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レトロンバーガー Order 87:海賊版も一周回れば正規品(か?) 1990年代の台湾カオスが現代に蘇る「Thunderbolt Collection」編
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印刷2022/08/27 19:00

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レトロンバーガー Order 87:海賊版も一周回れば正規品(か?) 1990年代の台湾カオスが現代に蘇る「Thunderbolt Collection」編

画像集#025のサムネイル/レトロンバーガー Order 87:海賊版も一周回れば正規品(か?) 1990年代の台湾カオスが現代に蘇る「Thunderbolt Collection」編

正しい戦争より,不正な平和を選ばん。

 古代ローマの政治家・弁護士・哲学者・他もろもろのマルクス・トゥッリウス・キケロは,こう述べたとされています。井伏鱒二「黒い雨」での「いわゆる正義の戦争よりも不正義の平和の方がいい」という借用や,それをまた借用したアニメ映画「機動警察パトレイバー 2 the Movie」での「不正義の平和だろうと,正義の戦争より余程マシだ」なども有名ですね。

 しかし“不正な平和”とは具体的には何でしょう。不義や不道徳が常態化していたら平和とは言えませんし,ことなかれ主義で“平和だとする”のは体制側的な思想であり“正しい”タイプの考え方です。

 法やルールに捕われず,秩序が保たれている状態。それは言うなれば「超法規的な倫理観が機能している状態」であり,つまりはグレーゾーンです。はいコレ今回のテーマ!

 グレーと言えば,“編集部員の買い物を好きに紹介する”不定期連載「買い物Surfer」の筆者担当回で,MiSTer FPGAをグレーと述べたところ,埼玉県飯能市の上尾インドミナスさん(仮名)から,こんな質問をいただきました。

「MiSTer FPGAってホワイトでは?」

 筆者の個人的な回答としてはこうです。

「まあ,それ自体が“法的に”ホワイトかっつったら,MAMEでもRetroArchでもRetroPiでもyuzuでも,それ自体はホワイト」

 しかし,それらに関して“一般的な用途がほぼホワイト”と言えるかは大いに疑問がありますし,法的にホワイトであってもプラットフォーマー/パブリッシャ/デベロッパの想定から外れるようなゲームの利用は,メディアとしてはホワイトだとは言いかねます。ゲーム取扱店で普通に販売されている非ライセンスの周辺機器ですら,実はけっこう慎重な扱いが求められるものです。

 論理回路レベルから再現するFPGAはソフトウェアエミュレータよりも高い再現性を見込めるので,近年では某ゲーム大会で利用されたりもしていますが,種目タイトルの版元に見解をうかがったところ,返答は「(簡単に答えられることではないので)ノーコメント」という濁したものでした。そんな温度感なので,一部のアナーキーなゲーム雑誌でもなければ普通はフィーチャーしません。

 その一方で,法律からシチュエーション限定のルールまで杓子定規に遵守していたら,ファンメイドのバグフィックスMODや翻訳MODすら使えませんし,SNSへの画像アップロードひとつから合法性を徹頭徹尾確保しなければならず,本連載で「Polymega」や「アストロ忍者マン」などを取り扱えるわけもありません。

 そもそも,日本で違法だけど海外では合法なこと,昔は違法だったけど今は合法なこと,法規制されていないけど倫理的に芳しくないこと,法整備されたものの違憲性を問われていること,それらの逆など,いろいろあります。実態としては万事が大なり小なりのグレーなわけです。世の中「ホワイトでないということは駄目だということだ」という窮屈な考えの人は多いですし,4Gamer含め普通のメディアは“表向き”にはそうである必要がありますが,一般レベルで大事なのは「グレーをバランス良く渡り歩くこと」でしょう。

 そんな感じで今回は,グレーゾーンから来たゲーム「QUByte Classics: Thunderbolt Collection by PIKO」PS4 / Nintendo Switch / Xbox One 以下,Thunderboilt Collection)でやっていきましょう。




地獄の運動会


 「Thunderbolt Collection」は,PIKO Interactiveからライセンスを得てQUByte Interactiveが開発し,8月4日に発売されました。Piko Interactiveはレトロゲームや未発売ゲームの権利を割と節操なく買い集めては現行機やPC向けにリリースしているアメリカのパブリッシャ,QUByte Interactiveは「婆裟羅コレクション」や「Breakers Collection」といったビスコ製タイトルの移植から近年注目を集めているブラジルのデベロッパです。

 本作には「Thunderbolt」および「Thunderbolt II」という2本の縦スクロール式シューティングゲームが収録されています。各種ストアでの紹介文によると,これらは「1995年に東部限定でリリースされたThunderboltシリーズの2つの縦スクロールシューティングゲーム」であるとのこと。ただ,一般的なゲーム市場の記録にこれらのタイトルは存在しません。はい,記事の前フリからしてアレな予感が漂ってきましたね!

※以下,スクリーンショットはNintendo Switch版のもの
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 ゲーム自体の出来は,「Thunderbolt」は正直なところ芳しいものではなく,「Thunderbolt II」は「まあ中の下くらいかな……」といったところ。正直「遊びにくい」ことは否めませんが,システムUIに5スロットのステートセーブが実装されているので,ハードルを乗り越えやすくはなっています。その他にもシステムUIからは,ブラウン管風などを含むスクリーンフィルタの選択や,ボタンアサインなどが可能です。

「Thunderbolt」の1面道中。ちなみに,何もないところから敵弾が発生して襲ってきます
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充実の追加オプション!
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 基本的なゲームシステムはオーソドックスなシューティングゲームのそれですが,自機のショットや左右に動くパワーアップアイテムなど,端々に妙な既視感を覚えます。とくに「Thunderbolt」のボスキャラクターは,何か見覚えがあるような……。

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 まあ,アレなんですよね。具体的には,以下のゲーセンミカドさんの動画などを観ていただくと「あー……なるほどなるほど……」となれます。


 んー……表現は難しいですが,できるだけ事実から逃げず,しかし柔らかめな表現を選ぶとしたら……。

 どちゃくそパチモンですね。

ただし「Thunderbolt II」は割とオリジナリティを有していて,なにげに背景の多重スクロールを実現していたりするのは褒められなくもないところ
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パチモンマーチ


 もともと「Thunderbolt」は「雷電II」,「Thunderbolt II」は「雷電傳説II」(雷電伝説II)というタイトルでした。プラットフォームは,前者がファミリーコンピュータで,後者がメガドライブ。もちろん,これらのタイトルに「〜I」に相当するゲームは存在しませんし,セイブ開発の「雷電」シリーズおよび「雷電伝説」(FM TOWNS / メガドライブ / スーパーファミコン)とはまったく関係ありません。あと,販売にあたって任天堂やセガ・エンタープライゼス(当時)といったプラットフォーマーの許諾もありません

ちなみに,中国の通販サイトなどで「雷電傳説II」の非公式コピー,すなわち“海賊版の海賊版”が販売されていたりもしますが,もし物理版が欲しい場合はPiko Interactiveのリプロダクト版カートリッジを購入した方が良いでしょう。Piko Interactiveが何かしらのゲームを復古する資金の足しになるでしょうし
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 詳細は未確認ながら――確認のしようも無いですが――英語圏で出回っている情報を統合すると,これらのゲームは某台湾企業(現存法人なので,いちおう社名は伏せます)が,使い捨てのブランド名で1995年に発売した海賊版だったそうです。同社の“プラットフォーマー未許諾ソフト”はまだグレーと言えますが,ヤバいものになるとファミリーコンピュータ向けの「ポケットモンスター」やメガドライブ向けの「スーパードンキーコング」,ゲームボーイアドバンス向けの「餓狼 MARK OF THE WOLVES」など,数々のマジで法的にブラックなやつを開発・販売していたとか。

「雷電II」改め「Thunderbolt」には“RELEASE 1993”と記されていますが,実際には1995年まで流通していなかったという説も。ちなみに1995年は,最後の正規ファミリーコンピュータ用ソフト「高橋名人の冒険島IV」や,PlayStationおよびセガサターンが発売された翌年です
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 台湾は2002年にWTO(世界貿易機関)へ加盟しましたが,それ以前はぶっちゃけ無法地帯です。IGS(鈊象電子)のように1980年代から正規市場で活動していたゲームメーカーもあるものの,2002年にACCS(社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会)が発表した資料によると,周辺諸国と比べて文字通りケタ違いの海賊版ソフトが当局に押収されています。押収数に対して摘発件数が少ないので,特定の企業ないし組織が大量の製造・出荷を行っていたということなのでしょう。

 ソフトウェアだけでなく,台湾では互換機の開発も盛んでした。台湾随一の水晶デバイスメーカー・TXC(台湾晶技)は,かつて「小天才」と呼ばれるファミリーコンピュータ互換機を製造して中国や東南アジア向けに展開しており,東欧諸国では「Pegasus」ブランドの一部製品,ソ連では「Dendy」ブランドの製品としても販売されています。とくにDendyは,販売会社のSteeplerが任天堂からスーパーファミコンやゲームボーイなどの販売権を得る交渉の中で“容認”との見解を下されたなどのエピソードから,ちょっとした伝説的存在として有名です。

 そんなカオス時代の台湾から生じた諸権利ブッチギリの鬼子が,アメリカの企業に買収されて,ブラジルの企業が諸々修正を行ったうえで,任天堂ハードを含む主要プラットフォーム向けタイトルとして,日本を含む世界各国に向けてリリースされたのですから,時の流れは何とも奇妙かつ慈悲深いものです。

 「Thunderbolt Collection」は,各プラットフォーマーから許諾を得ていますし,「雷電」の名称は製品名からゲーム内まで修正されているので権利を侵害せず,パクリにしてもクオリティの低さから「これを叩き潰すとなると,『Unmetal』や『Covert Critter』のようなオマージュすら萎縮させかねない」といったレベル。

 似たような例としては,2015年にSteamでリリースされた「Giana Sisters 2D」が挙げられますね。ドイツ・Rainbow Arts Softwareが1987年にリリースしたCommodore 64などの8bit PC(とAmiga)向けタイトル「The Great Giana Sisters」は,「スーパーマリオブラザーズ」モロパク(キャラクターは独自の姉妹)だったので,水面下でのいろいろな動きを経て自主的な出荷停止・封印を行うことになったそうですが,ゲーム自体は大評判で伝説的な存在となり,後年にIPが復古されました。「Giana Sisters 2D」は2009年に発売されたニンテンドーDS用ソフト「Giana Sisters DS」のリメイクで,「Giana Sisters DS」は初代「The Great Giana Sisters」のリメイクです。


 権利侵害を容認するわけではありませんが,ゲームの発展において,とくに黎明期は他社の模倣やパロディが珍しくありません。日本のゲーム市場もAtariの「Pong」をコピーした製品から始まりましたし,タイトーの「スペースインベーダー」がコンピュータゲームのパラダイムシフトを引き起こすと,任天堂の「スペースフィーバー」や,発売:レジャック/開発:コナミ工業(当時)の「スペースキング」および「スペースウォー」といった模倣・発展品が現れました。ゲームの表現力が上がってくると,ハドソンは「デゼニランド」「デゼニワールド」といった誰もが知っているIPのパロディゲームを繰り出しました。ゲーム史を辿っていくとき,“パチモン”は非常に重要なファクタとなるものでもあります。


アイしてりんこ スキりんこ


 くれぐれも権利侵害を容認するわけではないことを申し上げますが,台湾の“電子立国”だってホワイトだけでは成し遂げられなかったでしょう。筆者的には「PS5を買わせていただきありがとうございます」のソフマップも,最初期はアングラ気味なお店だったことで有名ですが,今では立派な家電/PC/ゲーム等の量販店です。近年では「ソニックCD」などの“私家移植”を行っていたChristian Whitehead氏が「ソニックマニア」「ソニックオリジン」の開発に携わったりしたように,グレーなところから新しいものが芽生えることはしばしばあります。

 そういった“今では苦笑い”があってこそ今日という日もあるものです。“正しさ”はあるにこしたことはないものながら,その名のもとに可能性の萌芽が潰されるくらいなら,灰色の帳を下ろしておいたほうがいい。「Thunderbolt Collection」は,無闇に白黒付けたがる今の世の中に問題提起を投げかける,存在自体が哲学的なタイトルと言えるでしょう。

 ……でしょう?

 ……いや,別にそんな大層なもんじゃないな。

なお,今回の分かりにくい小見出しネタは嘉門タツオ特集でお送りしました。
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 あと台湾と言えば,筆者的にはPlayStationのローカル広報キャラクター・小藍(とか,Microsoftのローカル広報キャラクター・藍澤 光とか)が「これぞ台湾」だと思っていて,「小藍のPS5スキンステッカー発売してくれよ!」と願っていたりする昨今です。なんかSCEがSIEになって以降,プロモーションを世界的に統一するような傾向を感じていますが,やっぱ個人的には末端がある程度自由にガチャガチャやれるグレーなムードの方が良いなあ。
  • 関連タイトル:

    QUByte Classics: Thunderbolt Collection by PIKO

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