ホイール」をコピーして坂道を高速で走り抜けたり、「パラソル」でふわふわと落下傘のように降りてゆく……など、状況に応じたコピー能力を使うことが攻略であり、楽しみとなっています。

ゲームのうまさとは「効率的な攻略方法を見つけられるかどうか」という部分が大きいです。「星のカービィ」シリーズはゲームをあまり遊ばない人でも攻略を見つけやすいように、うまくコピー能力を配置しているわけですね。

『DRAINUS』(2022)

『DRAINUS』はショットやボムなどを入れ替えて自分だけのビルドを作れますが、やはり能動的にステージに合わせた攻略を見つけるという形式です。ゲーム慣れしていない人も遊べるようにするのであれば、これも誘導して「このショットを使うと楽しく遊べるよ」などという形にしても問題なかったでしょう。

また、「星のカービィ」シリーズではダメージを受けるとコピー能力を失います。しかし、失ったコピー能力は回収可能ですし、もしなくしても違うコピー能力がすぐ手に入れられます。そもそもの話、コピー能力がなくてもすいこみ&吐き出しだけでけっこう戦えるのです。

ダメージを受けてプレイヤーがまったく不利にならないのはさすがに問題ですが、不利な状況をリカバリーしやすいのが間口の広いゲームといえるでしょう。やられたときのストレスコントロールも低難易度のゲームには必要なわけですね。

『DRAINUS』(2022) このような狭いうえに敵が視認しづらい場面でダメージを受けると、パワーアップが一気に崩れてしまいがち。

この点に関して、『DRAINUS』は昔気質な作りです。パワーアップがライフ代わりになっているのでダメージを受けると自機が弱くなる仕様で、一度崩れると復帰が難しくなります。これは明らかに間口の広いゲームと相反する作りですね。

そもそもゲーム慣れしていない人ほどダメージを受けやすく、上級者であるほどダメージを受けづらいわけです。むしろ、ダメージを受けたら自機が強くなるほうが理にかなっていますよね。あるいはHPをゲージ表示などファジーなものにして、ピンチになるとやられづらくなる(多少のダメージを受けても粘るようになる)仕様のほうが救済要素になりうるわけです。

僕は最初に『DRAINUS』は間口の広いゲームなのだろうと書きましたが、もしかするとその認識が誤っているのではないか? と思いそうになるシステムになっています。

STGとしての「お約束」からの脱却

『DRAINUS』(2022) 地形ダメージを受けやすい戦艦ステージ。どこまでが背景なのか、プレイ中はわかりづらかったです。

確かに『DRAINUS』は難易度こそ低いのですが、“STGらしさ”をかなり守っている印象が拭えません。オマージュやパロディはもちろん、ダメージを受けるとパワーアップが失われる仕様もそうです。ステージ選択は可能なものの、結局はアーケードのように通しプレイになりやすいのもそうでしょう。ショットやボムのビルド以上に自機の操作スキルが重要なところも同じです。

個人的に、地形ダメージがかなり気になります。地形に触れるとダメージを受けるのはSTGでは常識のようですし理屈としてもわかるのですが、感覚としてはかなり理解しづらいです。触れたらダメージを受けるものは、それこそ初心者でもわかるように危なそうな見た目をしているものですからね。

※追記:記事執筆後の2022年6月8日のアップデートで、難易度EasyとNormalに「ステルスバンパー機能」が追加されました。これを搭載すると地形衝突しづらくなったようです。

『DRAINUS』はSTGに不慣れな人でも遊べますが、そこまで間口の広いゲームとは言い難いように思います。本当に多くの人を取り込みたいのであれば、アーケードライクなスタイルなどSTGのお約束を徹底的に捨てたほうがよいでしょう。現状では、アーケードライクなのか低難易度なのか、中途半端な印象を受けます。

もちろん、「比較的易しいゲームであったとしても、STGとしての歯ごたえは残したい」という考えも理解できます。やはりSTGはアーケードで特に目立ったジャンルなわけで、クリアする快感がポイントだと考える人もいるでしょうから。

『師父―Sifu―』(2022)

その場合は『師父―Sifu―』や『Cuphead』のように、「高難易度かつアーケードライクだけど、遊びやすくする仕様が盛り込まれているゲーム」にしたほうが幅広い人が楽しめて、結果的に間口の広いゲームとなるのではないかと考えられます。

『師父―Sifu―』はやられると年齢を重ねつつ攻撃力が上がるというおもしろいシステムを採用しており、同じステージを何度もプレイする意義を作り出せています。アーケードライクなゲームを現代風にした作品として非常に見事で、僕個人の2022年GOTY最有力候補となっている作品です。

『Cuphead』(2017) カートゥーンアニメのオマージュが多分に含まれていますが、ゲームのビジュアル表現としては極めて新鮮かつ珍しいものです。

『Cuphead』も難しいアクションゲームですが、各ステージを短く区切っているうえに、やられても進行度も表示してくれて再挑戦しやすい作りになっています。1930年代のカートゥーンを意識したアートワークやサウンドも際立った個性といえるでしょう。

アクションゲームにおいては、アーケードライクな要素を完全に捨てて多くの人が遊べるように特化したゲームもあり、逆にアーケードライクな作品を現代風に進化させて遊びやすくした傑作も存在します。こういった動きを見ていると『DRAINUS』は半端に見えてしまい、それゆえに僕は物足りなさを感じたのでしょう。

それでも『DRAINUS』が良いゲームなのは間違いない

『DRAINUS』(2022)

とはいえ、『DRAINUS』が良いゲームなのは確かです。気になるところはあってもやはりグラフィックと演出には感心しましたし、何より本作が刺さるであろう人はきちんと存在します。

それは「かつてSTGを遊んでいたものの、いまは高難易度のものには積極的になれず、一方で再びSTGを遊びたい人」です。

難易度が低いので気軽に遊べますし、中途半端に見えるアーケードライクな仕様も「STGとしてのお約束」と捉えれば馴染み深く、しっくりくる作りだと解釈できるでしょう。オマージュやパロディも、わかっている人なら楽しめると思われます。

よって、僕の『DRAINUS』評は「間口の広いSTG」というより、「STGのノスタルジー喚起に成功したゲーム」といったところになります。ゲーム慣れしているせいかつい前者を望んでしまいますが、規模が小さめなインディーゲームとしては後者でもなんら問題ないでしょう。


渡邉卓也(@SSSSSDM)はフリーランスのゲームライター。STGは挫折したあとにランクシステムの存在を知り、より溝が深まったと感じている。

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