2024年2月22日、バンダイナムコエンターテインメントから発売されるNintendo Switch(ニンテンドースイッチ)用ソフト『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2 REPLAY』。本作は、2007年、2009年にニンテンドーDSで発売された『ゲームセンターCX 有野の挑戦状』と、その続編『ゲームセンターCX 有野の挑戦状2』を1作にまとめてリマスターし、さらに新要素を収録したもの。

『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2』開発スタッフインタビュー。DSのリマスターに立ちはだかった“1画面化”の解決策と、完全新作レトロ風ゲーム『ヤッタロー』が要素詰め込みすぎな件に迫る

【ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2 REPLAY】発売日告知トレーラー

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 1980~90年代にファミコンやスーパーファミコンなどで遊んだような、さまざまなジャンルのレトロ風ゲームが約20本収録された構成で、当時のゲームの楽しさや進化を追体験できるような、企画の元になった番組『ゲームセンターCX』のファンならずとも楽しめるゲームになっている。

 今回、本作のプロデューサーである杉山翠氏を始め、開発を担当したインディーズゼロの鈴井匡伸氏、同じく開発を担当したMUTANの渡邊弘之氏の御三方に、本作の発売の経緯からニンテンドーDSからの移植に関する苦労点、そして、完全新作として収録された『炎の格闘サラリーマン ヤッタロー』に込められた秘話までをうかがった。

 ……のだが、番組をご覧の方はわかるように、鈴井社長はノンストップでしゃべり続けられる人で、そのまま熱い想いをお話をしていただいたものを記事化したら、18000文字を超える大ボリュームとなった。本作の開発エピソードや、新要素の魅力などが散りばめられているので、ぜひお時間のあるときに最後までお読みいただきたい。

『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2』開発スタッフインタビュー。DSのリマスターに立ちはだかった“1画面化”の解決策と、完全新作レトロ風ゲーム『ヤッタロー』が要素詰め込みすぎな件に迫る

杉山翠氏(すぎやま みどり)

バンダイナムコエンターテインメント所属。本作のプロデューサー。(文中は杉山)

鈴井匡伸氏(すずい まさのぶ)

インディーズゼロ代表取締役。ニンテンドーDS版に引き続き、本作の開発を担当する。(文中は鈴井)

渡邊弘之氏(わたなべ ひろゆき)

MUTAN代表取締役。Nintendo Switch版から本作の開発を担当。(文中は渡邊)

ファンの声と番組20周年で結実したリマスター化

――本日はよろしくお願いします。まずは月並みですが、今回『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2 REPLAY』を作ることになった経緯からお聞きしたいと思います。やはり『ゲームセンターCX』の20周年という節目が大きいのでしょうか?

杉山番組が20周年を迎えるタイミングということもありますが、以前からファンの方から「『有野の挑戦状』をNintendo Switchに移植してほしい!」という声は多くいただいていたと聞いています。

鈴井お客さんの声は、インディーズゼロにも届いていました。けっこうな数のファンの方から、毎年のように年賀状などで続編やリマスターの要望が届くんです。それは僕としてもうれしかったですし、いつか実現できたらなと思っていたのですが、そのタイミングがなく、ずっと喉に小骨が刺さったような感じもありました。それが今回ついに実現できて、ご要望をいただいた皆さんの気持ちに応えられたことがすごくよかったと思っています。

――ということは、ファンからの熱心な声で動いたというイメージになるのでしょうか?

鈴井どれもきっかけの要因ですよね。バンダイナムコエンターテインメントさんはもちろん、ガスコイン・カンパニー(『ゲームセンターCX』の番組制作会社)の菅さん(菅剛史氏。ガスコイン・カンパニーの社長で『ゲームセンターCX』ではナレーションを担当)も、以前から20周年に合わせてゲームの企画を動かしたいとお話しされていましたし。その皆さんの背中を押したのが、ファンの声だったというのは間違いないと思います。ただ、最初の動き出しは難しかったですね。本当にいろいろな人と何度もお話させていただきました。ニンテンドーDS版のスタッフもいろいろ状況が変わっていましたし。何せ『有野の挑戦状2』から16年経っていますから。僕たちの会社が変わらずにあったことだけでも奇跡だと思います(笑)。

――移植やリマスターなどの声が多かったというお話でしたが、完全新作の可能性もあったのでしょうか?

鈴井可能性としてはありました。ただ、いろいろお話をしていく中で、初代『有野の挑戦状』と『有野の挑戦状2』で王道ジャンルのものを遊んでいただいていますので、今回は当時作ったものをもう一度、現行機種で遊んでいただきながら、ただの移植やリマスターだけではない新規要素も入れた“リプレイ”という形がいちばんいいのではないかとご提案させていただきました。

 まだやっていないジャンル、たとえば横スクロールシューティングなどもあるのですが、『1』、『2』になかった新作を作るとなると、ニッチなジャンルになっていってしまいそうで。当時を知る人たちが『有野の挑戦状』を遊んだときに感じる“あったあった感”がなくなるんじゃないかなと。

――『有野の挑戦状』シリーズでゲーム内に出てくる時代は、1980年代、1990年代ですが、1990年代も半ばに入ってくるとポリゴンを使ったゲームが入ってきますしね。

鈴井そうなんです。1990年代以降もカバーするといったアイデアもあったのですが、1作あたりのコストが上がりますし、ほかにもサウンドノベルだとか、格ゲーも欲しい、といったようにどんどん広がっていってしまう。

 『ゲームセンターCX』の番組では、“発売から20年経ったらレトロゲーム”という扱いになりましたが、ファンの方々が体験してみたいと浮かべるのは原点の部分なんじゃないかなと。そういった想いもあって、番組自体が最初にフィーチャーしていた1980年代、1990年代のゲームを中心にするという作りは変えずに移植するという方向性になりました。結果、いいまとまりになったと思っています。

『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2』開発スタッフインタビュー。DSのリマスターに立ちはだかった“1画面化”の解決策と、完全新作レトロ風ゲーム『ヤッタロー』が要素詰め込みすぎな件に迫る

――ファミ通でも、ゲームが発表された際にSNSなどで読者から多くの反応をいただきまして。その中でも、「このゲームは海外でも出ないのか?」という海外のファンの声が多くありました。これはニンテンドーDS版が海外で人気があったということなのでしょうか? また、今回のNintendo Switch版は海外での発売があるのでしょうか?

杉山ニンテンドーDS版は北米のほうで人気があったと聞いています。ただ、現状ではNintendo Switch版の海外での発売は予定していません。

鈴井海外のニンテンドーDS版は『Retro Game Challenge』というタイトルで発売されていて、有野課長のことを知っている人に加えて、番組のことは知らないけど日本のレトロゲーム文化が体験できるタイトルとして遊んでくださった方がいらっしゃったようです。海外へ出張に行った際にパッケージを持ってきて、僕にサインをしてほしいとリクエストをいただいたこともありました。

 そういったコアなファンの方はいらっしゃるとは思うのですが、全体で言うと大きい数字ではなく、ローカライズは難しいと思っています。言語だけでなく、ドットやデザインの部分から修正する必要がありますので……。恐縮ですが、できれば今回は日本語版を遊んでほしいなと思っています。

こだわったのは“ニンテンドーDSの1画面化”と“ドット絵の美しさ”

――改めてNintendo Switch版についておうかがいします。今回は開発にMUTANさんが参加していらっしゃいますが、これはどういった経緯で参加されたのでしょうか?

鈴井これは一度どこかでお話しておきたいと思っていたのですが、今回の開発にはMUTANさんにかなり深く関わってもらっています。16年前にニンテンドーDS版を開発したインディーズゼロのスタッフはまだたくさん在籍しているのですが、ほかのプロジェクトとの兼ね合いで全員がフル参加できる状況ではありませんでした。ただ、番組の20周年というお客さんにとっては一番うれしいタイミングに開発を間に合わせたい。そこでほかのプロジェクトでもごいっしょしたMUTANさんにご相談をしたところ、前向きなお返事をいただけました。

――MUTANの渡邊さんは、有野課長と専門学校時代にお会いしていたというエピソードが『ゲームセンターCX』番組放送内で明かされていましたが、開発現場で再会を果たすというのはドラマチックですよね。

渡邊MUTANに開発の相談があったときに、なんというか不思議なご縁だなとすごく強く感じました。当時、まだ『ゲームセンターCX』が始まる前……22年ほど前のことですからね。有野課長とお互いに当時とは違う立場で、ゲームというものを通じてお仕事できたことはうれしく思います。

――ニンテンドーDSからNintendo Switchへの移植となると、解像度や画面比率の対応はもちろんのこと、とくに2画面で作られていたゲームを1画面に落とし込むのがたいへんだったと思うのですが?

鈴井そこは開発前にインディーズゼロのほうで、1画面化を含めたUIデザインなどを固めて提案しました。最初の段階でニンテンドーDS版の『1』と『2』の全画面をキャプチャーして、それに対してNintendo Switch版のレイアウトと、上画面と下画面の情報の入れかたをまとめた比較資料を全画面ぶん作ってMUTANさんと共有しました。

 そのうえで、バンダイナムコエンターテインメントさんに「この内容でいいですか?」、「『2』のギブアップ機能は『1』にはありませんが、付け足しますか?」といった各要素の相談をしたうえで、実際の開発がスタートしています。

渡邊試行錯誤が必要な箇所と、作業が決まっていた箇所が最初から明確だったので、開発としてはとてもやりやすかったですね。

『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2』開発スタッフインタビュー。DSのリマスターに立ちはだかった“1画面化”の解決策と、完全新作レトロ風ゲーム『ヤッタロー』が要素詰め込みすぎな件に迫る

――なるほど。2画面を1画面化にするためのアイデアを持ちつつ、本格的な開発に入る前にかなり時間をかけて準備されたんですね。

鈴井トータルの開発期間は1年半とお伝えしているのですが、その前に準備や予習する時間はけっこうありましたね。MUTANさんに開発を依頼するのに、2画面の1画面化などの明確な方針や作業量が見えないと、MUTANさんも迷ってしまうし、コスト感も出せませんので、最初から完成形のイメージを共有できたのはすごくよかったところだと思っています。

 1画面化のメドが経った後は、インディーズゼロでは各レトロ風ゲームの監修や解像度が上がることでわかる“ありの少年”の部屋の本棚やショップなどの詳細モデル検討、そして新規要素対応などのアイデア出しといった部分を先行して進めつつ、MUTANさんにはニンテンドーDSのデータを元にしたNintendo Switchで動作可能なフレームワークや描画まわりを含めた移植部分をお願いしました。あとは”ゲーム魔王アリーノー”やありの少年などのモデルを作り直す必要があったので、そこもお願いしています。

『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2』開発スタッフインタビュー。DSのリマスターに立ちはだかった“1画面化”の解決策と、完全新作レトロ風ゲーム『ヤッタロー』が要素詰め込みすぎな件に迫る

 このあたりのお話は一度どこかできちんとお話ししたいと思っていました。お客さんの反応の中には、MUTANさんはデバック担当と勘違いされていらっしゃるものもあって。がんばっていただいたMUTANさんのスタッフもたくさんいらっしゃいますし、うちとMUTANさんがどういった切り分けで開発していたのかお伝えできるのはありがたいです。

 一方で、有野課長の挑戦部屋を再現したタイトルトップ画面や、新作の『炎の格闘サラリーマン ヤッタロー』はうちが開発していたりと、今回のタイミングでインディーズゼロ側が新規に作った要素も多いです。

――なるほど。開発はインディーズゼロとMUTANの文字通りのタッグでおこなわれたんですね。ほかに1画面化する際に力を入れたポイントはありますか?

杉山ニンテンドーDS版では上画面にゲーム画面、下画面にプレイヤーとありの少年の姿が写るように分かれていたのですが、Nintendo Switch版ではありの少年たちの遊んでいる後ろ姿が映るようになっています。

 本作は単なる1980年代風ゲーム集ではなく、当時の雰囲気が感じられることが大きなポイントですので、友だちといっしょにプレイしている雰囲気を感じていただくため、ゲーム画面だけのものに加えて、ありの少年たちに寄ったものや少し引いたものなど実際に数パターンを作って検証して、その中から3種類を収録しました。

鈴井じつはこれも意外とたいへんで、携帯モードとTVモードではレトロ風ゲームの画面の見えるサイズ感が違ってくるんですよ。最終的にどのパターンがいいのか、ずっとやりとりしていました。

 あと僕らが最初にMUTANさんに強くお願いしていたのは、1画面の見栄えをどうするかという点と、もうひとつはドット絵のきれいさについてです。ドット絵のピクセルパーフェクトという問題がありまして。ゲーム機で出力する際に、ドットの表示がどうしても歪んだり、モアレが出たりして、きれいな正方形にならなかったりするんですね。でも、そういった歪みが一切ない、パキッとしたドット絵が美しいと思っていまして、MUTANさんに「シェーダー(編注:画面に出力するプログラムの一種)の技術を突き詰めてほしい。なおかつ60フレームは絶対に守りたい」とお願いしました。ニンテンドーDS版と操作感が1ミリも変わらないという点は死守したかったポイントなので。

 今回ニンテンドーDS版から移植するにあたって、削ったものはメモ帳くらいですかね。Nintendo SwitchだとTVモードでのプレイを念頭に置いての開発になりますし、ゲーム機側でスクリーンショットの撮影もできるので。タッチパネルを使う要素は外しました。

――ドット絵のきれいさ、見やすさに関しては、素人目でもわかりやすいクオリティーですよね。違和感なくキレイになっていて、ニンテンドーDS版はもちろん、1980~90年代にプレイしたゲームに対する思い出補正も越えているというか。

鈴井ありがとうございます。レトロゲームの再現として、走査線を入れてブラウン管のようにエッジを歪ませたり、ドットを補完するためにあえて縦横のラインを入れてにじませてみたりする手法もよくあります。それも試してはみたのですが、80年代らしい雰囲気は出るけれど、ゲームとして遊びやすいかどうかの問題も出てきます。やっぱりニンテンドーDS版のパキッとした見栄えをさらに見やすくするのがいちばんいいということで、この形になりました。

 でも、ピクセルパーフェクトを実現するのはなかなか難しくて。たとえば、スコア表示などの“1”というフォントが解像度次第で細くなったり太くなったりすると、やっぱり気持ち悪いんですよ。どんな画面でも1ドットの比率などは変わってはいけないので、MUTANさんにはすごくこだわってもらいましたね。

 MUTANさんから実際にあがってきた画面を80インチモニターに映して、細部を指して「ちょっと歪んでますね」と小姑みたいなことを言ったりしていました(笑)。でもその甲斐あってアルファ版が完成するころには完璧になって、開発初期にはあったぼやけ、中間色みたいなものもなくなって、かなり自信を持ってバンダイナムコエンターテインメントさんに「ジャーンッ」とお見せしたのですが、「わー、きれい」ではなくて、「あっ、はい」というリアクションで。

――(笑)。

鈴井パッと見はわからないようなところですし、比較して見てもらったら納得していただけたんですけど(笑)。すごく時間をかけてこだわって作った部分ではあります。

差し替え用SS_GCCX2_課長は名探偵_引き

――ニンテンドーDS版から16年近い時間が経っており、ドット絵のゲームをあまりプレイしたことがない若いスタッフもいらっしゃったのかなと思います。そういった点で問題が起こったりはしましたか?

鈴井たとえば杉山さんに「Bダッシュ」と言ったときにパッと伝わらなかったりすることはありました(笑)。ただ、過去作の移植部分に関しては事前に膨大な資料をMUTANさんに全部お渡しして、違和感なく開発が進められたと思っているのですが、実際どうでしたか?

渡邊ゲームの知識や経験といった部分よりも、開発ツールの面でジェネレーションギャップ的なものがありましたね。

 ちょっと専門的な話になってしまいますが、ニンテンドーDSでドット絵を表現する際には“パレット”という概念で色を決めていくんですよ。でもその概念を現場で踏んできていない世代の子たちが開発には多かったので、「パレットとは……」とか「16色が……」というような説明を現場の子たちにする必要がありました。ちょっと専門学校の先生になった気分でしたね。

鈴井同じパレットに入っている色がここに指定されていて、そこのカラーコードの値をプログラムでいじると同じ色を使っている部分が全部虹色にアニメしたり、光ったり……。専門的な話なんですが、それを多用しないと当時らしさが出ないんです。でも渡邊さんご自身がプログラマーで、どういう風にすれば実現できるかという知見をお持ちだったので、すごく頼りになると思っていましたし、最初にご相談した時点で「できます」と言い切ってくださったので、もうお任せできるなと感じました。そういう意味でもMUTANさんにお願いしてよかったですね。

リマスターしたことで浮き上がる収録タイトルのクオリティー

――今回、『1』と『2』のゲームをプレイしてみると、改めてひとつひとつのクオリティーが高いなと驚きました。現代だったらインディーゲームとして単体発売できるレベルだと思います。こういったものを詰め込む構成はすごくたいへんだと思うのですが、その苦労を改めてお聞かせいただけますでしょうか。

鈴井当時の開発スタッフの熱量はとにかくすごかったです。自分たちが大好きで熱中したジャンルのゲームの体験や本質を分解してオリジナル要素を加えながら再構築できる。しかも、説明書やゲーム雑誌などのゲーム周辺のものまで「全部作っていいんだ!」というところに対する熱量が大きくて。

 下準備を含めて作業は膨大だったのですが、たとえばレトロなシューティングゲームを作るチャンスというのは、当時はほとんどなかったんですよ。いまだったらインディーゲームの市場があり、そこで出すチャンスはいっぱいありますが、16年前はなかった。だから自分たちが大好きだった1980年代風のゲームを再現できることに対して、みんなすごく熱量を持って取り組んでくれました。

 番組の目標が“エンディングを見る”ことだったので、収録するゲームすべてにエンディングがなければいけないし、そうなるとそこそこのボリュームがあるものにしないといけません。ちょっと切り出したものではなくて、ちゃんとスタッフクレジットまであるものを全部作ろうというのが当時のテーマでした。実際にやってみたらかなりたいへんだったのですが、すごく盛り上がりながら作った記憶があります。そういった記憶もあり、今回のNintendo Switch版で収録する新要素は、新作レトロ風ゲームを2本、3本みたいなことは1ミリも考えませんでした。作るならば1本をしっかり濃密に、かなと。

『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2』開発スタッフインタビュー。DSのリマスターに立ちはだかった“1画面化”の解決策と、完全新作レトロ風ゲーム『ヤッタロー』が要素詰め込みすぎな件に迫る

――移植作業をするMUTANさんにとっても、ボリューム的にめちゃくちゃたいへんですよね。

渡邊そうですね。ただ、当時のソースコード(プログラム)やデータがしっかりと残っていたので、それを活かして進めていく形で、移植部分に関してはたいへんさはもちろんありましたが、資料がないからイチから作り直し、みたいなことはありませんでした。ですので、ボリュームのわりには順調に進行できたのかなと思います。

鈴井最初は、MUTANの豊田さん(豊田正樹氏)に『ウィズマン』と『ハグルマン』を目コピ(編注:ゲームを見る&遊んで、ゼロから再現すること)で作ってもらったんですよ。そうすると、操作感などが違ってしまって。そこでアプローチを変えて、元のソースコードを活かしながらNintendo Switchの仕様に合わせてどう直していくか、そのやりかたをきちんと決める形にしました。このプロセスがあったおかげで、残りのタイトルをみんなで手分けして作ることができたんだと思います。

『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2』開発スタッフインタビュー。DSのリマスターに立ちはだかった“1画面化”の解決策と、完全新作レトロ風ゲーム『ヤッタロー』が要素詰め込みすぎな件に迫る

 ちなみにニンテンドーDS版に入っていた有野課長のボイスも膨大だったので、開発の終盤はたいへんでした。テストプレイもヘビーだったし、『1』、『2』のボイスが正しく実装されているか確認するのは途方もない作業量で。でも、16年前の音源データを音回り全般をお願いした株式会社B.B.スタジオさん(バンダイナムコグループの開発会社)が全部残してくれていたので、とても助かりました。ボイスデータがないと、有野課長が全部録り直すことになってしまうので、本当にみんながデータをちゃんと管理してくれていたことがよかったと思っています。

――テストプレイですと、ミッション形式の挑戦部分だけでなく、クリアーまでやらないといけないわけですよね。RPGの『ガディアクエスト』とかも含めて……。

鈴井そうなんですよ。ちゃんとやり込みの部分までチェックしなくてはいけないので、当時の開発メンバーが実際に通しでプレイして、「ここが違う」とか「ここの色味がおかしい」とか、当時のニンテンドーDSのスクリーンショットを撮って比較したりしていましたね。MUTANさんも本当にたいへんだったと思います。

渡邊たいへんではありましたが、僕たちMUTANとインディーズゼロさんの関係がすごくよかったので、どんどん同じ目線になって作業できたので楽しかったですね。当時のインディーズゼロさんの思惑通りに動いていないんじゃないかみたいなところも、ちゃんと話し合いながら進められて。すごくよかったです。

鈴井作業的ではなく愛情を持って取り組んでくださっていることがすごくわかりました。Nintendo Switch版の新要素でオンラインランキングがありますが、デバッグ中のランキングを見ると、MUTANのプログラマーさんがランキング1位を取ったりしていて。インディーズゼロのスタッフがそれを見て、「どうやったんだ!」とか言いながら、負けずにテストプレイで高得点を出そうとしていました(笑)。

渡邊デバッグサーバーのランキングは熱いことになっていましたね。

――いい関係ですね(笑)。

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レトロゲームらしからぬボリュームを備えた新作『炎の格闘サラリーマン ヤッタロー』

『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2』開発スタッフインタビュー。DSのリマスターに立ちはだかった“1画面化”の解決策と、完全新作レトロ風ゲーム『ヤッタロー』が要素詰め込みすぎな件に迫る

【完全新作】炎の格闘サラリーマン ヤッタロー PV《有野の挑戦状 1+2 REPLAY収録》

――今回収録している新作レトロ風ゲーム、『炎の格闘サラリーマン ヤッタロー』についてもおうかがいします。このゲームは、本作に合わせて作ったのでしょうか? それとも、もともとニンテンドーDS版のときから企画があったのでしょうか?

鈴井16年前の『1』、『2』開発時に収録ゲームの候補としてベルトスクロールアクションがありました。ですが検討の結果、ほかのジャンルが優先されて、2回とも収録することができなかったという背景があります。当時は検討するために企画書や仕様書、サンプル画面まで作っていたのですが実現できなくて。それが悔しかったので、せめてもの思いで“ゲームファンマガジン”(ゲーム内に出てくるゲーム雑誌)のランキングに名前だけ入れたんです。そのゲームのタイトルが“炎の格闘生徒会長ヤッタロー”でした。

ゲームファンマガジン

 そういった背景があり、結果的にはその続編的な位置づけとして、生徒会長ではない“格闘サラリーマン”という形でNintendo Switch版への収録が実現しました。伏線回収というか、昔のお客さんにとってはつながりも感じられるのがいいかなと。今回改めて新規ジャンルを1個だけ作ると考えたときにも、ベルトスクロールアクションはすごく相性がいいなと思っていて。お客さんが遊びやすいものですし、ほかの収録タイトルとジャンル被りもしていない。とくに、さまざまな昔のゲームを思い出す“あった、あった”感を詰め込めることも、すごく大きかったと思っています。

 あとは、ガスコイン・カンパニーの菅さんからは、リマスターするならゲームのどこかに番組のADさんを要素として入れてほしいというリクエストをいただいていましたので、さりげなくかわいらしい敵としてADさんを登場させることもできるかなと思ったりしました。

――『ヤッタロー』では名刺交換のシステムもおもしろいと感じました。

鈴井名刺交換は有野課長自身がよくやられていますよね。番組内で出てくる行為のメタファーというか、モチーフが入っていることでお客さんはニヤリとできるし、そこまで番組に詳しくない方も1本のタイトルとして楽しく遊んでもらえると思います。『ヤッタロー』に限らず本作に収録されているゲームには必ずひとつオリジナル要素を入れているので、名刺交換は『ヤッタロー』のオリジナル要素として個性が出せる軸になったと感じています。

『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2』開発スタッフインタビュー。DSのリマスターに立ちはだかった“1画面化”の解決策と、完全新作レトロ風ゲーム『ヤッタロー』が要素詰め込みすぎな件に迫る

――ほかに開発で力を入れたポイントはありますか?

鈴井『ヤッタロー』に関しては新作のレトロ風ゲームで、ベテランも若手も混ざって開発しましたが、新作なのでやっぱりいろいろな意見がぶつかり合いましたね。テストプレイは20代~50代と幅広い層に体験してもらって、ゲームバランスもいまどき耐えられるギリギリのラインに合わせました。

 たとえば画面外に敵を投げた後に帰ってこないとか昔のゲームだとわりと“あった、あった感”のひとつだと思うんですが、それが若い世代からするとバグに見えてしまうんですよね。あとは→→、←←といった同一方向への方向キーの入力でキャラクターがダッシュというのも、若い方からしたら「何それ?」という感じでした。

杉山いまのゲームでは違和感があるところも、本作らしさを演出するようにあえて残していたりしますね。

鈴井とはいえストレスに感じるような部分は調整しています。前述した画面外に吹き飛ばされた敵は、本来は等速で戻ってくるべきですよね? でも『ヤッタロー』では画面外にいる敵は2倍速で立ち上がって戻ってくるようにしたり。そうやって、若い方にも受け入れてもらえるよう全体的に調整しました。

杉山新しいゲームを作る場合には、いまの人にとって遊びやすいゲームにするのがふつうですが、本作ではあえて昔の操作にすることによってその当時にゲームを遊んでいた人にとって「おおっ!」と感じていただくことを大事にしています。

鈴井すごく難しい取捨選択なんですよ。必殺技を使うとHPゲージを消費する仕様は、20代から総スカンを食らいました(笑)。HPをケチって必殺技がなかなか使えない感じが気持ちよくないという話があって、消費量を少なめにしたりしつつも、当時の感覚は残しておくようにしたり。『ヤッタロー』についてはモチーフにしているゲームが複数あるのですが、バランス調整という意味では悩ましいところが多々ありましたね。

――当時を知るゲーマーからすると、→→のダッシュも、必殺技で体力が減るのもすんなり受け入れられるんですけどね(笑)。杉山さんとしては、『ヤッタロー』の企画があがってきたとき、どのように感じられましたか?

杉山位置付け的にはレトロゲームだけど、いまどきのゲームを遊んでいる人たちにとって新しいものでないとおもしろく感じてもらえないんだろうなと思っていたので、名刺交換アクションというのは新しくていいなと思いました。それと、番組のファンの方はインディーズゼロさんが作るゲームに対してすごく興味を持ってくださっているので、私は基本的に鈴井さんの企画にお任せしようと思っていました。

鈴井とても信頼していただけてありがたいです。ただ『ヤッタロー』の企画を説明する会議の場では、一定の年齢層以上の偉い方は「うんうん」とうなずきながら聞いてくださっていたんですが、若い方にはぜんぜん受けていない印象でしたね(苦笑)。その反応を受けて、40代以上にしか受けないゲームにならないよう、親子2世代でゲームをやられている番組のファンや、カジュアルにゲームを遊ぶ若い子も楽しめるゲームにしないといけないとは強く感じましたね。

『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2』開発スタッフインタビュー。DSのリマスターに立ちはだかった“1画面化”の解決策と、完全新作レトロ風ゲーム『ヤッタロー』が要素詰め込みすぎな件に迫る
『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2』開発スタッフインタビュー。DSのリマスターに立ちはだかった“1画面化”の解決策と、完全新作レトロ風ゲーム『ヤッタロー』が要素詰め込みすぎな件に迫る

杉山あとは最初に企画を聞いたときに、たとえば学生設定であればヤンキー生徒が拳で戦うという構図がスッと入ってくるのですが、「はたしてサラリーマンが戦うとは?」みたいなツッコミがありました(笑)。

鈴井その宿題をいただいて、勧善懲悪の設定や理由を明確にしたのですが、本当に開発終盤までサラリーマンがケンカする意味を考えていました。昔のマンガだとみんな関係なくケンカしていましたよね。サラリーマンでもケンカする主人公もいたじゃないですか。

――そうですね。我々もサラリーマンが戦うという点には何の疑問も持っていませんでした(笑)。

鈴井最終的にたどり着いたのは、『ヤッタロー』の世界でこちらに攻撃を仕掛けてくる人たちは謎のチップを埋め込まれて洗脳されているから、襲いかかってくるという設定です。そのチップを取ることができれば仲よくもなれるし、心がちゃんと通い合うような挨拶がうまくいけば、名刺も交換してもらえる。それを「おかしいよね」と言われないようにすることをすごく模索しました。で、そういった設定の説明をゲームの冒頭に入れるとちょっと冗長になってしまいがちなんですけど、本作の場合はありの少年がガヤで「校長先生の挨拶かよ!」と突っ込みを入れてくれるので、いい感じにまとまったと思います(笑)。

――実際にプレイさせてもらいましたが、いわゆるベルトスクロールのアクションだけでなく、アイテムを買ったりとアドベンチャー的な要素もありますよね。

鈴井はい。『ゲームセンターCX』の記念すべき初回放送で挑んだタイトルが『たけしの挑戦状』なんですよね。それで、原点回帰的な意味も入れたい気持ちがありまして、『ヤッタロー』に『たけしの挑戦状』を感じさせるようなアドベンチャー要素も入れています。タイトル画面で左右に動けるのもオマージュのひとつですね。

 ほかにも言われないと気づかないような、さまざまな小ネタが入っているのですが、作っている最中はアドレナリンがすごく出ていて、このままずっと作り続けたらドット絵でオープンワールド的な大作アクション・アドベンチャーができるかもしれないと思っていました(笑)。

『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2』開発スタッフインタビュー。DSのリマスターに立ちはだかった“1画面化”の解決策と、完全新作レトロ風ゲーム『ヤッタロー』が要素詰め込みすぎな件に迫る

――公式サイトにも書かれていますが、エンディングはひとつではないと……?

鈴井はい。『ヤッタロー』はマルチエンディングになっています。初めてプレイされる方は、各ステージのボスを倒して通常のエンディングを迎えると思うのですが、そうすると、途中にあった気になる要素や、まだ語られていない謎が残ると思うんですね。そこで「こうしてみたらどうなるんだろう?」と、いろいろ試していただくことで、何種類かはエンディングを見られるのではないかと思います。ただ、ノーヒントですべてのエンディングを見つけられる人はごくわずかではないかと……。

 とはいえ、いまはインターネットやSNSもありますので、すぐに見つかるかもしれません。そういうものを見ていただきながらでも、ぜひ購入されたすべての方に絶対『ヤッタロー』の最後の最後まで体験してもらいたいです。これはすごく“リプレイ”としても意味があることだと思うので、単なるレトロ風ゲームが1本追加されたという以上の体験を用意したかったですし、自分のこれまでの人生で感じたゲーム体験の驚きやおもしろさを、改めて『ヤッタロー』に詰め込みましたので、長く楽しんでほしいですね。

――ちょっとレトロ風ゲームというボリュームのゲームではなさそうですね(笑)。

鈴井『ヤッタロー』はいちおう8メガビットロムのMMC5(基盤)を使ったゲームというモチーフになっているので、ファミコンでいうと最後期のタイトルというイメージです。そのあたりはゲーム内で表示される『ヤッタロー』の発売日を確認してもらうことでもわかると思います。当時を知るゲーマーの方であれば、そういった情報から「8メガビットロムを使っているということは、ここはあのタイトルがモチーフかな?」みたいな、裏の設定をイメージしていただいてもおもしろいかなと思います。

杉山あとは『ヤッタロー』に取り入れられているいろいろなゲームの要素は、エンディングを複数見るヒントにもなっています。プレイしていると「これはあのゲームのあの部分っぽいな」と思えるところが多々あって、「だったら、『ヤッタロー』でも同じテクニックや攻略法が使えるのでは?」と推測してみていただけると、何か起こるかもしれません。

鈴井僕は自分で作ったので、どうヒントを出していいか難しいのですが……本作のメニュー画面には『ヤッタロー』用のホワイトボードが用意されていたり、説明書もあったりしますので、そこもちゃんと見ていただけるといろいろと想像が膨らむのではないかと思います。

――新要素にしても、ちょっと盛りだくさん過ぎますね……。

杉山『ヤッタロー』の企画説明の会議で私が渋い顔をしていたのは、資料やサンプル画像があまりに膨大で、「いまからこの規模のゲームの開発が間に合うのかな……?」と不安に思っていたからです(笑)。

渡邊僕も「これ間に合うの?」と思っていました(笑)。

鈴井当の本人である僕も、間に合うかどうか心配に思っていました(笑)。

杉山でも、結果的に間に合ってよかったです。『ヤッタロー』だけでもかなりの時間遊べるようになっていますし、深みがあって遊び応え十分です。

鈴井『ヤッタロー』は完全新作のレトロ風ゲームということで、さらっと遊んで終わりだとお客さんに満足してもらえないのではと考えていました。それだったら、やりたいことを全部詰め込めるベルトスクロールアクションにして、さらにサラリーマンっていう設定にすれば舞台に広がりも持たせられるんじゃないかと。ぜひ最後の最後まで遊んでみてください!

次回作は『ゲームセンターCX』30周年時に発売⁉ 開発スタッフが思い描く『有野の挑戦状』の未来

――今回はせっかくの機会なので、ファミ通.comで取材記事を掲載した『ゲームセンターCX』で放送されたコーナー“ゲーム化計画2023”や、有野課長のインタビューについての補足説明というか、開発陣から見たお話も聞かせてください。まず“ゲーム化計画2023”では、有野課長から「ふたりプレイでいっしょに遊べるといいのでは?」という話が出て、そこから仕様を追加したとのことでした。ふたりプレイの実装って、急きょ動いて間に合うものなんですか?

鈴井協力プレイについては、可能性としては考えていましたが、時間的にきびしいと感じていた要素でした。ですが有野課長がおっしゃってくださったので、「これはちょっと本当にやるしかないな」と迷いが吹っ切れました。

 もともとCPUとしてありの少年がゲーム内の2P側を動かす仕組み自体はありました。この入力システムを1Pの操作、2Pの操作に落とし込めば協力プレイが実現できるというところで、最後にMUTANさんとがんばって実装しました。ただ、『ラリーキング』をハンドルコントローラーで遊びたい……という有野課長の提案は、コントローラーの傾きを検出して出てくるアナログな数値情報を毎フレーム適切な操作情報に変換して操作バランスを取る……といった仕組みが必要になりまして。これは本当に考えたこともなかったので、ちょっと無理かな……と(笑)。

『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2』開発スタッフインタビュー。DSのリマスターに立ちはだかった“1画面化”の解決策と、完全新作レトロ風ゲーム『ヤッタロー』が要素詰め込みすぎな件に迫る

――あの場で追加の仕様や変更などのお話がけっこう出たりしますが、杉山さんとしてはヒヤヒヤですよね。

杉山はい、どんなアイデアが出てくるのかまったくわからないですし(笑)。

鈴井できないことに対してははっきりとおっしゃっていたので、杉山さん、さすがだなと思って見ていました。

杉山あそこで曖昧にすると私たちの首を絞めるので……(笑)。

鈴井そうですね。有野課長もまず言ってみるのがお仕事だと思うので、僕たちも受け止められるものはちゃんと受け止めたいなと思っていました。

――『ヤッタロー』のセリフは有野課長のひとり大喜利のような感じになっていましたが、その後に有野課長からは別途、キャラクターやゲームに合わせたセリフを送っていただけたのでしょうか?

鈴井それがちょっと違うんですよ。後から送っていただいたのは、収録時に大喜利で描かれたイラストのブラッシュアップ版でした。より上手……というか、かっこよくなったイラストをいただきました。でも、最終的には本番で描いたものとブラッシュアップ版の両方を使わせてもらいましたので、ゲーム内には全部入っています。

 セリフについては、“れいてつひしょ”と“やとわれゴロツキ”のもの、それぞれ収録時に考えていただいたもの2個ずつ、ほぼそのまま採用しています。あとは、これは放送では使われていなかったのですが、『ヤッタロー』の破壊できるオブジェクト案で有野課長が出してくれた、ビールケースや板2枚の斜め立て看板も採用されています。

――当時の町並みを再現するうえで、有野課長が出していたアイデアですね。

鈴井はい。あとは収録後に、有野課長が収録中に言いたかったゲームのネタはこれだったという内容をご連絡いただきました。それが“敵に追われながらジャンプして駆け抜けていく映像”みたいなものでした。そのままではちょっと難しかったのですが、『ヤッタロー』の中で近しい遊びを再現した場所があるので、そこも実装できたかなと思っています。

――ちなみに、有野課長のインタビューでは、絵描き歌のメロディーに関して鈴井さんと攻防があったとのことでしたが?

鈴井あれも僕側からだと話のニュアンスがちょっと違っていて(笑)。絵描き歌を入れようっていう話については、“ゲーム化計画2023”の収録時に有野課長は何気なくアイデアのひとつとしておっしゃったのですが、音声収録時には忘れていたっぽいんですね。でも僕のほうは収録時の有野課長の言葉を真正面から受け止めていたので、若手プランナーの岡田さん(岡田ひなた氏)といっしょに作った絵と歌詞を音声収録の現場に絵描き歌として持っていった。そういった認識のズレはあったのですが、有野課長はすごく一生懸命に歌ってくださって、本当にうれしかったです。

 で、絵描き歌のメロディーに関しては、絵描き歌自体は作っていったんですけど、伴奏が入っているような音声データは用意していなかったんですよ。そこでなんの音もないのは失礼だと思ったので、僕が仮歌をちょっと歌って「こういう感じです」と有野課長にお伝えしたら、有野課長がブラッシュアップして歌詞や歌いかたを調整してくださったという話です。でも僕は有野課長が調整した場にはいなかったので、「なんか違いますよ」と言ったら「いや、変えたんや」と。

 でもけっきょく、その後に僕の仮歌をベースにしたバージョンも歌っていただき、2バージョンの絵描き歌ができ上がったので、両方ともゲームに収録しています。ゲーム内ではパッと聞けるというよりは、見つけていただく感じになっていますので、ぜひとも有野課長の歌を見つけてください。

――有野課長は「鈴井さんの歌もゲームに入れてほしい」と言っていましたが……。

鈴井ゲームに入れるのはとんでもないですよ!(笑)。いや、本当に下手なので、とても入れるわけにはいかない。

杉山ゲーム外のどこかでは聞けるかもしれませんね(笑)。

――先日から公式サイトで実況配信用の素材配布が行われていますけども、どういった配信が見たいですか?

杉山有野課長は“ゲーム実況の祖”ですので、ゲーム実況されている方の中にも、番組や有野課長のファンもたくさんいらっしゃいます。その方々に配信してもらえればうれしいですね。このゲーム自体が、自分でプレイしているとありの少年がツッコミを入れてくれる作りになっているので、実況向きなタイトルだと思っています。手軽にコラボしている気分を感じられますし、ぜひ配信で遊んでいただきたいという気持ちで素材の配布を行っています。それぞれのレトロ風ゲームはシンプルなルールになっているので、視聴者の方もゲームの内容がわかりやすいと思います。

鈴井ぜひありの少年とかけ合いをしてもらいたいですね。「そこちゃうやろ」とツッコまれたら、「いやいや、ええんや!」みたいに、ありの少年と会話してほしいです。とくに『ヤッタロー』はこだわりすぎてしまい、ほかとは比較にならないくらいのボイスが入っています。細かいところに条件が設定されていて、ありの少年のリアクションがいっぱいありますので、それに対していっぱいリアクションしてほしいですね。

 あとありの少年のツッコミって、ツッコミの内容が結果的にヒントみたいなことにもなっていたりして、ゲームのシステムとして便利だなと改めて思いました。ありの少年がボイスで「右なんちゃう?」とか「いよいよボスやな」とかしゃべるので、それがお客さんにとっては自然な形でヒントになるし、演出としてもすごくいい形になっているので。

渡邊ボイス収録には僕も同席させていただいたのですが、インディーズゼロさんの作った台本がすばらしいんですよね。ゲームの進行をサポートするようなセリフが数多くあって、有野課長がそれをちょっと言い換えてみたり、バリューションを増やしたりしてくれる。ゲームのことをしっかりイメージしながらしゃべってくれているなと感じました。そういう部分でもよくできた作品だと思います。

鈴井有野課長の収録は、だいたい持っていった収録台本の倍以上の数になりますね。それと今回は有野課長だけではなく、いろいろなスタッフの方にもボイス収録に協力してもらいました。ゲームを起動するときに表示される挑戦部屋に入るシーンで流れる、ガヤとして使わせてもらっています。「本番始まるよ」とか「カメラ回して」、「モニター電源入ってる?」、「OKじゃあスタート」、「有野課長入られます」みたいなボイスですね。スタッフの方々からは「ふだんはこんなこと言わない」と言われましたが(笑)。でも快く協力してもらった結果、ゲームを遊びきるとガヤの内容が変わる仕組みを入れられたくらい、ボイスを収録してもらいました。誰がどこを言っているか聞き取ってみてください。

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――少し気の早いお話ですが……たとえば25周年や30周年などを迎える際などに、新作を作れるとなったらやってみたいですか?

鈴井僕は「やりたいですね!」としか言いようがないですね(笑)。もうそのころには1980~90年代のゲームは古典になっていそうで、想像がつかない部分が多いですけど。ただ今回、杉山さんや渡邊さんとやれたことでひとつ希望がつながったのは、若い方が継承してくださっていることですね。僕はひょっとしたら30周年のときには業界にいない、定年退職しているかもしれない。

 これってわりと冗談ではなくて、『有野の挑戦状』の音楽やSEはB.B.スタジオの山田さん(山田耕治氏)というベテランの方を中心に、16年前に作ってもらったんですが、そのデキが本当にすごくよかったんですよ。だから今回も山田さんたちにお願いして『ヤッタロー』などの新規部分のBGMを新しく作っていただきまして、これまためちゃくちゃいいんです。イメージした以上のものを作ってくださって、現場も最後の最後でたいへんだった時期にあの曲を聞いて、やる気をもらっていました。

 ただ、その山田さんも60歳を超えていらっしゃるそうで。16年前から『有野の挑戦状』に携わっている方は、もうそんな年齢になっているんですよね。そんな感じで元の開発陣はだんだんベテランになってしまう課題があるんですが、番組が25周年、30周年を迎えたとしても、杉山さんや渡邊さんはまだまだとてもがんばって、さらにキャリア積まれているでしょうから、そこでいいものを作ってくれたらいいなと思います。もちろん、できることなら僕もいっしょにやりたいですね。

杉山本作が大勢の方にプレイしていただければ、未来につながっていくかなとは思います。そのときは鈴井さんが定年退職していたとしても引っ張り出します(笑)。

――DLCという形のプラスアルファもいいですよね。1本ずつなら22周年とか23周年のタイミングで追加したりできませんか……?

鈴井それはもう、バカ売れしたらですよね。やっぱり今回のリマスターもたくさんの方の応援があったからこそ実現できたものなので、同じような熱量の応援があれば続けられると思います。バンダイナムコエンターテインメントさんの他タイトルでも、発売から4年経ってもDLCが出ているものがありますから。でもそこはやっぱり売れているからこそ、お客さんの応援があるからこそ、ということだと思います。もちろん、僕もゲーム業界を盛り上げたいですし、こういう形でも番組という形でも、ゲーム業界全体が盛り上がることがあれば、何歳になっても何でもやりたいと思っています。

――最後に発売に向けて、おひとりずつメッセージをいただけますでしょうか。

渡邊番組もニンテンドーDS版のゲームもすごく名作だと思っていて、熱量のあるファンの方がいっぱいいる作品です。今回、そういう作品にインディーズゼロさんといっしょに関われて、非常に光栄に感じています。熱量のあるファンの方々へ向けたタイトルになるので、ちょっとどういう風に遊んでいただけるのか、どんな感想が出てくるのかドキドキもしています。今回のインタビューでは、いろいろなこだわりの片鱗をお伝えできているかなと思いますので、ユーザーの方々にはそういったところもじっくり見て楽しんでいただけるとうれしいです。

鈴井皆さんから遊びたいとリクエストをいただいていたものを、やっと今回実現できて、しかも番組20周年のタイミングで発売できることを心の底からよかったと感じています。ちゃんと作りきれてよかったですし、こうやって今日インタビューでいろいろとお話できるのもすごくありがたい体験です。ゲームファンのお客さんの年齢層も広がってきていますので、幅広く楽しんでもらいたいです。業界に携わる一員としては、こうやって歴史を残すような形で昔のゲームの遊びを伝えられるゲームソフトに貢献できたのはうれしいですし、こういうソフトの必要性は絶対にあると思っています。

 『ヤッタロー』については、いっぱいお話させてもらったので伝わっていると思いますが、番組ファンの方はもちろん遊んでいただきたいですし、1980年代のゲームが好きな人はこの1本だけでもいいから、プレイしてほしいと思っています。新作と明確にうたっているのは『ヤッタロー』なのですが、じつはゲームの中で見られるスタッフクレジットも、めちゃくちゃおもしろい新作シューティングゲームになっています。これはMUTANさんと最後の残り時間を使って作ったもので、お手玉のように弾を外さないようにコンボをつなげていくゲームです。ゲームプレイ中に『1』、『2』に出てきたドット絵がすべて出てくるものになっていて、自分の中ではとてもハマるゲームになったと思っているので、それだけでもくり返し遊んでもらいたいですね。

杉山タイトルにも『ゲームセンターCX』と入っているので、番組を知らないと楽しめないんじゃないかと思っている方もいるかなと思いますが、作り込まれたレトロ風ゲームをたくさん遊べるゲームですので、番組を知らない方にもぜひ手に取っていただきたいと思っています。そして、遊んでいただいたら感想をSNSなどで“#gccxゲーム”のハッシュタグをつけてコメントしていただきたいです。先ほどお話にもありましたように、そういうファンの方の声がつぎにつながっていきます。制作側はそういう意見を絶対に読んでいますし、つぎはこうしようとか、こういうものを作ってみようか、といったアイデアにつながっていきます。皆さんの感想で新たな展開が生まれていきますので、感想をお待ちしております!

――本日はありがとうございました!

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