スマホゲーム全盛の今こそ、ゲーセンの「筐体」を探究 コミケ歴14年、『ゲーメスト』元ライターの願い

2023年12月26日 11時30分
<101回目からのコミックマーケット>第4部 ハマり続けて⑦ゲーム系
 同人活動の対象として漫画やアニメに劣らぬ人気を誇る「ゲーム」。作品はもちろん、テレビゲームからボードゲーム、カードゲームまで種類も多い。
 今年の夏コミ(C102)で目に留まったのが、ゲームセンターに設置されているアーケードゲームの筐体(きょうたい)(ゲーム機の本体)の外観やサイズを紹介した同人誌だ。こんな本があったとは!

◆10代から「縦シュー」好き でも出産を機に…

 制作者は、サークル「Doxster」の斎藤茉澄(ますみ)さん(49)。アーケードゲーム専門誌『ゲーメスト』(廃刊)の元ライターで、当時のスコアネーム「きらり屋」をペンネームとして今も使っている。

11月に東京・蒲田で開かれたイベント「レトロゲームサミット」に参加した斎藤茉澄さん(右)と辛島由紀子さん

 10代の頃からのアーケードゲーム好き。ライターとなった当初に「縦シュー子」と命名されそうになるほど縦スクロールシューティングゲームが得意で、特に「F/A」(ナムコ)や「雷電」(セイブ開発)、「達人王」(東亜プラン)などにハマっていた。
 レースゲームの攻略記事で「ハンドルを右に!」とすべき文章が、「インド人を右に!」となっていたなど誤植の多さで知られた『ゲーメスト』。自身も「AI積んでる~?」とつけた見出しが、「ヘェ積んでる~?」となっていることに気づいたものの、直しが反映されずに世に出てしまった苦い思い出も。
 出産を機に仕事を辞め、ゲーセン通いも断った。所有していた筐体も高圧電流が流れるため、子どもが触る危険性を考えて泣く泣く手放すことにした。

◆同人活動で次々と新情報が

 それでも、「ゲームが好きすぎて」始めたのが同人活動。コミケには2009年夏(C76)から参加している。当初は「これまでゲーセンで見たいろいろな筐体を擬人化して漫画にしよう」と考えていたが、いざ調べ始めると、意外と筐体データをまとめたものがないことに気づいた。「海外向けは多少あったが、国内はなくて。それで、調べていくうちに、調べること自体にハマっていった」

アーケードゲームの筐体のデータなどをまとめた同人誌の数々

 最初の「筐体ぼん」で取り上げたのは、セガのテーブル型とアップライト型の計6機種。チラシなどを参考にした発売時期や当時の価格、消費電力、実際に採寸したサイズといったデータのほか、三面図を基にモデリングソフトで描画して再現した外観を掲載した。
 活動するうち、「ここに珍しい機種がある」「これを持っているから取材して」などと情報が寄せられてきた。「ゲーセンによってメーカーの系列が決まっていたり、地域性があったり。そうした発見も面白い」

◆レースゲーム、クレーンゲームの筐体も

 これまで発行してきた同人誌は20を超える。基盤を交換することでさまざまなゲームがプレーできる汎用(はんよう)筐体が中心だが、レースゲーム「ポールポジション」(ナムコ)の専用筐体本を作ったことも。「筐体を持っている人は1つ買うとどんどん増えちゃうみたいで、取材に行ったら、別の筐体もあったということも多い」
 クレーンゲームの筐体にも興味があるといい、「時間と体があれば、全部やりたい」と意欲は尽きない。
 読者の購入理由は、「筐体を自宅に置きたいので、サイズが載っているのは参考になる」「部屋にあったらどんな感じか、本を見て妄想している」「自分が所有している筐体だから」「ゲーセンの店員をしていた頃に思い入れがあった機種だから」などなど。

◆「ダライアス女子会」

 同人誌の頒布を手伝う辛島由紀子さん(39)は、斎藤さんの影響などでアーケードゲームにハマり、今ではレトロゲームの移植で知られるメーカー・有限会社エムツーのディレクター。筐体にも興味があり、「古い機種で稼働していた時期には遊んでいなかったものが多いので、動いているところをこの目で見てみたい」と、全国各地や海外にまで足を運んでいる。「現存しているものもどんどんなくなってしまう。いつか撮りためた写真で同人誌をつくりたい」

斎藤さんと辛島さんは、「ダライアス女子会」のメンバーでもある

 2人は、漫画家餅月あんこさんらと、横スクロールシューティングゲーム「ダライアス」(タイトー)の続編を一緒にプレーする「ダライアス女子会」のメンバー。11月には東京・蒲田で初めて開かれたイベント「レトロゲームサミット」に参加し、ブースを訪れたファンと交流していた。
 多くの来場者があるコミケでは、同人誌で取り上げた筐体で遊んでいたという人と出会うこともあり、「知らない情報を教えてもらえたりして楽しい」と斎藤さん。最近はスマホゲームの普及や電気料金の値上げなどでゲーセンを取り巻く環境は厳しい。「筐体に興味を持ってもらい、少しでも足を運ぶきっかけになってくれたら」と願っている。(清水祐樹)
 オリジナルの創作漫画からアニメやゲームなども含めた二次創作、評論、鉄道や旅行といった趣味まで、実に千差万別なサークルが一堂に会するコミケ。その魅力にハマり、「自分の好きなものを伝えたい」と発信を続ける参加者たちに思いを聞いた。

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